「SESは人数が増えると売り上げが増えるので、企業が成長しているように感じるが、実は何も成長していない」リーマン・ショックをきっかけに脱SESに取り組んだSIエージェンシーの木原真代表取締役社長
リーマン・ショックをまともに受けたリバティ・フィッシュだが、これから先に不況がきても、むしろチャンスになると石丸代表取締役は考えている。Rubyには高い生産性とオープンソースの価格競争力があるからだ。「不況はいつきてもいい。きたら勝負」。むしろ待ち遠しいといわんばかりだ。
アイティテラ(東京・港区、秋山忠代表取締役社長)は、創業時から下請けを中心にしていたが、東日本大震災を機にオープンソースソフトをベースとしたSIや導入サービスに業態を変えた。「突然、契約を切られてしまう。そんなひどい目に何度もあった。下請けとはそういうものかもしれないが、このままではやっていけないと思った」と、秋山社長は当時を振り返る。オープンソースソフトは、OSやデータベース、ミドルウェアに加え、ERPやCRMといった業務系ソフトも扱っている。オープンソースという武器をもつことで、ユーザーとの直接の取引が可能になった。今では「ユーザー企業と直接の取引ができれば、マネージメントや提案力といったことが身につく。ラクではないが、社員も会社も成長できる」と元請けのメリットを感じている。
1995年頃にシステム開発事業に参入したゴードービジネスマシン(大分市、小野敬一代表取締役社長)。参入後は順調に業績を伸ばしていたが、リーマン・ショックが起きると、開発案件がゼロになってしまう。「エンジニアがすべて常駐先から戻ってくることに。エンジニアに営業などの別の仕事を任せるのも簡単ではないため、自宅待機にして、雇用調整助成金でしのいでいた。ただ、自宅待機は退屈なため、次第に仕事をしたいとの声がエンジニアから出るようになってきたことから、新たなビジネスを模索することになった」と、大熊洋司・企画事業部/教育事業部部長は当時を振り返る。そこで始めたのが教育事業である。
「自治体が職業訓練の場を求めていて、支援を受けられることから、パソコン医療事務の教室を開いた。当社で医療情報システムを扱っていて、エンジニアが講師として対応できたことと、医療事務関連の人材にニーズがあったため、順調にスタートすることができた」(大熊部長)。教育事業への参入が奏功し、リーマン・ショックは無事に乗り切ることができたという。
リーマン・ショックの経験から、SESを避けていたゴードービジネスマシンだが、数年前に再開したという。「大手ITベンダーからのSES案件は、長期の案件となることが多く、若手の育成に向いていると判断したため」と小野社長は語る。とはいえ、リーマン・ショックの二の舞は避けなければならない。そこでゴードービジネスマシンは、経済不況の影響が都市部よりも緩やかな地元企業の元請け案件に注力している。
SIエージェンシー(東京・港区、木原真代表取締役社長)は、業務システムに強いSIerだが、iOSに取り組んでいるところに特徴がある。きっかけは、やはりリーマン・ショックだ。「リーマン・ショック前はSESが中心。リーマン・ショックがなければ、今でも変わっていなかったかもしれない。SESでは売り上げは大きいものの、利益が少ない。人数が増えると売り上げが増えるので、企業が成長しているように感じるが、実は何も成長していない。リーマン・ショックで案件が激減したことは、むしろ業務を見直すいいきっかけになった」と木原社長。元請け案件へのシフトとともに、iOSに取り組むことを決めた。
画面がおしゃれなiOSに取り組んだことで、木原社長は気づいた。「SIではデザインが空白地帯」。SIerの強みは、ユーザー企業の業務を知り尽くし、現場で役立つシステムを構築するところにある。デザイン性はアピールポイントではないし、ユーザー企業からの画面に関する要求はほとんどない。そこを逆手にとって、iOSの経験を生かし、デザイン性の高さを強みとしてSI案件に取り組んでいる。
元請け企業を目指す
SES事業でスタートしたサンノア(東京・渋谷区、吉田智和代表取締役)だが、「客先常駐では技術者同士のノウハウが共有しにくく、ややもすれば技術者の寿命を縮めてしまう」との危機感を抱き、元請けになることを目指した。同社が最初に受注したエンドユーザー案件は、アミューズメント機器への組み込みソフトだった。業務アプリケーションの開発がほとんどだったサンノアでは、組み込みソフトの経験がなかったが、「エンドユーザーから注文がとれる絶好のチャンス」(吉田代表取締役)と考え、ユーザーから打診がきてすぐに準備に着手。都合、1年近くの時間をかけて、組み込みソフトを開発する人材と環境を整え、2015年5月、同社にとって初めてのエンドユーザーからの直接受注を果たしている。今後も引き続き、元請けやエンドユーザーからの直接受注の割合を増やしていくと同時に、事業企画を担当する部門や研究開発をする部門といった競争力を生みだしていく組織づくり、人材集めに力を入れることで、業容拡大を加速していく方針だ。
1982年設立のニックス(東京・渋谷区、藤田一代表取締役)は、自社開発のパッケージ製品をもっているものの、大手SIer向けのSESを事業の中心としてきた。「営業活動をしなくても、担当者とのつながりで仕事がもらえるような状態が長らく続いていた」と小池龍輔・取締役ICT利活用推進営業部部長は語る。ニックスはむりな事業拡張をせず、SESで堅実な経営をしてきた。だが、リーマン・ショックで案件の激減を経験したことと、サービス化の進展などでシステム開発自体が減っていくとの考えから、元請けとしての案件獲得を目指すことになる。
ニックスがターゲットとしたのは、中小企業だ。中小企業市場はIT投資の規模が小さい一方で、サポート力が問われるため、大手のITベンダーほど参入しにくい。「大手ユーザー企業は情報システム部などの専門部隊がいる。ITベンダーはその要求に応えればいい。ところが、中小企業には情報システム部がなく、経営者を説得する必要があるため、ITありきの提案は響かない。必要なのは経営の視点。それも、経営の悩みや課題の本質を聞き出す力が求められる」と、小池取締役は中小企業向けの戦略を語る。成果は確実に出ているという。藤田代表取締役は、「直接取引が確実に増えている。2年か3年先を考えると、この方向性は間違っていないとの確信がある。まだSESも続けているが、脱下請けを進めていきたい。大手SIerとは、下請けではなく、アライアンスというかたちを模索していきたい」と自信を深めている。
「客先常駐では技術者同士のノウハウが共有しにくく、ややもすれば技術者の寿命を縮めてしまう」下請けに危機感を抱いて元請けに転身する必要を感じたサンノアの吉田智和代表取締役
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