Special Feature
急速に売り上げを伸ばす ハイパーコンバ ージドインフラ 企業のIT基盤の主流となるか
2016/06/23 21:33
週刊BCN 2016年06月20日vol.1633掲載
汎用サーバーとソフトウェア技術の組み合わせによって、専用ストレージ装置なしで仮想化基盤を実現する「ハイパーコンバージドインフラストラクチャ」が、ここ1~2年で急速に認知を広げている。最近では売り上げも急拡大しているというハイパーコンバージドインフラだが、「低コストでシンプル」という売り文句は本当なのか。販売現場の声を通じて、製品の特質に迫った。(取材・文/日高 彰)
●仮想化用の統合インフラに商機
「前年比で数倍の引き合いがある」「これまで取引がなかった業種の顧客にも複数の導入が決定した」
SIerや販売代理店に話を聞くと、2~3年前は製品カテゴリ自体の認知すらされていなかったハイパーコンバージドインフラが、最近急速に認知を広げ、採用も進んでいるという。
どのようなメリットのある製品なのか、なぜ今普及が進んでいるのかの前に、「ハイパーコンバージド」というキーワード自体、IT業界のなかでもまだ十分に浸透している言葉とはいえないようなので、一度整理をしておこう。
ハードウェア資源の有効活用や、管理・運用の効率化、新規サービス投入の迅速化などを目的とした、仮想化技術の利用は業種・企業規模を問わず進んでいる。しかし、サーバー、ストレージ、ハイパーバイザーなどを個別に調達し、ラックに配備して各機器間を接続、ソフトウェアをインストールし、仮想化基盤としての動作を検証するのはかなりの手間だ。仮想化基盤のうえで動作させるアプリケーションこそがビジネス上の価値を創出するにもかかわらず、基盤づくりの部分に多くの費用と時間が必要になるのは本末転倒だ。また、トラブルが発生した場合、基盤を構成する各コンポーネントのうち、どこに問題が起きているのかをユーザーや担当SIerが特定しなければ、メーカーのサポート窓口に問い合わせをすることもできない。
このような問題を解消するために登場したのが「コンバージドインフラストラクチャ」だ。「垂直統合型インフラ」などとも呼ばれ、サーバー、ストレージ、ネットワーク、ハイパーバイザーといった仮想化基盤に必要な要素をワンパッケージにした製品で、メーカーによって事前に動作検証済みの構成であるため、SIerやユーザーが個別に検証を行う必要がない。また、ハードウェアのパフォーマンスを最大限引き出すとともに、安定的な稼働が保証されるという面でも、メーカー自らが検証した推奨構成であるコンバージドインフラは有利だ。構成要素一式に対してメーカーがサポートを提供するため、例えばストレージ機器のファームウェアの更新などを行う場合も、サーバーなど他のコンポーネントとの動作に不具合が生じる心配がない。
インフラの構築や運用よりも、収益を生み出すアプリケーションの投入に投資の重点をおきたい、と企業が考えるのは当然であり、コンバージドインフラは昨今のITニーズにマッチした製品として市場を確立。グローバルの大手ITベンダーはもちろん、国内電機メーカー各社のIT事業部門でも、自社のサーバーやストレージ製品を組み合わせたコンバージドインフラに力を入れている。
●基盤となるのはSDS技術
ハイパーコンバージドインフラは、コンバージドインフラの一種ではあるが、その名の通り、従来のコンバージドインフラからさらに構成要素の統合・集約を進めている。最も大きな違いはストレージにあり、従来用いていた専用ストレージ装置を廃し、複数のx86サーバーにそれぞれ内蔵されたHDDやSSDのみを使ってストレージ機能を実現する(図参照)。サーバー上では仮想マシンに加えて、ソフトウェア定義型ストレージ(SDS)が動作しており、データは各サーバーの内蔵ストレージで保存すると同時に、他のサーバー上のストレージにも分散して書き込むことで冗長性を確保している。
コンバージドインフラでは、動作保証やサポートがベンダーから一元的に提供されるというメリットはあるものの、物理的な姿は従来のITインフラと同じで、サーバーや専用ストレージ機器といった各コンポーネントが個別に存在することに変わりはなかった。これがハイパーコンバージドインフラになると、ストレージが内蔵されるため、ラックに存在するのはサーバー(とイーサネットスイッチ)のみになるので、構成が大幅にシンプルになる。
