東京駅~金沢駅間で北陸新幹線が開通したことや、駅前再開発による商業施設の建築や改装などの効果で、国内外から多くの観光客が訪れるようになった石川県金沢市。駅前や観光名所などの賑わいは、北陸地域全体に効果をもたらすのか。また、ITベンダーにとって大きなビジネスチャンスとなるのか。金沢市にオフィスを構えるITベンダーや業界団体に北陸IT事情を聞いた。
ITベンダーのビジネス拡大へ まずはユーザー企業のIT化を支援
北陸の中心的な経済地域である石川県は機械、繊維、食品、ITの4業種が基幹産業となっている。また、潜在的な需要がありながらあまり手が付けられなかった隙間分野「ニッチ産業」でトップ企業が多いことでも知られている。例えば、小松製作所は建設機械メーカーとして世界的に有名であり、ITではPC周辺機器メーカーのアイ・オー・データ機器、スキャナメーカーのPFUは業界で名を馳せている。
金沢市は昨年3月の北陸新幹線の開通によって、JR金沢駅前を中心に日本人や外国人を問わず観光客が多く、ホテルなどサービス業が潤っている。兼六園や近江町市場など観光名所も賑わいをみせている。今、金沢市が盛り上がっているのだ。
そのような状況のなか、基幹産業の一つであるITで、ベンダーの成長につながるような取り組みが進もうとしている。石川県産業創出支援機構(ISICO)では、「ネット活用相談ステーション」の提供を開始。ISICO内に相談窓口を設けて、ユーザー企業を対象にインターネットを活用したビジネスに関する課題について、個別相談と受け付け解決の支援を行っている。坂芳幸・事務局参事産業振興部長は、「ユーザー企業を支援することで、IT投資意欲を高める」と窓口を開設した目的を説明する。IT化を促すことで、ITベンダーのビジネスにつなげるというわけだ。

ISICOの坂芳幸部長(左)と中川欣司課長
また、直接的にITベンダーを支援する策として「ITビジネスマッチング推進事業」を手がけている。これは、首都圏の大手ITベンダーを石川県に呼んで、県内のITベンダーが自社の製品・サービスをアピールする場を設けるというものだ。今年9月に実施したところ、首都圏から5社、県内から13社のITベンダーが集まった。中川欣司・産業振興部長代理産業情報課長は、「フェイス・トゥー・フェイスで商談ができるということで、両ベンダーに有意義な場との声があった」と手応えを感じている。

IoT推進研究会が始動 30社程度が参加
県内のITベンダーを成長させる取り組みとして、石川県情報システム工業会(ISA)では「ものづくり産業等IoT化推進研究会」と称した研究会を立ち上げた。これは、「鉄工機電」「繊維」「食品」「農業」などものづくり産業のIoT化を推進するため、新しい製品・サービスの創出、セキュリティ強化などに向けた検討・研究活動を行うというもの。横川隆之専務理事は、「県内のITベンダーとユーザー企業のマッチングを実現させたい」との考えを示している。

活動内容は、IoT化に関するセミナーの実施、アドバイザーによるユーザー企業への訪問、IoT化への課題調査、先進事例の視察調査や研究、マッチングなどだ。ユーザー企業を訪問したところ、「興味を示す企業が多かったが、コストが高いと認識して難色を示すケースもあった」としている。このヒアリングを生かして、どのようなIoT関連の製品・サービスを創造すればいいのかを模索していく。

ISA
横川隆之
専務理事 現在、参加企業は30社程度で、そのほとんどがITベンダーだという。横川専務理事は、「ユーザー企業にも、ぜひ参加してもらって、IoTの普及によって、各産業の成長につながることを期待したい」としている。
このように石川県では、ITベンダーのビジネスチャンスにつながる取り組みが、大きくはないものの進んでいる。次ページでは、実際に金沢にオフィスを構えるITベンダーがどのようなビジネスを手がけているかをレポートする。
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