大手外資系ベンダーが、相次いで“クラウドファースト”の時代を見据えた新たなパートナー戦略を発表している。あらゆるITベンダーにとって、クラウドはもはや顧客に必ず示さなければならない選択肢となった。それでも、ハードウェアの販売を伴わないためオンプレミスの案件と比べて売り上げが減るという構造的な課題を乗り越えたとは言い難く、パートナーのクラウドへのシフトを妨げている状況がいまだに続いている。しかしここにきて、市場を牽引する大手外資系ベンダーが、「クラウドをどう売るのか、売らせるのか」という問いにようやく答えを出そうとしている。(取材・文/本多和幸)
日本オラクル
クラウド特化の新パートナープログラムを立ち上げ
1年で500社のクラウドパートナー網構築へ
●契約×認定でパートナーの実力を定義 日本オラクルは今年2月、クラウドに特化した新しいパートナープログラムを立ち上げた。米オラクルが昨年10月に米サンフランシスコで開いた年次イベント「Oracle Open World(OOW) 2015」で予告したとおり、グローバルでほぼ一斉にローンチしたかたちだ。日本オラクルでパートナー戦略を統括する椎木茂・アライアンス事業統括副社長執行役員は、「ここまで包括的なクラウドビジネス向けのパートナープログラムを整備したのは、オラクルが初めてでは。さまざまなパートナーの多様なビジネスモデルに対応しており、日本オラクルも直接的、間接的にパートナーのマーケティングを支援することになり、間違いなくビジネスの機会は増える」と自信をみせる。
新プログラムの名称は、「Oracle Partner Network(OPN) Cloud Program」。上から「Global Elite/Elite」「Premier」「Select」「Standard」の四つのレベルに分かれた認定プログラムだ。当然、上位カテゴリほど認定取得の要件は厳しいものの、ディスカウントレートやオラクルによるマーケティング支援などで優遇される。
オラクルのパートナー網であるOPNは、従来、「DIAMOND」「PLATINUM」「GOLD」「SILVER」のいずれかのカテゴリにパートナーを分類し、契約を交わしてきた。DIAMONDから順に、より多くのオラクル製品について専門的な知識・ノウハウをもち、かつリソースも充実しているパートナーということになる。今後、オラクルのクラウドパートナーは、この契約レベルとOPN Cloud Program認定レベルの掛け合わせで実力が定義されることになる(図参照)。
既存のOPNパートナーは、OPN Cloud Programの認定を取得するだけでクラウドパートナーとしてのビジネスが始められるが、まったくの新規パートナーがクラウド商材を扱う場合は、OPNパートナーとしての契約を結んだうえでOPN Cloud Programの認定を受けなければならない。一見、新規パートナーの参入障壁が高いようにも思えるが、同社はクラウド商材を呼び水として新規パートナーを開拓することも強く意識しており、契約プログラムに新たに初期費用なしで参加できる「CLOUD REGISTERED」というカテゴリも設けた。例えばデジタルマーケティングソリューションのマーケットでは、一般的に、伝統的なSIerよりも広告代理店やマーケティングコンサルタントなどが販社として積極的に動いている傾向にある。そうした非IT系企業が、実際に「CLOUD REGISTERED契約×Standard認定」の新規パートナーとしてオラクルのデジタルマーケティングソリューション「Oracle Marketing Cloud」を扱い始める例も出てきている。
●待ち望まれる国内データセンター 2020年までに「ナンバーワンクラウドカンパニーになる」という目標を掲げている日本オラクルだが、クラウド商材も充実の度合いを増している。SaaSベンダーとしてのビジネスは、すでにセールスフォース・ドットコムに次ぐ世界2位の規模になっているという。直近では、SCMもSaaSのラインアップに加え、日本でもローンチした。PaaSの「Oracle Cloud Platform」も、昨年、国内で正式に提供を始めている。米オラクルのラリー・エリソン会長兼CTOは、「SaaSとPaaSを合わせたビジネス規模では、現会計年度でSFDCを超える」と意気込む。
Oracle Cloud PlatformのSIパートナーやISVパートナーも、公表されている範囲で数十社の規模になっているし、2月には、「Oracle ERP Cloud」や「Oracle Planning and Budgeting Cloud Service」について、パートナーがテンプレートなどを提供し、国内での拡販を強化するという発表もしている。日本オラクルは、OPN Cloud Programの立ち上げを機に、クラウドパートナー網の拡大をさらに加速させたいと考えている。
具体的な目標としては、今後約1年間、2017年度(2017年5月期)以内をめどに、計500社のOPN Cloud Program認定取得済みパートナーを整備する(図参照)。1月末の段階で、国内のOPNパートナーは約2000社で、オラクルとクラウドの再販契約を結んでいるパートナーは70社程度だった。この既存OPNパートナー2000社から、まずは300社にクラウドビジネスを本格的に手がける体制を整えてもらうという。合わせて、新規パートナーも200社獲得する方針だ。クラウドと親和性の高いビジネスをしている既存パートナーのグループ会社や地域販社、さらには、これまでオラクルとつきあいがなく、他のクラウドサービスベンダーのパートナーとしてすでに活動しているクラウドインテグレータやSaaSベンダーなども取り込んでいく。
ただし、気になるのは、国内データセンター(DC)の稼働に関する情報が途絶えてしまっていることだ。日本オラクルは、一部のSaaSではすでに国内のDCを利用しているが、当初は、PaaSやERPなどの基幹系アプリケーションの提供も含めて、国内のエンタープライズITのニーズに応えるためのDCを2015年中には開設する予定だった。「やはり国内DCがなければ、お客様にクラウドを本格的に提案する流れにはならない」と漏らすパートナーもいる。国内DCの一刻も早い稼働が、パートナー戦略の観点からも重要なのは間違いない。
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