また、ビジネスの成長に応じてより多くの計算性能や記憶容量が必要となった場合、ハイパーコンバージドインフラではサーバーの台数を追加していくだけでスペックを拡張していくことが可能で、これは従来のコンバージドインフラにはない大きなメリットだ。サーバーの追加時や、ファームウェアやハイパーバイザーのアップデート時も、複数のサーバー間で自動的に負荷を分担しながら順次更新を行うため、サービスにダウンタイムが発生しないという特徴もある。
●中小企業や拠点単位でも導入可
エンタープライズシステムに求められるストレージ機能を、専用のハードウェアではなくソフトウェアによって実現するSDSは、決して新しいコンセプトではない。しかし、従来のSDSはデータセンターの運用自動化など、大規模なインフラを扱う技術者の業務を効率化するための技術としての採用が中心だった。それに対してハイパーコンバージドインフラは、SDSとサーバー仮想化に必要な技術をアプライアンスの形でワンパッケージにし、専門知識をもつインフラ運用担当者を置けない組織でも、クラウド感覚で簡単にITリソースを利用できる環境の実現を目的としている。
また、基本的にラック1本単位での導入となるコンバージドインフラに対し、ハイパーコンバージドインフラの最小構成は2~3U程度で、価格も数百万円から。このクラスでも、数十のサーバーの統合や、100ユーザー以上のVDI基盤として十分対応可能な性能を有しており、構成がシンプルなことから中小企業や、支社・店舗・工場といった拠点単位で導入するITインフラとしても適している。
ハードウェアベースのストレージ装置をソフトウェアに置き換えることに関して、当初は信頼性や性能面での不安を感じる顧客も少なくないようだが、最近では金融機関を含む大企業や、大手サービス事業者でもハイパーコンバージドインフラの採用が進んでおり、多くの導入事例が積み重ねられたことでユーザーの抵抗感も和らぎつつあるという。むしろ、ハイパーコンバージドインフラのアーキテクチャには、構成がシンプルになることによってトラブルが低減される、サーバーとストレージの距離が縮まることによって性能が向上する、といった期待の側面を見出すことも可能だ。
ITインフラにかける手間と費用を極力減らしたい、という要求はより切実なものになっており、日本企業の間でも、ハイパーコンバージドインフラのような新しい技術の導入に対するハードルは下がりつつある。当初は多くの企業で導入に懐疑的だったクラウドコンピューティングが、最近では基幹系システムにまで利用されているのと似た構図になってきている。 ページ数:1/1 キャプション:
●製品価格よりもTCOと投資最適化にメリット
近藤智基
課長 ハイパーコンバージドインフラではストレージ機器が不要となるため、従来型のインフラに比べ低コストで導入できるのではないか、と期待するユーザーは多いという。本当に安くなるのかを各社に聞くと、確かに「価格対性能比という観点では有利」と答えるベンダーがほとんどだ。ただし、製品の価格だけで導入が決まることもないという。
ハイパーコンバージドインフラ製品の草分け的なベンダーで、現在も市場を牽引しているのは米ニュータニックスだが、2012年に日本市場で初めてニュータニックス製品の取り扱いを開始したのが日商エレクトロニクスだ。同社ITプラットフォーム営業部 営業推進課の近藤智基・課長は、「ラックスペースや消費電力の削減、運用負荷の軽減、メンテナンスで発生していたダウンタイムをゼロにできる点など、TCOでみればハイパーコンバージドは低コストなITインフラ。しかし、製品自体はそれほど安いわけではない」と話し、導入時の初期コストだけをみれば、従来のインフラ製品と比べて際立った価格差があるわけではないと説明する。実際に、製品購入価格に対する要求が強い顧客からは、見積もりを出した段階でハイパーコンバージドが候補外になってしまったケースもあるという。
それでも、同社のニュータニックス製品の売り上げは直近で前年比約3倍という急速な伸びを示しており、しかも、とくに好調なのが金融機関向けの導入だという。従来、金融機関におけるITインフラの整備は数年スパンの中長期的な計画に沿って行われることが多かったが、数年先の更新時期までに必要となるリソースの増加分を見込んで環境を整備する必要があるため、場合によって投資が過剰となりITインフラの能力を使いきれなかったり、逆に当初計画していた以上にITニーズが高まって、限られたリソースでのやりくりを強いられることにもなりかねない。ハイパーコンバージドインフラであれば、現在必要なだけ投資を行い、需要増に応じて製品を追加購入していくことでリソースを拡張できるので、投資を最適化できるのが大きなメリットだ。すでに、新規導入だけでなく既存のニュータニックスユーザーからの追加購入の案件も出始めているという。
