動向予測 VR市場
●普及の動きはより一層加速する 法人向けVRに取り組むプレーヤーも増加
「VR(仮想現実)元年」といわれた2016年は、米Oculusの「Oculus Rift」や台湾HTCの「HTC Vive」をはじめとするVR向けヘッドマウントディスプレイ(HMD)が発売され、国際的に話題を集めた。国内においては、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのゲーム用VR機「PlayStation VR」の登場が、一般消費者の間でVRの認知を広めることにつながった。
コンシューマの間で認知を拡大したこともあり、VRは「ゲームなどエンタテインメント領域で活用するもの」というイメージが強いかもしれない。しかし、VRはARと同様、法人向けにも活用できるテクノロジーだ。
すでにビジネスとしてVRに取り組むITベンダーによると、トレーニングやシミュレーション、プロモーションなどの用途で、VRの「仮想空間」「没入感」といった特性を生かすことができる。業界別では、製造、医療、教育、観光など。ただし、顧客・ベンダー双方にとってみても、業務におけるVRの実用性についてはまだまだ未知数であり、用途の応用幅は、いまだ両者が思い至っていないところまで大きく広がる可能性がある。顧客とベンダーが一緒になって具体的な活用方法を模索しているというのが現状だ。
また、VRの導入事例が少ないことから投資対効果がはかりにくく、導入に至らないケースもあるという。VR用HMD特有の没入感による「VR酔い」も課題の一つだ。
これらを踏まえたうえで、17年はVRの普及がより一層加速すると考えられる。IDC Japanが16年12月に発表した調査によると、「16年第3四半期の世界のAR/VRヘッドセット出荷台数は、前年同期比681%増の306万台」であったといい、AR(拡張現実)用デバイスを含むとはいえ、現時点でもその伸びは明白だ。今後はさらに、マイクロソフトのMR(複合現実)用HMD「Microsoft HoloLens」など、要注目の関連デバイスの発売が予定されており、VRハードウェア市場はさらに期待値が高まる。
また、世界的にVR投資が増えつつあるなかで、VRコンテンツの制作会社や、顧客の業務にあわせ、デバイスまで含めてソリューションとして提案するITベンダーなど、VRに商機を見出す企業も増加してくるだろう。あわせて、より利用方法が確立したVRソリューションを提供するために、こうした企業の間で協業先を模索する動きが出てくる可能性がある。「16年に入り引き合いが増え、17年もそれは変わらない」「17年にはいくつか事例を公開できるようになるだろう」とは、すでにVRビジネスに取り組む企業の声。黎明期にあるVR市場は今年、大きく花を開きそうだ。(取材・文/前田幸慧)
動向予測 人工知能(AI)
●終わりの始まりか、始まりの終わりか AIの破壊力に気づいた人は取り組んでいる
2017年も、人工知能(AI)ブームは続く。ただ、多くが画像認証や自動応答での活用にとどまるため、人類が期待する「シンギュラリティ」(AIが人類の知能を超えること)には程遠い状況なのは今年も変わらない。さまざまな分野にAIが活用されるものの、劇的な変化は起きないだろう。それゆえ、AIの破壊力に気づいた人が精力的に取り組み、気づかない人が失望するという分岐点の年になりそうだ。
まずは、IoTのゴールとしてのAIについて。インダストリ4.0などに後押しされ、IT業界の話題を牽引してきたIoTは、いよいよ本格的に導入されるようになると17年は期待されている。15年はIoTが話題となり、16年に導入の検討が進み、17年に普及するというステップである。一方で、IoTによって収集したデータは、膨大な量となる。分析処理なのでAIの活用が検討されている。活用事例も増えてきた。本紙でもIoTとAIの交差点を「AIoT」として、何度も取り上げてきている。なかでも、工場の効率化や生産品の品質向上を確実なものとするために、AIの活用が検討されていくことになりそうだ。そのため、パブリッククラウドで提供されているIoT関連サービスでは、さまざまなIoT向けのAIが登場すると予測される。
次に人材不足の分野にAI。国内の多くの地域で進む人口の減少。地方創生の国策は続くが、多くの地域は人口減少を食い止めるのが難しい状況に置かれている。そこで、人間に替わる労働力として期待されるのが、人型ロボットである。そして、ロボットを機能させるために必要となるのが、AIというわけだ。ロボットをシステム開発とどう絡めるのか。ロボットをデバイスの一つとして、これまでのノウハウを生かす発想ができるかどうかが、AI時代におけるSIerの将来を分ける可能性がある。17年は、人型ロボットがどこまで普及するかが、AI分野に大きく影響を与えることになるだろう。
最後に、オープンイノベーションとAI。大手SIerのトップに対し、今後のビジネスを考えるにあたって最も気になるモノは何かと聞くと、多くがAIを口にするようになった。ところが、研究開発はしているとするものの、具体的な活用方法はみえていない。理由は簡単だ。まだ、AIで収益を上げるための勝利の方程式が定まっていないからだ。そこで、オープンイノベーションである。AI関連のスタートアップとSIer、そしてシステムを利用するSIerの顧客という三者によって、AI活用が模索されていく年になる。ヒントは、同様の関係でオープンイノベーションが進んだFinTechにある。(取材・文/畔上文昭)
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