信州PCメーカーの取り組み
●エプソンダイレクト
差異化がしやすい特定業務向けに注力
栗林治夫
取締役
エプソンダイレクトのPC事業は、現在約9割が法人向けだ。PC市場について、栗林治夫取締役は「ExcelやWord、PowerPointなどを使う一般業務向けPCとデジタルサイネージなどの特定業務向けPCがあるが、一般業務向けが台数ベースで85%を占める。しかし、いま力を入れているのは約100万台の市場規模の特定業務向けPCだ」と話す。
一般業務向けは特殊性を求めない代わりにコモディティ化がしやすく、価格で購入を決めるケースが多くなる。一方、特定業務向けは小規模ロットになるが、業務ごとに使用条件、環境が多彩で、小回りのきく対応が求められる。「長く使いたい、長時間稼働できる耐久性が必要など、お客様の声を製品に反映させることで、価格以外の価値を提供できる」と栗林取締役は強調する。
直近で発売した特定業務向けPCに、省スペース、小型のPC「ST20E」がある。デジタルサイネージの背面に組み込めるコンパクトさで、HDMI端子だけではなく、VGA端子やLAN端子などを備え、インターフェースが豊富な点が特徴だ。これにより、タッチ対応の最新のディスプレイでも、資産としてすでにもっているディスプレイでも接続が可能だ。
デジタルサイネージ以外でも、POS/受付端末や学習支援端末としても活用できる。また、POSとして提案する際は、レシートプリンタやキャッシャーなども組み合わせることができる。栗林取締役は「特定業務向けの分野は収益につながるという手応えを感じている」と力強く話す。
特定業務向けPCの市場はまだ小さい。一般業務向けPCは差異化がしやすいハイエンドモデルへとシフトし、伸ばして行く計画だ。
長野県安曇野市にある、
エプソンダイレクトのデスクトップPC製造工場
また、特定業務向けPCは、今後ホテルの自動精算、飲食店のオーダーシステム、スーパーの自動精算機といった領域でまだまだ伸びしろがある。「顧客の業種を定めて、困りごとを解決できるよう、商談から販売店様と一体となって取り組んでいく。また地場の実績のあるSler様とも手を組んでいきたい。現在、社内では特定業務向けPCの台数ベースの割合は25%ほどだが、これを30%まで伸ばして行く」と栗林取締役は語る。
●VAIO
顧客に寄り添う製品づくり
花里隆志
執行役員
独立2年目の16年に営業黒字化したVAIO。業績回復の原動力となったのが、法人向けPCの販売拡大だ。16年の取り組みについて、花里隆志執行役員は、「顧客開拓をどんどん進めている。VAIOはコンシューマ向けというイメージをもっている企業がまだ多く、検討の俎上に載りにくい。製品への取り組み方、堅牢性、長野県でつくっていることなどをアピールすることで、徐々に受け入れてもらっている。最近ではソニー時代では採用してもらえなかった大企業からの案件も増えてきた」と話し、手応えを感じている。
製品では、Windows搭載スマートフォン「VAIO Phone Biz」が好調だという。タブレット端末にもPCにもなる2in1モデルが注目されているが、「移動中はタブレット端末よりもスマートフォンの方が使いやすいし、PCとして使おうとするとキーボードがなくて困る、という声を聞く。PCとスマートフォンの2台もち需要に戻りつつあるように感じる」と花里執行役員は語る。とくに「VAIO Phone Biz」は、モバイルデバイスを使った働き方改革を進める企業からの検討案件が増え、大手金融機関などで採用が進んでいるという。
今後の製品開発については、企業のPC選定担当者とエンドユーザーの両方に選ばれる製品づくりを目指す。「エンドユーザーは軽い、バッテリもちがいい、見た目がかっこいいなどの理由で気に入っていただける。選定担当者の視点に立つと、丈夫で壊れにくい、品質がしっかりしている、などが重要になる。この両方を満たす製品づくりを進める」と花里執行役員は話す。
VAIOの安曇野工場
丸山由幸
技術&製造部
部長
販売強化策としては、プロモーション活動を通して認知度を上げつつ、販売パートナーと関係を強化していく。具体的には販売パートナー向けの勉強会、ミーティングの実施、同行営業などを行う。そういった活動を通して、販売店が顧客に提案しやすい情報を整理していく。
