中国で人工知能(AI)への関心が高まっている。AIは、全国人民代表大会の政府活動報告に盛り込まれ、国の重要な新興産業の一つに指定された。現地メディアでは、AIに関する報道が白熱しており、新規参入するIT企業も続々と現れている。期待は高まるばかりだが、実際の技術レベルや応用度はいかほどなのか。現地取材を通して、その実態を探った。(取材・文/上海支局 真鍋武)

●中国がAIで世界を変える!?
 
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科大訊飛
劉慶峰
董事長

 「私は確信している。中国のiFLYTEK(科大訊飛)は、AIを用いて世界を変えると」。4月9日、米国のバラク・オバマ前大統領は、広東省深セン市で開催されたITフォーラム「新世代情報技術産業発展高峰論伝」でビデオ演説し、このように語った。それも、英語ではなく、流暢な中国語で。突然のオバマ氏の登場に、会場はどよめいた。

 もちろん、この演説は、実際のオバマ氏によるものではない。科大訊飛の劉慶峰董事長が、講演で自社の技術力をアピールするために、音声合成によって作成した架空の演説を披露したものだ。それでも、演説は本物のオバマ氏の声とそっくりで、中国語も自然な発音。音声合成だと教えてもらわなければ、素人には判別できないほど、よくできていた。

 科大訊飛は、1999年に設立したIT企業。音声認識や音声合成、自然言語処理などを得意としており、中国のAI産業を代表する企業として、最近、現地メディアが頻繁に紹介している。一般の消費者にとっては、スマートフォン文字入力アプリ「訊飛輸入法」などで馴じみのある企業だ。一方、同社は法人向けに技術プラットフォーム「AIUI(訊飛开放平台)」を提供しており、ロボットやスマート端末、組み込みシステム、車載システム、モバイルアプリなどで活用されている。同社によれば、過去1年でAIUIが組み込まれた累計端末数は50%増えたという。

●2017年は応用の着地年

 劉董事長は、「2016年は中国にとってAI元年だった。17年はAI応用の着地年となる。各領域に対して、AIで何ができるのかを実際に発揮していくときだ」と説明する。中国国務院は昨年5月、「“インターネット+”人工智能三年行動実施方案」を発表。AI分野で初となる政府方針を示し、18年までにAI産業を1000億元規模にする構想を掲げた。そして今年3月、全国人民代表大会(全人代)の政府活動報告で、AIは重要な新興技術産業の一つに指定された。同報告に「AI」という単語が盛り込まれたのは今回が初めてだ。

 中国では、政策と経済が直結するため、政府活動報告にAIが盛り込まれた意義は大きい。政府主導の取り組みが重点的に実行されれば、AI関連の基礎理論の研究や製品・サービスの開発、企業での応用、産業化に向けたエコシステム構築が急速に進む可能性がある。
 
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ファーウェイ
徐直軍
輪番CEO兼取締役副会長

 重要産業となったAIについて、全人代以降、中国のメディア各社は報道に力を注いでいる。市場も大きく動いており、アリババやテンセント、バイドウなどのIT大手はもちろんのこと、他業界からの参入や新興ベンチャーも急増。中国最大のIT企業であるファーウェイの徐直軍・輪番CEO兼取締役副会長も、4月に開催した17年の経営戦略説明会で「今後はすべての製品とサービスにAIを盛り込んでいく」との方針を示した。調査会社のIDC中国がこのほど発表した中国AI産業のトレンド予測によると、18年までに、55%の中国企業とISVの開発者は、製品にコグニティブ/AI・機械学習の機能を組み込むようになる見込みだ。
●もはやバズワードではない

 すでに、中国のAI関連企業は100社を超えた。現地のIT関連イベントでは、AIをテーマとした展示や講演が目にみえて増えている。ただしそのなかには、例えば以前からあるBIツールをAIと呼びかえるなど、営業戦略として無理やり「AI」というキーワードを使用している企業も一定数存在する。

 白熱する中国のAI産業だが、その中身は実体を伴っているのか。それとも、ただバズワードとしてAIというフレーズだけが浮遊しているのか。科大訊飛の劉董事長は、「これまでとは違い、真のAI時代が到来している」と主張する。根拠にあるのは、技術力の向上だ。劉董事長によると、「音声合成と音声認識に関して、中国企業はすでに世界のトップレベルにある」という。例えば、テキスト音声合成の品質を競う国際ワークショップ「2016 Blizzard Challenge)」で、科大訊飛はもっとも高い精度を示した。同コンテストの採点では、5点がアナウンサーレベル、4点が米国の一般的な大学生レベルを意味するが、科大訊飛は4.2ポイントを記録。これは、参加企業で唯一の4ポイント台だったという。
 
