AI(人工知能)は、学習しなければ役に立たない。学習に必要となるのはデータであり、そのデータを集めるための手段の一つが、IoT(Internet of Things)という関係が成り立つ。逆に、IoTで集めたデータの活用では、AIが不可欠となりそうだ。IoTと企業向けAIの接点である「Enterprise AIoT」、そして注目関連キーワードの「RPA」との関係を追った。
CASE1 “20分先”を正確に予想しトラブル発生を未然に防ぐ
将来のトラブル発生を正確に予測する。トラブル回避の究極の対策だ。
三井化学は、化学プラントにおけるガス製品製造の過程において、センサの活用による情報分析で製品の品質確保に努めていたが、いくつかの課題があった。一つは、経験を積んだ従業員が目視で判断していたということ。もう一つは、閾値を用いて異常を自動検知していたが、その閾値を越えた原因が製造過程に関連する機器などのトラブルなのか、センサのトラブルなのかの判断が困難だった。プラント内はセンサが壊れるほど厳しい環境にあるためだ。
そこで三井化学は、センサから集めたデータをAIで分析。ガス製品の品質異常や製造機器の故障、さらに異常データかセンサの故障かを判断できるようにした。また、ガス製品の品質異常に関しては、20分先までを正確に予想できるようにしたことで、事前の対処が可能になった。20分先の予想と実際の値とは、平均誤差が3%以内に納まっている。製品の品質異常を事前に回避できるため、化学プラントの稼働率向上にも貢献している(図1)。


NTTコミュニケーションズ
技術開発部
泉谷知範氏
NTTコミュニケーションズ
技術開発部
伊藤浩二
担当課長 このシステムを構築したのは、NTTコミュニケーションズ。同社の伊藤浩二・技術開発部担当課長は、「IoTデータには二つの特徴がある。一つは、時系列性。その瞬間のデータではなく、時間的な変化を把握できるということ。二つ目は、マルチモーダル性。複数のセンサを組み合わせることで、人間の五感に近いデータを取得する。この時系列性とマルチモーダル性を組み合わせることで、ディープラーニングに最適なデータを用意できる」と、化学プラントに導入したIoTとAIのポイントを説明する。また、同技術開発部の泉谷知範氏は、「画像分析や音声分析はAIの得意分野で、一般的に普及している。一方で、センサから取得したデータに関しては、得意とするベンダーがまだ少ない。ここは当社の強みになると考えている」とし、プラント系や製造業に横展開していく考えだ。なお、NTTグループは、AI関連技術を「corevo」として開発を進めており、今回のAIもcorevoの一部となる。
CASE2 自動車の種類を認識し最適な広告を表示する
富裕層かつファミリー層に向けて広告を表示したい。以前なら富裕層向けの雑誌に広告を出すくらいの手段しかなかったが、IoTとAIがそんな広告主の要求に応えることになる。
ターゲットは、自動車だ。車種が把握できれば、富裕層かどうか、ファミリー層かどうかが簡単に把握できる。使用するIoTデバイスはカメラ。取得した映像をAIで処理し、車種を特定する。そして、広告主がターゲットとする車種の場合、サイネージ上に広告を表示する(図2、図3)。


東京・六本木の首都高速3号線上りで、上記の実証実験が行われた。実施したのは、クラウディアンと電通、スマートインサイト、Quanta Cloud Technology Japanの4社。首都高速を走る自動車を対象車種と判定したら、運転席からよく見える屋外サイネージ上に広告を表示した。
今回の実証実験でIoTとAIが有効なことを確認したクラウディアンの太田洋・代表取締役は「さまざまな産業にIoTが浸透していく。IoTで取得したデータをリアルタイムで判断するには、ディープラーニングが有効である。ディープラーニングによってIoTの普及が加速する」と考えている。IoTデバイスとしてのカメラには、AIとの融合に大きな可能性がある。画像処理は、AIの得意分野であるからだ。
CASE3 データから仮想圃場を生成し収穫量・収穫適期を予測
農業におけるIoTの取り組みは数多い。なかでも天気によって室内の温度が急激に変わるハウス栽培では、温度管理にセンサが有効活用されている。その一方で、農業AIoTと呼ぶべき、事例も出始めている。
トマトケチャップや野菜ジュースで知られるカゴメは、ポルトガルのトマト圃場でIoTとAIの活用に取り組んでいる。使用するIoTデバイスは、圃場に設置した気象や土壌などの各種センサ、そして人工衛星やドローンも活用してデータを取得。灌漑・施肥などの営農環境から得られるデータも加えて、まずコンピュータ上に仮想圃場を生成する。この仮想圃場において、トマトの生育シミュレーションや、その土地に応じた最適な営農アドバイス、さらに将来の収穫量と収穫適期などの予測でAIを活用する。作物の生育レベルと環境条件を踏まえた科学的なモデリングを実現することで、将来的には、新たな地域や作物においても高精度なシミュレーションを実現することが期待される。
システムは、NECが構築した。「IoTの価値を出すには、分析が不可欠。そこでAIが必要となる。また、AIを生かすにはIoTが不可欠」と、NECの望月康則・執行役員 IoT戦略室室長は、IoTとAIの融合の必要性を感じている。
CASE4 土砂に含まれる水分量から斜面崩壊の予兆を検知

NEC
望月康則
執行役員
IoT戦略室室長 自然災害が多い日本。地震や噴火、集中豪雨、台風など、常にその危険にさらされている。自然災害を避けることは難しいが、被害を最小限に抑えられる可能性はある。必要なのは、災害発生を事前に予測することだ。そこで使われるのが、予兆を検知するためデータを収集するセンサ(IoTデバイス)、そのデータを分析するAIということになる。
例えば、NECが提供している「土砂災害予兆検知システム」では、斜面に設置したセンサが土砂を計測する。土砂の重量・粘着力・摩擦、土中の水圧という土砂状態を表す4種のデータを取得し、そのデータをAIが分析して、斜面崩壊の予兆を知らせるというわけだ。しかも、リアルタイム。そこがIoTとAIのポイントである。
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