外部の技術・知識を活用した研究開発「オープンイノベーション」は、不確実性の高い手法である。主要SIerやITベンダーはこぞって同手法に挑戦してきたが、失敗に終わったプロジェクトは少なくない。ところが、ここにきてオープンイノベーションが盛り上がりつつある。後押しするのは、デジタル・トランスフォーメーションだ。(取材・文/安藤章司)
●“行き詰まり”感を打開
NTTデータ
残間 光太朗
室長 SIerが積極的にオープンイノベーション(外部の技術・知識を活用した研究開発)の手法を取り入れる背景には、IoT/ビッグデータやAI(人工知能)、FinTechなどに代表される「デジタルを活用したビジネス革新=デジタル・トランスフォーメーション」が急ピッチで進んでいることがあげられる。しかも、ことごとく「サービス型」になる傾向が強い。従来のように、売れる予測が立てやすい製品や、パッケージソフトを仕入れて売る、あるいは取りっぱぐれることのない受託ソフト開発のビジネスモデルとは、大きく回収モデルが異なる。
ビジネスを革新したいと考えるユーザーや、要素技術をもったスタートアップ企業などと共同でサービスを開発することで、SIer単独での研究開発の“行き詰まり”感を打開する手法として「オープンイノベーション」が位置づけられている
情報サービス業界最大手のNTTデータでは、オープンイノベーションによる開発手法を2014年から取り入れている。NTTデータが重視する社会インフラ領域の「課題」を設定し、スタートアップ企業を初めとする新しい要素技術をもつ企業と、ユーザー企業、そしてNTTデータの事業部門の3者を集め、デジタルを活用したビジネス革新を実現する活動である。活動名称は、NTTデータの本社がある地名にちなんで「豊洲の港から」と名付けている。
ほぼ毎月、何らかの形で3者は顔合わせをして、年に2回のペースで「コンテスト」を開催。受賞したプロジェクトは、事業化に向けて一歩踏み出すことになる。ここでポイントとなるのは、事業化の受け皿になるNTTデータ自身の「事業部門をどうオープンイノベーションに巻き込むか」(NTTデータの残間光太朗・オープンイノベーション事業創発室室長)だと話す。せっかくよいアイデアや技術が集まっても、うまく事業部門に受け渡しができなければ、事業化することはできないからだ。
●“アクセラレーター”の役割とは NTTデータでは、決済や都市・交通、エネルギー・環境といった社会インフラ領域の大きな枠組みのなかで個別のサブテーマを30項目ほど設定。事業部門の起業家精神に富んだ人材に声をかけ、ワーキンググループに参加してもらうよう働きかけている。この「声かけ」のことをオープンイノベーション界隈では「アクセラレーター(加速させる役割を担う人)」と呼んでいる。イノベーションが起きやすい環境をつくり、背中を押してあげることでイノベーションを加速させる。
これまでも、スタートアップ企業の支援では、ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家が活躍してきたが、NTTデータやそのユーザー企業のような資金力のある大企業がオープンイノベーションに取り組むときには、「“アクセラレーター”となるような推進役の存在が欠かせない」(残間室長)と話す。
残間室長が率いるオープンイノベーション事業創発室の人員はわずか数人と限られているが、“アクセラレーター”の役割をうまく演じることで、事業部門の起業意欲の高い人材を取り込み、レバレッジをきかせることに成功している。外部のスタートアップやユーザー企業も含めて、ワーキンググループごとに平均約20人、サブテーマを30項目ほど設定することで「延べ600人規模でオープンイノベーションに取り組む体制」(残間室長)まで拡大させてきた。
●世界10都市でコンテスト開催へ イノベーションの主な“成果”は、「豊洲の港から」プロジェクトが定期的に開催している「ビジネス・コンテスト」で評価。これまで計4回のコンテストを開催しており、さまざまなアイデアが事業化につながっている。ちなみに第1回目のコンテストで最優秀賞を受賞したマネーフォワードが提案したFinTech連携は、NTTデータが主に地方銀行向けに提供している共同利用型インターネットバンキングと実際に接続。マネーフォワードをはじめとする家計簿アプリなどの個人資産管理サービスや、クラウド会計サービスなどFinTech関連サービスの事業化にこぎ着けている。
直近1年間を振り返ってみると、約30のワーキンググループのなかから、4件の事業化への道筋をつけた。「豊洲の港から」プロジェクトが創出した新事業の売り上げとその波及効果の合算値は、「2020年までの累計で1100億円規模に達する可能性がある」(残間室長)と手応えを感じている。
NTTデータでは、「豊洲の港」からで培ったオープンイノベーション手法をベースとして、海外のグループ拠点にも横展開する。北京やシンガポール、イスラエル、ロンドン、スペイン(マドリードとバルセロナ)、トロント、サンパウロ、シリコンバレー、そして東京を含めた世界10都市で2017年3月をめどに「グローバル・オープンイノベーション・コンテスト」の開催を目指している。
2014年にグループに迎え入れたスペインのeveris(エヴェリス)グループが、世界約250万社のスタートアップ企業をデータベース化するサービスを手がけており、これにNTTデータグループの事業部門や顧客を巻き込んで、「一気に世界規模でアイデアの母数を増やし、レバレッジをきかせていきたい」(残間室長)と意気込む。

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