●一般企業の需要が増える開発用の構成済みマシン サーバー製品のみならず、NVIDIAのGPUを搭載したワークステーション型のディープラーニング開発環境も製品が充実しつつある。GPUコンピューティング向け製品を専門に取り扱うGDEPアドバンスでは、高性能なCPUとGPUを搭載したデスクサイド設置型のワークステーション「DeepLearning BOX」を販売しているが、同社によれば教育・研究機関に加え、通信業界や、セキュリティ、画像解析、機械制御などの開発を行う一般企業でも導入実績が拡大しているという。

ディープラーニング開発にすぐ着手できる
「DeepLearning BOX」
同製品は単にハイスペックなパーツを組み立て済みで提供するだけではなく、OSやドライバ、ディープラーニングシステムの開発・運用で一般的に使われる各種フレームワークが検証済みの状態でインストールされており、開発環境の構築が不要なのが特徴。インストール済みのソフトウェアを最新バージョンに更新するアップグレードサービスも提供しており、不用意なアップデートでコンポーネント間の整合性が崩れ開発がストップするといった心配もない。
今年7月からAIビジネスの専業会社となっているUEI(旧ユビキタスエンターテインメント、既存のコンテンツ事業はUEIソリューションズへ移管)は、ソニー・コンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)と共同で、GUIを通じてディープラーニング技術を扱えるソフトウェア「CSLAIER」を開発した。また、CSLAIERをプリインストールしたNVIDIA GPU搭載のワークステーション「DEEPstation DK-1000」をサードウェーブデジノスと共同開発し、販売している。

GUI経由でディープラーニング技術を扱える「CSLAIER」
CSLAIERは、Preferred Networksが開発した国産フレームワーク「Chainer」および、グーグルが開発した「TensorFlow」を、ウェブブラウザ経由で扱えるようにしたGUI環境。例えば、カテゴリごとにフォルダ分けした画像をZIPファイルにまとめ、ブラウザ上からアップロードするだけで、自動的に学習を行い、画像の分類などを試すことができる。ユーザーインターフェースがウェブベースなので、フロアに設置した1台の学習用マシンを共有し、複数ユーザーで学習状態を参照することもできる。CSLAIER自体はGithub上で公開されているオープンソースソフトなので、誰でもダウンロードして利用でき、パブリッククラウド上への展開も可能だ。
電源オンでCSLAIERをすぐに使えるマシンのDEEPstation DK-1000は、NVIDIAの「GTX TITAN X(Pascal)」を3枚搭載した標準機のProfessional Editionが127万4000円からとなっているが、「GeForce GTX 1080」1枚搭載のエントリーモデル・Basic Editionは23万7000円からと低価格になっている。何らかの画像データを保有する企業が「ディープラーニング技術は自社のビジネスに役立ちそうか」を検証するため、「まず触ってみる」ための環境としても適している。

Pascal世代のGPUカードを3枚または4枚搭載できる
「DEEPstation DK-1000」のProfessional Edition
UEIによると、同社のディープラーニング製品の納入先のうち、すでに全体の約50%が一般企業によって占められており、そのほかは約25%が大学、約25%が研究機関という比率になっているという。専門的な知識がなくてもディープラーニング技術を扱える環境が整うことで、ビジネスへのディープラーニング導入が加速し、関連製品の需要も拡大するという、正のスパイラルに入ることが今後期待される。
記者の眼
世界最強の囲碁プログラムを目指して国内のチームが開発する「DeepZenGo」が、11月20日に開催された「第2回囲碁電王戦」第2局で、トッププロ棋士の趙治勲・名誉名人を破った。AIが互先(ハンディキャップ無しの対局)でプロ棋士に勝つのは国内初。対局10日前に開かれた記者会見で趙名誉名人は、DeepZenGoについて「3月時点では小学生だったかわいい子が、67か月経ったら博士になっていた」とコメントしていたが、半年あまりでプロを負かす実力を身につけたのは、まさにディープラーニングの成果だ。とくに、ある局面での相手と自分の優劣を判定する「バリューネットワーク」の学習を進めたことで、この夏以降に飛躍的な棋力向上を果たしたという。
DeepZenGoはリソース効率のよさでも光っている。AlphaGoがイ・セドル九段を破ったときは1000以上のCPUと176個のGPUを使用したのに対し、今回のDeepZenGoは計44コアのCPUおよび4個のGPUだけで動いている。最強クラスのAIが、オフィスの机の上に乗る時代がやってきている。
本稿執筆時点で、囲碁電王戦はAIと人間の各1勝。11月23日の第3局で、2016年時点での「日本のAI」vs「人間」の勝負が決着する。