2017年、IT企業各社は市場をどう捉えているのか――。『週刊BCN』編集部はIT業界を代表する企業のトップに、市場動向をはじめ、ユーザー企業の投資意欲、それらを踏まえたビジネスの取り組みなど、17年の動きについてインタビューした。集まった回答をもとに、17年を分析する。(取材・文/佐相彰彦)
●回答いただいたITベンダー
アイエックス・ナレッジ、アイティフォー、アイネット、ITホールディングス、内田洋行、SRAホールディングス、エス・アンド・アイ、SCSK、NECソリューションイノベータ、NECネクサソリューションズ、NECネッツエスアイ、NECフィールディング、NSD、NTTコムウェア、NTTデータ、エプソン販売、応研、OSK、オージス総研、オービックビジネスコンサルタント、OKIデータ、関電システムソリューションズ、キヤノンMJアイティグループホールディングス、京セラコミュニケーションシステム、コア、CAC Holdings、JFEシステムズ、JBCCホールディングス、シネックスインフォテック、PE-BANK、新日鉄住金ソリューションズ、セゾン情報システムズ、ソフトクリエイトホールディングス、ソフトバンク コマース&サービス、ダイワボウ情報システム、TKC、DTS、TDCソフトウェアエンジニアリング、電通国際情報サービス、東芝ITサービス、東芝インダストリアルICTソリューション社、東芝クライアントソリューション、日興通信、ニッセイコム、日本オフィス・システム、日本システムウエア、日本事務器、日本情報通信、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ、日本電子計算、ネットワールド、野村総合研究所、ピー・シー・エー、日立システムズ、富士ソフト、富士通エフ・アイ・ピー、富士通エフサス、富士通ビー・エス・シー、富士通マーケティング、フューチャーアーキテクト、豆蔵ホールディングス、三井情報、ミツイワ、ヤマトシステム開発、弥生、理経(計66社、五十音順)
Analysis IT市場の動向 95%が「成長する」と予測 「ハイブリッド」「非IT」がカギ
ITベンダー各社にIT市場の見通しを聞いたところ、全体の95%が「成長する」と答えた。ただ、伸びは1ケタ前半がほとんどで、緩やかな成長が今後も続くとみられている。
オンプレミス型からオンプレミス型へのリプレース案件が区切りを迎え、市場の牽引材料が変わりつつある。存在感を増しているのは、クラウドだ。ITベンダーにとっては、ユーザー企業の状況に応じてオンプレミス型とクラウドを組み合わせたハイブリッド環境の提供が案件獲得のカギを握る。さまざまなユーザー企業のニーズを的確に捉えて最適に提案していくことが、さらに重要になる。
オンプレミス型の減少でハードウェアの販売が厳しくなると考えられるが、IoTを切り口に非IT機器の需要が増えるとの期待もある。
Analysis ITベンダー各社の業績 話題やニーズを捉えて市場の伸び以上に成長する
市場全体の伸びを87%が「0~4%の成長」と予測しているだけに、自社の業績も市場の伸びと同程度の1ケタ前半と答える傾向がみられたが、なかには自社の業績について「市場の伸び以上は必ず成長させる」と意気込むITベンダーも多かった。市場が「5~9%の成長」と答えたのが6%だったのに対し、自社の業績が「5~9%の成長」と答えたのは4倍以上の26%だった。
業績を伸ばすための決め手となるのが、まずは自社が得意な業種で案件を獲得することだ。例えば、製造業で工場でのIoT化のニーズを吸い上げてソリューション化、金融業でFinTech関連など、話題の技術に対応したソリューションの提供拡大が顧客開拓のトリガーになる可能性がある。また、これまで進出していなかった地域、とくに海外市場でのビジネス拡大に力を注ぐというのも、少子高齢化などを考慮すると、引き続き取り組みが進むことになりそうだ。
Analysis ユーザー企業のIT投資 民需にビジネスチャンスあり 自社の強みを生かして提供拡大
「自治体情報システム強靭性向上モデル」「教育情報化の推進」などによって「公共・教育機関」でのIT投資が活発だった16年に対し、17年は「製造業」「金融・保険業」「流通・サービス業」のIT投資が活発になると答えたITベンダーが、それぞれ20%を超えるなど民需にビジネスチャンスを期待する傾向にある。
製造業で「IoT」、金融・保険業で「FinTech」などの話題があるほか、流通・サービス業ではインバウンドへの対応に向けたシステムのリプレースをはじめ、ロボティクスを活用した接客、リアル(実店舗)とバーチャル(インターネット通販)を融合したオムニチャネルなど、さまざまなIT投資が出てくる機運が高まっている。マーケティング強化の点では、「AI」「ビッグデータ」という新しいトレンドが、ますます脚光を浴びそうだ。民需に強いITベンダーにとっては、17年が大きな成長を遂げる分岐点の一つになるといえるだろう。
Analysis 新トレンドへの取り組み 今はビジネス規模が小さいが3年後は売上比率を2ケタ成長へ
ここ数年、新しいトレンドとして話題になっている「IoT」「AI」「ビッグデータ」がビジネスとして成長軌道に乗りつつある。現段階では、新しいトレンドの売上比率として9割弱のITベンダーが1ケタ台とまだまだ低いものの、3年後には5割弱のITベンダーが2ケタ台を見込んでいる。しかも、20%以上と答えたのは15%となっている。多くのITベンダーが、新しいトレンドを生かして新しいビジネスへの着手、新しい領域への進出に力を注いでいるのがわかる。
多くのITベンダーが、「新規事業推進室」などを設置して自社の強みを生かした製品・サービスの創造に試行錯誤している。新設にあたって、開発や営業、マーケティングなど、さまざまな部署から人員を集めて組織化している傾向がみられる。既存組織を横串にした組織である点が特徴となる。また、アイデアを募集したり、ワークショップを開催したりと、社員の発想力を底上げすることに取り組むケースも出ている。
力を入れている新しいトレンドで最も多かったのは「IoT」。非IT機器へのセンサ搭載でIoT化を模索している。「AI」でロボティクス、「ビッグデータ」でデータサイエンティストなどがキーワードとしてあがる。
Analysis 海外ビジネス 5割以上がビジネス展開に意欲 ASEANでの着手や進出に重点
業界を問わず、日本企業の海外進出が進むなか、ITベンダーによる海外でのビジネス拡大に拍車がかかっている。「計画以上の実績あり。17年度も積極投資」「計画値通りで現状のまま。追加投資はせず展開」と答えた、すでに海外でビジネスを手がけているITベンダーは5割弱。「実績はないが積極投資」が1割弱となっており、海外でのビジネス展開に意欲を示しているのは、6割弱という状況だ。
重点地域は、これからのIT化に注目が集まる「ASEAN」で26%。シンガポールを拠点にASEAN地域へという王道や、タイやベトナムにオフショア拠点の設置、ミャンマーで主導権の掌握などさまざまだ。「東アジア」では、中国を重点に置く傾向が強く、ローカル企業をユーザーとして獲得するために奮闘している。「米国」で、開発力のあるスタートアップとパートナーシップを組むためにシリコンバレーに拠点を置くという答えが印象的だった。
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