ニュータニックスでは、SDS技術を自社で開発する一方、ハイパーバイザーについてはVMware ESXi、HyperーV、KVMを採用しており、実際にはVMwareを選択する顧客が多かった。しかし昨年、KVMをベースとした独自のハイパーバイザー「Acropolis」(無償)を発表した。近藤グループリーダーによると、「日本でのAcropolisへの反応は小さいと予測していたが、ハイパーバイザーのライセンス費用削減を目的として興味を示す顧客が少なくない」といい、今後はソフトウェアも含めてフル・ニュータニックスの環境が選ばれるケースも増える可能性がある。
●SIer/リセラーのビジネス効率もアップ
EMCジャパンがVCEブランドの製品として販売開始した「VxRail」をディストリビュータとして取り扱うネットワールドは、先代の製品にあたる「VSPEX BLUE」を含めると約1年にわたってハイパーコンバジドインフラを手がけているが、現在同社に寄せられるEMC製品の引き合いのうち、約20%がVxRailに関するものになっているという。問い合わせの中身も、「ストレージはソフトウェアで本当に問題ないのか」といったものから、「ネットワーク構成やバックアップ運用はどうすればよいのか」など、導入を前提とした具体的な内容に変化しており、多くのSIerが基盤としてハイパーコンバジドインフラの導入に積極的な姿勢をみせているようだ。
コンバージドインフラでは複雑かつ規模が大きすぎて導入できなかった企業にも提案が図れるハイパーコンバージドインフラだが、ネットワールドのストラテジックプロダクツ営業部の平松健太郎・部長代理は「仮想化基盤の構成要素がオールインワンになっていることで、お客様と売り手の双方にメリットがある」と話す。従来のITインフラは多種多様なハードウェアとソフトウェアを組み合わせて構築するため、見積書に記載される製品や作業項目が数十行にわたり、提案側が見積もりを作成するのに手間がかかるばかりか、顧客側の比較検討にも時間がかかる。ハイパーコンバージドインフラでは、仮想化に必要なものはすべて“箱”のなかに入っており、検討項目を単純化できるので、商談の足が短くなるという効果も期待できるという。
また、「この機種であれば何ユーザーまでのVDIに対応できる」といったように、推奨スペックをわかりやすく伝えられるのもメリットだ。ネットワールドのマーケティング本部インフラマーケティング部の佐々木久泰・部長によると、「最初の引き合いから導入に至るまで、案件の規模がブレることがあまりない」といい、案件の途中でスペック不足が判明し、コストが上振れするといったおそれが小さいのだという。
必要に応じて拡張できるという特性から、ハイパーコンバージドインフラはVDI基盤の構築に用いられることが多い。まずは試験導入的にスモールスタートし、ユーザー数の増加に応じてリソースを積み増していくというシナリオを描きやすいほか、最近では地方自治体の情報システム強靱化など、短時間でのセキュリティ向上実現を求められる案件が多く、インフラ構築時間を最小化できるという点でも、ハイパーコンバージド製品が適している。
ただし、最近ではVDIのような特定用途に限らず、サーバー仮想化の基盤としての採用が広がっており、ネットワールドでは自社でもERPやBIツールなどの業務システムをVxRail上に移行した。VxRailの分散ストレージ機能を実現している「VMware Virtual SAN(VSAN)」のバージョンが6になってからは、性能や信頼性についても心配の声はほとんど聞かれないという。「導入時点ではどのシステムもコンポーネント間の検証がきちんと行われているが、運用を続けるうちに、どこかにパッチをあてると全体に不具合が出るといった問題が発生しやすくなる」(平松部長代理)が、VxRailはハイパーバイザー、ストレージ、管理ツールがすべてVMwareの技術をベースとしており、サポートはEMCジャパンからワンストップで提供されるため、コンポーネント間の整合性が常に保たれるのがメリットだ。
同社では複数社のストレージを販売しており、取り扱いベンダー各社のストレージ製品を同一環境下で並べて検証できる環境を用意している。佐々木部長は、「パートナー各社が納得いただけるまで検証できる環境と、各製品のメリット・デメリットを熟知したエンジニアを揃えている点が強み」と強調している。 ページ数:1/1 キャプション: ●シンプル化だけでもメリット大
