シネックスインフォテック
小学校高学年以降は学習にキーボードが必須

浜野 崇
部長 ディストリビュータのシネックスインフォテック(松本芳武社長&CEO)では、文教市場向けにPC、タブレット端末、電子黒板、無線LANルータ、各種機器を収めるカートなど、あらゆる製品を取り揃える。なかでも、14年7月に日本市場に投入されたグーグルのノートPC「Chromebook」や、マイクロソフトのタブレット端末「Surface」など、キーボード付のデバイスの販売が好調だ。Chromebookは小中学校・高校、Surfaceは大学からの引き合いが多いという。
キーボード付端末の売れ行きが好調である背景には、「アクティブ・ラーニングに利用するデバイスとしてのタブレット端末の利便性に限界がある」(浜野崇・プロダクトマネジメント部門マーケティング本部サービスビジネス部長)からだ。小学校低学年まではタブレット端末でもさほど問題ないが、高学年以降になると、資料を作成して発表するなどの機会が増え、キーボードのないタブレット端末では途端に不便になってくる。実際に、タブレット端末を授業に取り入れている小学校の教員から、「タブレット端末はビューアにしかならなく、生徒に創造性をもたせるようなことをさせようとする際には向かないとの声があった」そうだ。
そこで同社では、低価格なPCや、タブレット端末とキーボードなど、ディストリビュータならではの豊富な製品ラインアップを生かしながら、ユーザーの要望に合った製品の提案活動を行っている。
とくに、Chromebookについては、使ったことがない教員が多いため、学校に貸し出し体験してもらうプログラムを昨年10月に始めた。低価格でセットアップが早く、効率がいいなどの理由で評判がよく、「実際に体験してもらうことで効果を実感してもらえる」。また、米本社では教育にITを活用した事例を数多くもっているため、販売店とともに学校を訪れ、事例の紹介を行うなど、「教育という市場に対しては、販売店を経由して販売する通常のディストリビューションモデルとは違うアプローチをとっている」ことで、受注に結びつけているという。
シネックスインフォテックとしては、ビジネスのターゲットとして小学校から大学まで幅広くみていながらも、現段階では小学校からの導入が少ないそうだ。というのも、公立の学校は、まだITを活用できるインフラが整っていないところが多いからだ。とはいえ、20年に向けてインフラが整っていき、市場が広がっていくと想定する。同社は、このスピードを上回るかたちで、ビジネスを加速させていく構えだ。
トップベンダーは市場をこうみる
内田洋行
文教は“夢の市場”ではない
先進事例の課題踏まえ地道な提案を

大久保 昇
社長 政府が、20年度を目標に、初等・中等教育の現場で生徒・児童一人につき1台の情報端末配備を推進していく方針を示したことから、近年、多くのITベンダーが成長領域として文教市場に注力している。ただし、文教ITのトップベンダーである内田洋行の大久保昇社長は、「“濡れ手で粟”の夢の市場というわけではない。文教向けのIT市場は、現実的な課題を踏まえた地道な取り組みが求められるフェーズに入っている」と釘を刺す。
総務省が10年度に開始した「フューチャースクール推進事業」を嚆矢として、後に文部科学省も同事業と連携し、国は教育現場のIT活用のモデルづくりを進めてきた。児童・生徒一人1台にタブレット端末、全普通教室に1台のインタラクティブ・ホワイトボード(電子黒板)、無線LAN環境の通信ネットワークなどを配備し、授業を中心に日常的にITを活用し、よりパーソナライズした学びの手法の確立や、グループ学習の進化などを目指した。こうした動きがITベンダー側の期待を生んだわけだが、大久保社長は、「確かに文教向けのタブレット端末の出荷はうなぎ上りだし、電子黒板やドキュメントカメラといった周辺機器も順調に伸びている。しかし、これは従来のデスクトップ/ノートPCなどが置き換わっただけで、教育現場のIT投資額そのものはそれほど増えていない」と指摘する。
その背景には、「フューチャースクール的」な授業の現場におけるIT活用促進の動きが、キャズムに到達してしまっていることがある。
「アーリーアダプタの取り組みによって、学力の向上効果など、教育現場のIT化によるメリットが実証された一方で、ネットワークやサーバー、デバイスなど、コストをあまりにも削減しすぎるとトラブルが頻発することもはっきりした。チャイムが鳴ったら数百人の生徒が一斉にタブレット端末を使い始めると考えれば、インフラ、ネットワークの利用環境は、学校のほうが会社よりもシビアだといえる。文教IT市場は、アーリーアダプタのおかげで顕在化した課題を踏まえ、先生や生徒がストレスなく使えるようなIT環境を総合的に提案するとともに、立ち上げ支援の人的サービスにも力を入れていかなければならない」(大久保社長)。
内田洋行は、すでに豊島区や姫路市などで、行政と教育機関のITインフラやネットワークの一体的な設計・整備を受注し、教育現場のIT環境最適化に取り組んでいる。大久保社長は、「インフラ、ネットワークに加え、教育コンテンツ配信プラットフォーム『EduMall』のような商材もしっかり育ててきた。情報端末が一人1台に配備される時代にふさわしい使いやすさを念頭に、教育現場の実情をみながら継続して製品をブラッシュアップするとともに、パートナーとも連携し、教育現場のIT化を進めることでどんな効果があるのかを周知していく取り組みもしっかり進めたい」と見通しを語る。
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