クラウドは当初、ウェブ系やゲーム系で導入が進んだことから、現在でも「ミッションクリティカルなシステムには向かない」との声を聞くことがある。ただ、クラウドの進化のスピードは速い。多くの場合、その認識は間違いだ。「Amazon Web Services(AWS)」では、多くの基幹システムが稼働している。大きなマシンパワーを要求するシステムも、快適に動く環境を提供。目指すは“エンタープライズこそクラウド”である。(取材・文/畔上文昭)
AWSで本格化するSAP S/4HANAの導入
「AWSのユーザー企業は、アーリーアダプタからメインに移っている。エンタープライズ分野での利用で課題といわれていたことは、すでにクリアされている。もはや、エンタープライズでの議論は、終わり始めている」と瀧澤与一・技術本部エンタープライズソリューション部部長/シニアソリューションアーキテクトは語る。

写真左から、瀧澤与一・技術本部エンタープライズソリューション部部長/
シニアソリューションアーキテクト、今野芳弘・パートナーアライアンス本部本部長、
松木 仁・パートナーアライアンス本部APNプログラムマネージャー
象徴的なのが、SAP製品をAWSで利用するユーザー企業が増えているということ。国内でも100社を超えたことを2016年6月に発表、基幹システムのクラウド化が進んでいることを証明した。
この流れを加速したのが、「Amazon EC2 - X1インスタンス」である。SAP認定の「SAP HANA IaaS Platforms」であり、100%近いユーザーの「SAP S/4HANA」環境をカバーできるとしている。大きなマシンパワーを必要とするインメモリデータベース(DB)の「SAP HANA」。そのHANAをフル活用するSAP S/4HANAが快適に稼働する。瀧澤部長が「エンタープライズでの議論は終わった」と語るのは、そのためだ。
もう一つ、最近の傾向として、「重要なデータこそ、AWSに」とするユーザーが増えているという。例えば、MySQL5.6互換の「Amazon Aurora」。「Auroraはクラウド向けに再設計しているため、レガシーなDBで必要とされる容量設計が不要。利用状況に応じて、自動的に拡張する。耐久性も高く、東京リージョンの場合は同じデータを6か所に格納していて、2か所が停止してもDBの性能は劣化しない。そのため、従来のDBで必要な冗長化が不要」(瀧澤部長)となる。
また、コンセプトベースの話題が多かったIoT関連だが、いよいよ本格的に活用されるようになった。「国内でも、飲食店やガス会社、ショッピングセンターなど、さまざまな業種でIoTソリューションがAWS上で活用されている」と瀧澤部長。AWSでは、IoTアプリケーションをすばやく構築できるように、サービス群を体系化している。
なかでも注目は、IoTのデータ処理に有効なサーバーレスサービス「AWS Lambda」だ。例えば、ある閾値を超えた場合にトランザクションを実行するといったことに活用できる。課金はトランザクション数に応じて発生するため、突発的なトランザクション処理など、IoT以外でも有効活用できる。

コンピテンシーを重視した新たなパートナー戦略
「新しいサービスによるイノベーションは、われわれだけではできない」と、今野芳弘・パートナーアライアンス本部本部長。AWSでは、パートナー企業を積極的に募集する一方で、認定までには高いハードルも設けている。最近では、「SAP製品を始めとする重要なソリューションにハイライトし、パートナーが何を得意としているかなどのコンピテンシーを重要視する方向にある」(今野本部長)。エンタープライズ分野を強く意識したパートナー戦略が、展開されている。
また、AWSでは「次世代のMSP(Managed Service Providers)」として、顧客要求の変化に対応できる高いレベルのパートナーを求めている。MSPパートナープログラムで認定されるには、第三者による監査に合格しなければならないが、「結果的に適切な価値を提供できるようになる」と、松木 仁・パートナーアライアンス本部APNプログラムマネージャー。高いハードルを設けることで、パートナーとともにエンタープライズ分野を開拓していく考えだ。