これまでみてきたように、ハイパーコンバージドインフラの特徴としては「小さく始めて大きく拡張」できる、“スモールスタート・スケールアウト”の部分が強調されることが多い。しかし、ハードウェア性能が十分向上した現在、基本的なスペックのサーバーでも十分対応可能という中小企業は少なくない。ただし、運用・管理の手間を最小化したい、複雑化したインフラをシンプルにしたいというニーズは、規模を問わずどの企業でも共通だ。
DTS傘下でインフラの設計・構築を手がけるSIerのデジタルテクノロジーは、昨年12月に自社製のハイパーコンバージドインフラ「DーRAID ADVANCE」を発売した。1Uサイズのサーバー2台に、データコア・ソフトウェアの「SANsymphonyーV10」と、VMwareのハイパーバイザーを搭載した製品で、基本構成で200万円からという低価格を武器にしている。
営業部の五十里愼哉・部長は、「ハイパーコンバージドインフラは中堅・中小企業に適した製品で、ここ1年ほどで顧客の関心も高まっているが、実際に中小企業に提案すると、金額面でマッチしないケースが多い」と述べ、簡単にインフラを構築・運用できるというメリットには関心があるものの、既存製品の価格帯では手が届かないというユーザーに向けて開発した製品と説明する。同社では、データコアのSDS技術を2010年から取り扱っており、低価格ではあるが他社製品と同等以上のストレージI/O性能を発揮できるとしている。
サーバー台数を足す形で拡張することも技術的には可能だが、それよりもVDIやサーバー統合のためにシンプルな基盤がほしいというニーズをターゲットとしており、高性能を求めるユーザーにはサーバーの初期スペックを上げる形で対応する。ハードウェアの構成は柔軟に変更可能なので、高負荷のデータベースを動かしたいという用途向けには、PCI Express接続のフラッシュストレージを搭載することも可能という。
同社ではVDIやサーバー統合のほか、スマートフォンの内線化ソリューションなども合わせて提案し、中小企業のIT環境を低コストで刷新できる製品としてDーRAID ADVANCEを活用していく考え。営業部アライアンス営業課の茂木陽介氏は、「発売当初は中堅・中小規模の製造業でサーバー仮想化で引き合いがあったが、流通業やサービス業などの新規顧客からも多くの問い合わせが寄せられており、ハイパーコンバージドインフラへの関心の高さを実感している」と、反響の大きさへの手応えを示している。
今後は、同社が新たに販売を開始したバックアップ製品の「Veeam」や運用管理ツール、セキュリティ製品などもあわせて取り扱うほか、将来的にはパートナー経由の間接販売も視野に入れているという。
確かに、金融機関でハイパーコンバージドインフラが採用されたといっても、勘定系システムではなく業務端末のVDI化などがほとんどだ。また、CPU能力とストレージ容量の要求バランスに極端な差があるアプリケーションも、サーバーとストレージをセットで拡張するハイパーコンバージドインフラには不向きだ。各サーバーの内蔵ストレージから溢れるほどの大容量データを扱う場合も、性能の低下が発生する可能性がある。
逆にいえば、このような特別な要件がない限り、大抵のITインフラはハイパーコンバージドで事足りてしまう、という世界が近づいているのである。インフラ構築を生業とするベンダーにとっては、これまでの苦労が解消される一方、食い扶持としていた仕事がなくなってしまうおそれもあり、ハイパーコンバージドの導入は過去のビジネスの否定にもなりかねない。
とはいえ、便利な技術が世の中で普及を始めてしまった以上、この流れにあらがうことはできないだろう。「すべてがクラウドに置き換わるわけではない」という意見自体は正しいが、現実には多くのシステムがクラウドへと移行しており、クラウドに対応できなければ多くのビジネス機会を失うのと似ている。
「ハイパーコンバージドインフラを扱うことで、インフラに取られていた人をアプリケーション開発に振り向けられるようになった」という声をあげているSIerもある。この便利な箱は単なる商材ではなく、ITベンダーのあり方を自問する契機とみるべき製品なのかもしれない。
●仮想化用の統合インフラに商機
「前年比で数倍の引き合いがある」「これまで取引がなかった業種の顧客にも複数の導入が決定した」
SIerや販売代理店に話を聞くと、2~3年前は製品カテゴリ自体の認知すらされていなかったハイパーコンバージドインフラが、最近急速に認知を広げ、採用も進んでいるという。
どのようなメリットのある製品なのか、なぜ今普及が進んでいるのかの前に、「ハイパーコンバージド」というキーワード自体、IT業界のなかでもまだ十分に浸透している言葉とはいえないようなので、一度整理をしておこう。
