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グローバル大手はどう動いているのか
近年の中国経済減速につれて、中国政府は実質的に国産IT製品が優遇される政策を打ち出した。とくに、2011年のエドワード・スノーデン氏による「PRISM」事件は、国家の安全保障の観点から、セキュリティ面での規制・統制を強化。同時に、ローカルIT企業も成長し、ローカル市場での競争は激化し、外資系IT企業はローカルビジネスをやりづらい状況だ。
しかし、IDC中国は、「中国政府のセキュリティ重視と国産化政策は、外資系IT企業の市場シェアに影響をもたらすものではあるが、意図的に外資を抑圧するためのものではない」と指摘。さらに、「外資系IT企業はビジネスモデルの転換によって、中国ローカルビジネスを成功に結びつけることができる」と分析している。中国政府の目的はあくまで安全保障であり、「中国のセキュリティリスクを向上できる」「外資系IT企業の技術をローカル企業に移転して技術力を高める」「ローカルIT企業のグローバル市場への進出を支援する」という観点に立てば、中国企業にとっても、外資系IT企業の手を借りることは不可欠だというのだ。
具体的には、下記の六つのモデルで外資系IT企業はローカルビジネスを成功に結びつけられる。典型例を踏まえて解説していこう。
1 OEM・合弁モデル 相手先ブランド名で販売することで、外資系IT企業の製品だということを隠して流通させる。または、ローカル企業との合弁事業や合弁会社の設立によって、効率的に自社製品を流通させるモデル。
典型例はEMCだ。同社は、レノボと提携し、OEM供給を通して、ミドル・ローエンド製品を中国ローカル市場に送り込んだ。さらに、レノボとの合弁会社、LenovoEMCを設立し、入門級NASシリーズ「Iomega」の生産・製造をレノボに委託し、「Think Server」生産ラインと統合させた。また、デジタルチャイナとの合弁会社設立によって、広くユーザーへ流通させた。
2 IP・技術移転モデル IP(知的財産権)・自社固有技術の一部もしくは全体を公開し、中国ローカル企業のカスタマイズを加えることで、“外資系”から逸脱して製品を供給させるモデル。
典型例はIBMだ。普華基礎軟件など、複数のローカルIT企業と協力協定を締結し、パートナーに対して「IBM Power」プロセッサのコア技術資料を提供している。パートナーは、Powerのカスタマイズを通して、中国政府が“自主制御可能”とする製品として販売できる。中国政府が心配するセキュリティリスクを回避すると同時に、IBMはPowerのエコシステムを構築できるWinーWinのモデルだ。ただし、技術情報の提供具合によっては、コア技術の流出につながる懸念もある。
3 戦略的投資モデル 中国市場への大規模な投資や、ローカル企業への出資を通して、自社製品を優先的に販売してもらうモデル。
典型例はインテルだ。同社は、地場IT大手の紫光グループの展訊通信、鋭迪科微電子に90億元を投資して、株式20%を獲得した。その後、紫光はインテルの技術ライセンスを取得し、自社製品の開発面でインテルから強固な支援を得た。展訊通信と鋭迪科微電子は、インテルの「Atom」プロセッサを搭載したモバイル製品を拡販している。
4 株式譲渡モデル 中国現地法人の株式51%以上をローカル企業へ譲渡して、“外資系”から“ローカル系”のIT企業へと変貌するモデル。
典型例はヒューレッド・パッカード(HP)だ。同社は15年5月、中国の100%子会社であるH3C Techonologies(杭州華三通信技術)の株式51%を紫光通信に売却した。買収後、紫光はH3Cの筆頭株主になり、H3Cはローカル企業に転換。これによって、ローカル市場に参入しやすくなった。最近では、トレンドマイクロが中国現地法人を亜信科技(AsiaInfo)に売却し、社名を「亜信安全」に変え事業を再スタートさせている。
5 広域連携モデル 幅広く中国の政府系機関やローカル企業とパートナーシップを結び、自社製品のエコシステムを構築するモデル。
典型例はデルだ。同社は今年9月、「デル中国4.0」と題した新たな中国市場戦略を発表した。これにもとづき、今後5年間で、中国市場に1250億米ドルを投資する。同時に、デルは金山軟件(KingSoft)とも協業。さらに、11月には中国科学院自動化研究所や北京電影学院との協業を発表し、パートナー戦略を加速させている。また、デルはLinuxディストリビュータの中標麒麟との協業でも有名だ。中標麒麟によると、デルが中国で販売するサーバー製品の40%程度に、同社のLinux OSをプリインストールしている。
6 国有企業改革支援モデル 大規模な案件が期待できる中国国有企業のビジネスに参入し、改革を支援するモデル。
このモデルに関して、IDC中国はいまだ典型モデルは出ていないと指摘している。ただし、今年9月13日、中国共産党中央委員会・国務院は、「国有企業の改革深化をめぐる指導意見」を公表した。これには、国有企業の改革にあたって、外資系企業の力を借りる旨が記載されている。
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