Enterprise AIoTとのコラボに注目 赤丸急上昇キーワード「RPA」
●デジタルレイバーを雇う PCを前にして、決まったオペレーションを毎日のように繰り返す。単純作業であればあるほど、時間の流れが遅くなり、肩が凝る。気が重くなる。週末が待ち遠しい。
このような人間の苦痛をやわらげるべく、作業を代行するのが「RPA(Robotic Process Automation)」である。日本RPA協会の代表理事で、RPAテクノロジーズの大角暢之・代表取締役社長は、RPAについて「オフィスワーカーの業務を代行するもの」と表現する。RPAはソフトウェアロボットだが、ソフトウェアというよりも、人に近く、いわゆるデジタルレイバーとしての役割を担う。

オフィスワーカーが業務システムのオペレーション教育を受けるのと同様に、デジタルレイバーを教育すれば、そのオペレーションを人間の代わりに行う。しかも、一度覚えれば人間のようなオペレーションミスがなく、処理スピードも速い。24時間無休で働く。例外があれば、作業を止めてエクスキューズを出す。デジタルレイバーを一人雇えば、複数人の仕事をこなすことができる。
ポイントは、既存システムにまったく影響を与えないところにある。業務プロセスが変更になっても、オペレーションで吸収できるのであれば、既存システムを改修する必要がない。新しいオペレーションをデジタルレイバーに教えればすむのである。
「オペレーションが煩わしいからと、システムの改修を望む現場の声があったとする。ところが、改修には多大なコストがかかる。しかも、運用でカバーすることができる。そうなれば、システム部門はシステム改修を避けるために、もっともらしい理由をつけることになる」と大角社長。現場には不満が溜まり、システム部門は信用をなくしていく。これを避けるためにもRPAは有効であり、現場の社員は人間でなければできない価値を生む作業に集中することができる。
RPAテクノロジーズではパートナーであるSIerと一緒にロボット派遣ビジネスを展開していて、すでに同社のソフトウェアロボット「BizRobo!」を利用する企業は国内で100社を超えるという。また、ほとんどの大手コンサルティングファームが今年に入ってRPAへの取り組みを発表するなど、急速に盛り上がりをみせている。そうしたなかで、7月20日に日本RPA協会が発足。大角社長は「今年がRPA元年」と断言する。
●RPAで広がるAIoTの活用
RPAテクノロジーズ
大角暢之
代表取締役社長 AIoTで注意すべきは、急激な発展の途上にあるということだ。センサの進歩、取得できるデータの種類、データを活用するAI。この状況下でシステムを開発しても、常に改修が必要とされるようなアジャイルな対応が要求されることになりかねない。実際、アジャイル開発が機能するシーンだが、それさえも不要とするのがRPAだ。
「IoTデバイスから得たデータがある閾値を超えたらアクションを起こすという指示を出す場合では、デジタルレイバーにその判断を任せればいい。閾値を超えたらメッセージを送るというような、システムを組む必要がないし、RPAであれば変化に対応できる柔軟性もある」とし、大角社長は次の事例をあげて説明する。
あるサービス付き住宅では、認知症の居住者が夜間に外出しないように管理することをサービスとして提供している。とはいえ、人の行動は予測不可能で、ケアマネージャが監視するのは難しい。そこで、その施設では、ドアの開閉を管理するセンサ(IoT)とカメラを活用した顔認証(AI)を利用し、そこから得たデータをソフトウェアロボットが判断し、ケアマネージャにメッセージを送る。認知症ではない居住者の場合は、外出可能とし、メッセージは送らない。この設備を工事とシステム開発をすることなく、構築したという。
大角社長は同様の発想で、農業IoTにはRPAが向いていると考えている。
●BPOで活用するRPAとAI RPAは、グローバルの傾向として、金融機関での採用が先行している。RPAテクノロジーズでも、大規模ユーザーの多くが金融機関である。なかでも、金融機関では伝票入力などのオペレーションが多いことから、デジタルレイバーの出番となる。
アクセンチュアは10月6日、AIとRPAの専門チームを日本に創設した。ターゲットは金融機関。海外の金融機関で実績のあるAIとRPAを活用したサービスを日本にも展開するというわけだ。
「金融機関は規制が強化されるたびにプロセスが複雑になり、入力のチェックなどに膨大なコストがかかっている。一方で、低金利などの影響で収益率は下がっている。また、日本では金融機関の統合が進んだ影響で、システムが乱立する状況にあることも、オペレーションを複雑化している。そのため、効率化のニーズは強い」とアクセンチュアの中野将志・執行役員 金融サービス本部統括本部長は、AI・RPA領域の専門チーム設立の背景を語る。RPAを導入すれば、既存システムのままで、業務を効率化することができる。
アクセンチュアでは、金融機関の業務を請け負い(BPO)、そのオペレーションをRPAで効率化することで、収益を上げるビジネスを展開している。国内でも、同様の展開を考えている。なお、AIは人のオペレーションを学習し、RPAに適用するために活用される。RPAでは対応できないオペレーションは、AIが判断し、画面上で教えてくれる。
Enterprise AIoT、そしてRPA。システム開発のあり方が大きく変わる可能性がある。
AI側の視点 AIスタートアップのABEJAが考えるIoT

ABEJA
岡田陽介
代表取締役社長 「データ提供の手段として、IoTを重要視している。AIにとってはIoTデータでなければということはない。ただ、IoTから得たデータには独自性があるため、AIを活用することでユーザー企業にとってのビジネスチャンスにつなげやすい」と、ABEJAの岡田陽介・代表取締役社長は語る。ABEJAは、ディープラーニングを専門的に取り扱うベンチャー企業で、クラウドサービス「ABEJA Platform」を提供している。
AIの対象となるデータは、世の中には大きく二つある。一つは、SNSを中心とするインターネット上のデータ。もう一つは、一般的には公開されていないデータ。後者には、企業が抱えているデータベース、そしてセンサなどのIoTデバイスから取得するデータがある。ABEJA Platformで対象としているのは後者で、インターネット上のデータは扱っていない。

そのなかで岡田社長は次の理由から、IoTを重要視している。「IoTではデータの粒度が選べる。また、例えば二酸化炭素の濃度など、人間が感じることのできないデータを得ることもできる。IoTは自由度が高い」。ERPなどの基幹システムのデータは、粒度を変えることが難しいため、IoTデータのような自由度がない。もちろん、基幹システムのデータもAIで有効活用できるが、IoTデータのほうがより有効というわけだ。
ABEJAは8月26日、IoTデバイスをセキュアな環境で使えるようにするために、さくらインターネットと提携した。IoTデバイスから、さくらインターネットの「さくらのIoT Platform」に直接接続。同社のサイト上にデータを蓄積し、ABEJA Platformでデータを活用する。「インターネットを使用しないため、IoTとビッグデータ、AIをセキュアな環境で利用できる」(岡田社長)。
ちなみに、ABEJAのサービスでは、データを適切に表現するための特徴をみつけだす「特徴量抽出」の自動化にディープラーニングを活用している。同社のユーザー企業には、小売り・流通業や製造業が現時点では多いが、基本的には業種に関係なく、サービスを提供できるとのことである。