ハードウェア資源の有効活用や、管理・運用の効率化、新規サービス投入の迅速化などを目的とした、仮想化技術の利用は業種・企業規模を問わず進んでいる。しかし、サーバー、ストレージ、ハイパーバイザーなどを個別に調達し、ラックに配備して各機器間を接続、ソフトウェアをインストールし、仮想化基盤としての動作を検証するのはかなりの手間だ。仮想化基盤のうえで動作させるアプリケーションこそがビジネス上の価値を創出するにもかかわらず、基盤づくりの部分に多くの費用と時間が必要になるのは本末転倒だ。また、トラブルが発生した場合、基盤を構成する各コンポーネントのうち、どこに問題が起きているのかをユーザーや担当SIerが特定しなければ、メーカーのサポート窓口に問い合わせをすることもできない。
このような問題を解消するために登場したのが「コンバージドインフラストラクチャ」だ。「垂直統合型インフラ」などとも呼ばれ、サーバー、ストレージ、ネットワーク、ハイパーバイザーといった仮想化基盤に必要な要素をワンパッケージにした製品で、メーカーによって事前に動作検証済みの構成であるため、SIerやユーザーが個別に検証を行う必要がない。また、ハードウェアのパフォーマンスを最大限引き出すとともに、安定的な稼働が保証されるという面でも、メーカー自らが検証した推奨構成であるコンバージドインフラは有利だ。構成要素一式に対してメーカーがサポートを提供するため、例えばストレージ機器のファームウェアの更新などを行う場合も、サーバーなど他のコンポーネントとの動作に不具合が生じる心配がない。
インフラの構築や運用よりも、収益を生み出すアプリケーションの投入に投資の重点をおきたい、と企業が考えるのは当然であり、コンバージドインフラは昨今のITニーズにマッチした製品として市場を確立。グローバルの大手ITベンダーはもちろん、国内電機メーカー各社のIT事業部門でも、自社のサーバーやストレージ製品を組み合わせたコンバージドインフラに力を入れている。
●基盤となるのはSDS技術
ハイパーコンバージドインフラは、コンバージドインフラの一種ではあるが、その名の通り、従来のコンバージドインフラからさらに構成要素の統合・集約を進めている。最も大きな違いはストレージにあり、従来用いていた専用ストレージ装置を廃し、複数のx86サーバーにそれぞれ内蔵されたHDDやSSDのみを使ってストレージ機能を実現する(図参照)。サーバー上では仮想マシンに加えて、ソフトウェア定義型ストレージ(SDS)が動作しており、データは各サーバーの内蔵ストレージで保存すると同時に、他のサーバー上のストレージにも分散して書き込むことで冗長性を確保している。
コンバージドインフラでは、動作保証やサポートがベンダーから一元的に提供されるというメリットはあるものの、物理的な姿は従来のITインフラと同じで、サーバーや専用ストレージ機器といった各コンポーネントが個別に存在することに変わりはなかった。これがハイパーコンバージドインフラになると、ストレージが内蔵されるため、ラックに存在するのはサーバー(とイーサネットスイッチ)のみになるので、構成が大幅にシンプルになる。
また、ビジネスの成長に応じてより多くの計算性能や記憶容量が必要となった場合、ハイパーコンバージドインフラではサーバーの台数を追加していくだけでスペックを拡張していくことが可能で、これは従来のコンバージドインフラにはない大きなメリットだ。サーバーの追加時や、ファームウェアやハイパーバイザーのアップデート時も、複数のサーバー間で自動的に負荷を分担しながら順次更新を行うため、サービスにダウンタイムが発生しないという特徴もある。
●中小企業や拠点単位でも導入可
エンタープライズシステムに求められるストレージ機能を、専用のハードウェアではなくソフトウェアによって実現するSDSは、決して新しいコンセプトではない。しかし、従来のSDSはデータセンターの運用自動化など、大規模なインフラを扱う技術者の業務を効率化するための技術としての採用が中心だった。それに対してハイパーコンバージドインフラは、SDSとサーバー仮想化に必要な技術をアプライアンスの形でワンパッケージにし、専門知識をもつインフラ運用担当者を置けない組織でも、クラウド感覚で簡単にITリソースを利用できる環境の実現を目的としている。
また、基本的にラック1本単位での導入となるコンバージドインフラに対し、ハイパーコンバージドインフラの最小構成は2~3U程度で、価格も数百万円から。このクラスでも、数十のサーバーの統合や、100ユーザー以上のVDI基盤として十分対応可能な性能を有しており、構成がシンプルなことから中小企業や、支社・店舗・工場といった拠点単位で導入するITインフラとしても適している。