また社内のインサイドセールス部隊では、直接顧客にアプローチし、聞き込みの内容を販売店にフィードバックすることで販売店の創客につなげて行く考えだ。
「お客様との会話のなかから、しっかりと声を聞いて製品に反映し、お客様の想像の上を行く製品を開発していきたい」と花里執行役員は語る。
●マウスコンピューター
豊富なラインアップを支える飯山工場
金子 覚
コーポレート営業部
部長
大手PCメーカーの再編により、PC市場は一時混乱したが、それによりかえって売れ行きが伸びたメーカーもある。マウスコンピューターは15年の年末から実施しているテレビCMによって徐々に認知度が上がってきている。そこへ大手PCメーカーの再編が相次ぎ、大手メーカーへの発注を躊躇した販売店からの声かけの頻度が増したという。さらに既存の販売店からの指名買いだけではなく「マウスの商材を担ぎたいというお声が増えた」とコーポレート営業部の金子覚部長は話す。
テレビCMはそもそもコンシューマユーザーをターゲットに始めたが、その後交通広告などにも広げた。結果として、16年1~3月の法人の引き合いが増えた。その要因について金子部長は、「メディアへの露出が増えたことで、企業の決裁者様の認知度が高まったのではないか」と話す。
同社の製品ラインアップは、モバイルPCからゲーミングPC、クリエーター向けPC、ワークステーションと幅広い。販売チャネルごとに製品を縛ることはせず、個人向け製品も法人向けに販売している。「例えば、ゲーミングPCの『G-Tune』は、企業や学術系の研究機関からの引き合いがある。用途に合わせた製品を自由に選んでいただける」とラインアップの多さが強みになっていると金子部長は話した。
マウスコンピューターの飯山工場
松本一成
飯山工場 工場長
一般業務向けPCも、豊富なインターフェースを備えることで差異化を図っており、金子部長は「モバイルPCは薄く、軽くするために入出力ポートがどんどん削られているが、弊社の製品はしっかりと必要な端子を備えている。16年は13インチのモバイルモデルがその点を評価していただき、台数で前年比2倍以上に伸びた」という。
豊富なラインアップの展開に対応できるのは、さまざまなスペックのPCを生産できる飯山工場という国内拠点をもっているからだ。「カスタマイズというバリエーションが武器となる」と金子部長は話す。
今後は販売店との関係強化に力を注ぐ。「販売店様に工場をみていただいたところ、手づくりであることや品質の安全性などを評価してもらえた。日本の販売店として、日本メーカーの製品をもっと売っていきたいという声もいただいた」と金子部長は話す。この経験を生かし、年内に販売店向けの取り組みを体系化し、支援プログラムを提供していく方針だ。
工場、こぼれ話
今回の取材を通して、エプソンダイレクトとマウスコンピューターの工場を見学する機会があった。信州のものづくりの現場をレポートする。
●部品の取り間違いを防ぐ デジタルピッキング
2社とも、セル/サブセル生産方式を採用している。まず、搬入したすべての部品をシリアル登録し、構成表と紐づけていく。次に注文内容に応じた部品のピッキングを行う。コンテナ1個にPC1台分の部品を集める。なお、マウスコンピューターの飯山工場では、出荷の曜日ごとに構成表が色分けされている。
コンテナにPC1台分の部品を集める
(マウスコンピューター 飯山工場)
部品が集まったらスタッフ一人が1台を組み上げる。その後、別のスタッフが組み上がりをチェックし、コネクタの差し位置や通電状況などを確認する。その後、ソフトウェアのインストール、同梱物のセット、梱包、発送と流れていく。
一人でPCを組み立てる
(マウスコンピューター 飯山工場)
この流れで重要となるのが部品や同梱物のピッキングだ。1台1台スペックが異なるため、間違いが起こりやすい。そこで2社が採用しているのがデジタルピッキングシステム(DPS)だ。構成表に記されたバーコードを読み取ると、棚に備え付けられた表示ランプが光り、正しい部品、同梱物を知らせる。ピックアップしたらランプを消すことで、取り忘れを防ぐ。ピッキング作業の効率化になるとともに、間違い防止につながっている。なお、エプソンダイレクトの工場では、ランプ点灯中は音楽が流れ、ピックアップ忘れを防止する工夫がされてる。
必要な部品のランプが光るデジタルピッキングシステム
(エプソンダイレクト 安曇野工場)