今年、IT分野の各市場はどう動くのか――。国内IT市場全体が安定しているとの見方が強いなか、厳しい状況を強いられたり、逆に好調に推移していたりと、ハードやソフト、サービスなど、分野によってITベンダーのビジネス模様はさまざまだ。そこで、『週刊BCN』編集部が、これから伸びるであろう注目すべき分野をピックアップした。本特集では、2017年における注目分野の市場動向を占う。
動向予測 IoTインテグレーション市場
●IoTは価値創出の源泉“データ三段活用”がビジネスに変革をもたらす
システムインテグレーション(SI)ビジネスにおいて、2017年はIoTの存在感が一段と高まる。東芝は、20年までにIoT関連のビジネス規模を直近の2倍に相当する「2000億円まで拡大させる」(東芝インダストリアルICTソリューション社の錦織弘信社長)とし、SIerの日本システムウエア(NSW、多田尚二社長)は、将来的に100億円規模のビジネスに育つ潜在力を見出して、業界に先駆けIoTビジネスに取り組んでいる。NSWの多田社長は、「IoT関連事業はここ数年右肩上がりで伸びている」とし、17年以降、一段と成長の速度を上げていく方針を示している。
IoTを活用したSIビジネスが、なぜ有望視されるのか――。この背景にあるのが、ユーザーのビジネスを変革するデジタルトランスフォーメーションだ。
ユーザーの売り上げや利益に直結する収益部門に向けたシステムは、膨大で非定型なデータを分析するビッグデータ分析や、AI(人工知能)を多用したものが主流になるとみられている。既存のERPに代表される基幹業務系のシステム(SoR)とは一線を画す。そして、ビッグデータやAIの能力を発揮するには、より多くの“現場のデータ”が必要となり、この現場からテキストや数字、映像、音声、画像といったあらゆるデータを収集する仕組みがIoTなのである。つまり、ビジネスを変革する価値創出型のシステム(SoE)を実践するには、IoTは必須の構成要素ということになる。
NTTデータの岩本敏男社長は、データ→インフォメーション(情報)→ナレッジ(知識)の“データ三段活用”の重要性を指摘している。これまでのITは、文字通りデータをインフォメーションへと整理する役割を担ってきたが、これからは「一歩踏み込んでユーザーのビジネス拡大に直接的に役立つナレッジやインテリジェンス(知性)へと高めていくことが求められている」と話している。図の「データ活用ピラミッド」で示したように、データ→インフォメーション→ナレッジは三角形のかたちをしており、底辺のデータが多ければ多いほどナレッジ部分がより高く、大きくなるイメージだという。
IoTの活用の上位レイヤに相当するビッグデータ分析やAIばかりではなく、IoTのデバイス側にも注目が集まる。京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は、年額100円からの低価格、電池で5年間駆動の低消費電力のデバイスに対応した無線通信LPWA(省電力、広域)ネットワークサービスに参入。毎秒100ビットと通信速度は遅く、高付加価値、高速のLTEとは対極に位置するサービスで、「これまでになかったIoTにほぼ特化した無線ネットワークサービス」(黒瀬善仁社長)として、20年までに1500万台のIoTデバイスでの利用を見込んでいる。(取材・文/安藤章司)
動向予測 FinTech市場
●企業会計と融資・投資の融合がさらに進むか
Finance+Technology=FinTech。この公式については、すでに説明の必要もないだろう。エンタープライズITの世界でも、FinTechは成長領域として広く認知されるようになった。
矢野経済研究所は、2016年3月に国内FinTech市場の調査結果を発表し、黎明期にある現在の市場を牽引しているのは「クラウド型会計ソフトとソーシャルレンディング」だと指摘している。とくに、週刊BCN読者にもおなじみのクラウド会計ソフトの新興ベンダーは、FinTechの市場立ち上げに向けて主導的な役割を果たしているといえる。ITの戦略的な利活用を軸にした新産業の創出・発展を目指し政策提言などを行う経済団体である新経済連盟(新経連)もFinTech市場の拡大を強力に後押ししようとしているが、新経連内のFinTech推進タスクフォース(TF)のリーダーはマネーフォワードの辻庸介社長CEO、副リーダーはfreeeの佐々木大輔代表取締役が務めている。
同TFは、7月には第一弾の政策提言をまとめて経済産業省に提出したが、FinTechのサービスマップも整理している(図参照)。この図をみると、FinTechを構成するのは必ずしもベンチャー企業が新しく始めたサービスだけではなく、多くが既存の金融機関やITベンダーが生業としてきたビジネスであることがわかる。FinTechとは、端的にいえば、このマッピング図のそれぞれのサービス同士が縦横に連携することで新しい価値を生み出そうという試みだ。矢野経済研究所の調査でも、直近の15年度の国内FinTech市場は、「メガバンクグループや大手SIerのベンチャー企業向けイベントが多く開催され活況を呈したほか、ベンチャー企業と大手企業との協業事例などで市場は盛り上がりをみせている」としている。FinTechは、オープンイノベーションが有効な代表的な分野であるともいえるのだ。
17年は、このマップ内の融資・投資領域と企業会計の連携が一層進むと予想される。というのも、すでにマネーフォワードやfreeeは、金融機関と連携し、クラウド会計ソフトのデータを活用して融資審査を短縮する新サービスを始めている。また、会計事務所専用機の大手・老舗ベンダーであるTKCも、「金融機関向けFinTechサービス」を16年10月にリリースした。TKCのユーザーでありパートナーでもあるTKC全国会会員(1万人超の税理士・公認会計士で構成)の顧問先企業の財務・税務データを、彼らの許諾のもとに金融機関に提供するという内容だ。最新業績をオンラインで閲覧できるようにするほか、月次試算表、決算書や税務申告書などのデータも提供する。すでに全国で167を超える金融機関が採用している。加えて、弥生やOBCも、自社製品ユーザーの企業会計データを活用した新しいレンディングサービスの検討や、金融機関との協業を模索する意向を明らかにしている。こうした大手老舗ベンダーの動きがFinTech市場をさらに活性化させるかもしれない。(取材・文/本多和幸)
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