ハードウェアベースのストレージ装置をソフトウェアに置き換えることに関して、当初は信頼性や性能面での不安を感じる顧客も少なくないようだが、最近では金融機関を含む大企業や、大手サービス事業者でもハイパーコンバージドインフラの採用が進んでおり、多くの導入事例が積み重ねられたことでユーザーの抵抗感も和らぎつつあるという。むしろ、ハイパーコンバージドインフラのアーキテクチャには、構成がシンプルになることによってトラブルが低減される、サーバーとストレージの距離が縮まることによって性能が向上する、といった期待の側面を見出すことも可能だ。
ITインフラにかける手間と費用を極力減らしたい、という要求はより切実なものになっており、日本企業の間でも、ハイパーコンバージドインフラのような新しい技術の導入に対するハードルは下がりつつある。当初は多くの企業で導入に懐疑的だったクラウドコンピューティングが、最近では基幹系システムにまで利用されているのと似た構図になってきている。 ページ数:1/1 キャプション:
構成のシンプル化が売り手・買い手双方にメリット
汎用サーバーをベースとしたハイパーコンバージドインフラは、確かにコストパフォーマンスにすぐれた製品だ。ただし、本質的なメリットは製品自体の価格よりも、システム構成がシンプルになり、構築・運用・保守が省力化されることだ。これはユーザーだけでなく販売側にもそのままあてはまる利点だ。●製品価格よりもTCOと投資最適化にメリット
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近藤智基
課長
ハイパーコンバージドインフラ製品の草分け的なベンダーで、現在も市場を牽引しているのは米ニュータニックスだが、2012年に日本市場で初めてニュータニックス製品の取り扱いを開始したのが日商エレクトロニクスだ。同社ITプラットフォーム営業部 営業推進課の近藤智基・課長は、「ラックスペースや消費電力の削減、運用負荷の軽減、メンテナンスで発生していたダウンタイムをゼロにできる点など、TCOでみればハイパーコンバージドは低コストなITインフラ。しかし、製品自体はそれほど安いわけではない」と話し、導入時の初期コストだけをみれば、従来のインフラ製品と比べて際立った価格差があるわけではないと説明する。実際に、製品購入価格に対する要求が強い顧客からは、見積もりを出した段階でハイパーコンバージドが候補外になってしまったケースもあるという。
それでも、同社のニュータニックス製品の売り上げは直近で前年比約3倍という急速な伸びを示しており、しかも、とくに好調なのが金融機関向けの導入だという。従来、金融機関におけるITインフラの整備は数年スパンの中長期的な計画に沿って行われることが多かったが、数年先の更新時期までに必要となるリソースの増加分を見込んで環境を整備する必要があるため、場合によって投資が過剰となりITインフラの能力を使いきれなかったり、逆に当初計画していた以上にITニーズが高まって、限られたリソースでのやりくりを強いられることにもなりかねない。ハイパーコンバージドインフラであれば、現在必要なだけ投資を行い、需要増に応じて製品を追加購入していくことでリソースを拡張できるので、投資を最適化できるのが大きなメリットだ。すでに、新規導入だけでなく既存のニュータニックスユーザーからの追加購入の案件も出始めているという。

日商エレクトロニクスではニュータニックス製品と合わせて、ネットワーク仮想化に対応したブロケードのスイッチを提案。管理・運用のさらなる統合と自動化を実現する
ニュータニックスでは、SDS技術を自社で開発する一方、ハイパーバイザーについてはVMware ESXi、HyperーV、KVMを採用しており、実際にはVMwareを選択する顧客が多かった。しかし昨年、KVMをベースとした独自のハイパーバイザー「Acropolis」(無償)を発表した。近藤グループリーダーによると、「日本でのAcropolisへの反応は小さいと予測していたが、ハイパーバイザーのライセンス費用削減を目的として興味を示す顧客が少なくない」といい、今後はソフトウェアも含めてフル・ニュータニックスの環境が選ばれるケースも増える可能性がある。
●SIer/リセラーのビジネス効率もアップ

ネットワールドではシスコシステムズのHyperFlexも取り扱いを開始。
シスコのネットワーク管理機能とHyperFlexの運用を統合できるほか、
今後HyperーVやOpenStackもサポートする方針が示されている
シスコのネットワーク管理機能とHyperFlexの運用を統合できるほか、
今後HyperーVやOpenStackもサポートする方針が示されている
EMCジャパンがVCEブランドの製品として販売開始した「VxRail」をディストリビュータとして取り扱うネットワールドは、先代の製品にあたる「VSPEX BLUE」を含めると約1年にわたってハイパーコンバジドインフラを手がけているが、現在同社に寄せられるEMC製品の引き合いのうち、約20%がVxRailに関するものになっているという。問い合わせの中身も、「ストレージはソフトウェアで本当に問題ないのか」といったものから、「ネットワーク構成やバックアップ運用はどうすればよいのか」など、導入を前提とした具体的な内容に変化しており、多くのSIerが基盤としてハイパーコンバジドインフラの導入に積極的な姿勢をみせているようだ。

EMCジャパンが3月に日本でも販売を開始した「VCE VxRail」。
当初のハイブリッドストレージモデルに加え、オールフラッシュモデルも追加される
当初のハイブリッドストレージモデルに加え、オールフラッシュモデルも追加される
コンバージドインフラでは複雑かつ規模が大きすぎて導入できなかった企業にも提案が図れるハイパーコンバージドインフラだが、ネットワールドのストラテジックプロダクツ営業部の平松健太郎・部長代理は「仮想化基盤の構成要素がオールインワンになっていることで、お客様と売り手の双方にメリットがある」と話す。従来のITインフラは多種多様なハードウェアとソフトウェアを組み合わせて構築するため、見積書に記載される製品や作業項目が数十行にわたり、提案側が見積もりを作成するのに手間がかかるばかりか、顧客側の比較検討にも時間がかかる。ハイパーコンバージドインフラでは、仮想化に必要なものはすべて“箱”のなかに入っており、検討項目を単純化できるので、商談の足が短くなるという効果も期待できるという。

ネットワールドの佐々木久泰・部長(右)と平松健太郎・部長代理
また、「この機種であれば何ユーザーまでのVDIに対応できる」といったように、推奨スペックをわかりやすく伝えられるのもメリットだ。ネットワールドのマーケティング本部インフラマーケティング部の佐々木久泰・部長によると、「最初の引き合いから導入に至るまで、案件の規模がブレることがあまりない」といい、案件の途中でスペック不足が判明し、コストが上振れするといったおそれが小さいのだという。
必要に応じて拡張できるという特性から、ハイパーコンバージドインフラはVDI基盤の構築に用いられることが多い。まずは試験導入的にスモールスタートし、ユーザー数の増加に応じてリソースを積み増していくというシナリオを描きやすいほか、最近では地方自治体の情報システム強靱化など、短時間でのセキュリティ向上実現を求められる案件が多く、インフラ構築時間を最小化できるという点でも、ハイパーコンバージド製品が適している。
ただし、最近ではVDIのような特定用途に限らず、サーバー仮想化の基盤としての採用が広がっており、ネットワールドでは自社でもERPやBIツールなどの業務システムをVxRail上に移行した。VxRailの分散ストレージ機能を実現している「VMware Virtual SAN(VSAN)」のバージョンが6になってからは、性能や信頼性についても心配の声はほとんど聞かれないという。「導入時点ではどのシステムもコンポーネント間の検証がきちんと行われているが、運用を続けるうちに、どこかにパッチをあてると全体に不具合が出るといった問題が発生しやすくなる」(平松部長代理)が、VxRailはハイパーバイザー、ストレージ、管理ツールがすべてVMwareの技術をベースとしており、サポートはEMCジャパンからワンストップで提供されるため、コンポーネント間の整合性が常に保たれるのがメリットだ。
同社では複数社のストレージを販売しており、取り扱いベンダー各社のストレージ製品を同一環境下で並べて検証できる環境を用意している。佐々木部長は、「パートナー各社が納得いただけるまで検証できる環境と、各製品のメリット・デメリットを熟知したエンジニアを揃えている点が強み」と強調している。 ページ数:1/1 キャプション: ●シンプル化だけでもメリット大
これまでみてきたように、ハイパーコンバージドインフラの特徴としては「小さく始めて大きく拡張」できる、“スモールスタート・スケールアウト”の部分が強調されることが多い。しかし、ハードウェア性能が十分向上した現在、基本的なスペックのサーバーでも十分対応可能という中小企業は少なくない。ただし、運用・管理の手間を最小化したい、複雑化したインフラをシンプルにしたいというニーズは、規模を問わずどの企業でも共通だ。
DTS傘下でインフラの設計・構築を手がけるSIerのデジタルテクノロジーは、昨年12月に自社製のハイパーコンバージドインフラ「DーRAID ADVANCE」を発売した。1Uサイズのサーバー2台に、データコア・ソフトウェアの「SANsymphonyーV10」と、VMwareのハイパーバイザーを搭載した製品で、基本構成で200万円からという低価格を武器にしている。
営業部の五十里愼哉・部長は、「ハイパーコンバージドインフラは中堅・中小企業に適した製品で、ここ1年ほどで顧客の関心も高まっているが、実際に中小企業に提案すると、金額面でマッチしないケースが多い」と述べ、簡単にインフラを構築・運用できるというメリットには関心があるものの、既存製品の価格帯では手が届かないというユーザーに向けて開発した製品と説明する。同社では、データコアのSDS技術を2010年から取り扱っており、低価格ではあるが他社製品と同等以上のストレージI/O性能を発揮できるとしている。

デジタルテクノロジーの五十里愼哉・部長(右)と茂木陽介氏
サーバー台数を足す形で拡張することも技術的には可能だが、それよりもVDIやサーバー統合のためにシンプルな基盤がほしいというニーズをターゲットとしており、高性能を求めるユーザーにはサーバーの初期スペックを上げる形で対応する。ハードウェアの構成は柔軟に変更可能なので、高負荷のデータベースを動かしたいという用途向けには、PCI Express接続のフラッシュストレージを搭載することも可能という。
同社ではVDIやサーバー統合のほか、スマートフォンの内線化ソリューションなども合わせて提案し、中小企業のIT環境を低コストで刷新できる製品としてDーRAID ADVANCEを活用していく考え。営業部アライアンス営業課の茂木陽介氏は、「発売当初は中堅・中小規模の製造業でサーバー仮想化で引き合いがあったが、流通業やサービス業などの新規顧客からも多くの問い合わせが寄せられており、ハイパーコンバージドインフラへの関心の高さを実感している」と、反響の大きさへの手応えを示している。
今後は、同社が新たに販売を開始したバックアップ製品の「Veeam」や運用管理ツール、セキュリティ製品などもあわせて取り扱うほか、将来的にはパートナー経由の間接販売も視野に入れているという。
記者の眼
インフラ構築に強みをもつSIer各社やストレージベンダーにハイパーコンバージドインフラの見通しをたずねると、今後の市場拡大を確実視しながらも、多くの場合このようなコメントが付け加えられる。「すべてがハイパーコンバージドインフラに置き換わるわけではない」確かに、金融機関でハイパーコンバージドインフラが採用されたといっても、勘定系システムではなく業務端末のVDI化などがほとんどだ。また、CPU能力とストレージ容量の要求バランスに極端な差があるアプリケーションも、サーバーとストレージをセットで拡張するハイパーコンバージドインフラには不向きだ。各サーバーの内蔵ストレージから溢れるほどの大容量データを扱う場合も、性能の低下が発生する可能性がある。
逆にいえば、このような特別な要件がない限り、大抵のITインフラはハイパーコンバージドで事足りてしまう、という世界が近づいているのである。インフラ構築を生業とするベンダーにとっては、これまでの苦労が解消される一方、食い扶持としていた仕事がなくなってしまうおそれもあり、ハイパーコンバージドの導入は過去のビジネスの否定にもなりかねない。
とはいえ、便利な技術が世の中で普及を始めてしまった以上、この流れにあらがうことはできないだろう。「すべてがクラウドに置き換わるわけではない」という意見自体は正しいが、現実には多くのシステムがクラウドへと移行しており、クラウドに対応できなければ多くのビジネス機会を失うのと似ている。
「ハイパーコンバージドインフラを扱うことで、インフラに取られていた人をアプリケーション開発に振り向けられるようになった」という声をあげているSIerもある。この便利な箱は単なる商材ではなく、ITベンダーのあり方を自問する契機とみるべき製品なのかもしれない。
汎用サーバーとソフトウェア技術の組み合わせによって、専用ストレージ装置なしで仮想化基盤を実現する「ハイパーコンバージドインフラストラクチャ」が、ここ1~2年で急速に認知を広げている。最近では売り上げも急拡大しているというハイパーコンバージドインフラだが、「低コストでシンプル」という売り文句は本当なのか。販売現場の声を通じて、製品の特質に迫った。(取材・文/日高 彰)
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