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 しかし、各社が力を注いでいるといっても、実際に市場に浸透していく段階では、課題も存在する。AI産業の発展には、技術だけでなく、産業エコシステム構築や標準・規範の策定などが求められるからだ。また、IDC中国は中国AIトレンド予測のなかで、「20年までに一部の過激派が反対運動を起こし、10%以下の消費者は、AI製品の導入を控える」とも指摘する。

 では、実際の現場では、どの程度AIの応用が進んでいるのだろうか。また、各社のAI事業戦略とはいかなるものか。現地企業に聞いた。
 
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阿西莫夫科技
康平陸
創始人CEO

【深セン発】AI応用の一例として挙げられるのが、サービスロボットの領域だ。阿西莫夫科技(AXMTEC、康平陸・創始人CEO)は、ソフトバンクロボティクスの人型ロボット「Pepper」の中国国内における開発パートナーを務めている。康・創始人CEOに、中国のサービスロボット市場の実態や今後の事業展開について聞いた。

──現在の中国サービスロボット市場についてどのようにみていますか。

 サービスロボットについては、2014年頃からユーザーが関心を抱き始めました。しかし実際には、大きな成果を上げている例が少ないのが現状です。これは、大きく二つの観点で課題があるからです。一つは、ユーザーのニーズに合致しているサービスロボットが少ないこと。例えば、中国では15年頃に、レストランなどの飲食店で料理を運ぶサービスロボットが流行しました。しかし、最近ではこうしたロボットの姿をみかける機会がめっきり減ってしまった。これは、飲食店のサービスの仕組みが複雑で、ロボットでは満足にニーズを吸収できなかったという証しです。

 もう一つは、自然言語処理や顔認証といった技術の課題です。これらは、実験では高い精度を示すことができても、実際に現場に導入してみると、使い物にならないということがあります。使える技術を研ぎ澄ますには時間と経験が必要ですから、実用的なサービスロボットが増えるには、まだ時間がかかるとみています。

──ユーザーの導入意欲はそれほど高まってはいないのでしょうか。

 市場は非常に大きいのですが、ユーザーの要求も高まっています。なぜなら、実は中国では、ここ2~3年の間にサービスロボットのブームがあったからです。以前は「ロボットがある」と聞けば、ユーザーは飛びつく状況でした。しかし、今は自制の姿勢がみてとれます。これは、まだ大量導入する段階ではないとみているからでしょう。つまり、これまでのサービスロボットは実用的ではなかったと判断しているのです。

──それでは、どのような領域で先行して実用化が進むのでしょうか。

 環境によってユーザーのニーズが大きく異なりますので一概にはいえませんが、われわれが目をつけたのは、空港と銀行です。ここでは、ロボットが人間のように喋って業務を効率化したり、サービスを向上したりするニーズが大きい。

 しかし、これは簡単なことではありません。エンドユーザーの実際のニーズを把握するには、現場での検証が不可欠だからです。そこで、われわれは現在、深センの空港にPepperを配置して、研究室では得られない市場ニーズをつかみ、解決につなげようと挑戦しています。

 実際、いくつかのニーズが把握できました。例えば、空港の顧客がより簡単にチェックインして、チケットを発券するためのサービス。また、搭乗までの待機時間に、どのように過ごせばよいのかを提案してくれるサービスです。このニーズは大きいですね。空港職員のニーズもあって、こちらはセキュリティ検査の手間軽減など、業務効率化につながるものです。

──市場は魅力的ですが、その分競合も増えています。AXMTECの強みは何でしょうか。

 AI市場の未来は無限大に広がっています。まだ競合うんぬんの状況ではありません。大手企業は取り組みを強化していますが、市場はそれだけで埋まらないほど大きいとみています。

 われわれの強みを挙げるなら、それはSLAM(センサマッピング)と自然言語処理の技術です。中国企業のなかでもすぐれていると自負しています。

これに加えて、空港の例で示したように、われわれは実際の活用シーンに合わせて必要なニーズを吸収し、改善を重ねています。他社は現場に出ていないことが多いですが、研究室のなかだけでは、実際のニーズはつかめません。

──今後の展望について教えてください。

 当面の目標は、5000~1万台のサービスロボットをサポートすること。Pepperは重要なロボットですが、そのほかのロボットにも挑戦したいですね。

──ありがとうございました。

※中国国内では、ソフトバンクとアリババグループの合弁会社であるAlibaba Robot Corporationが「Pepper」の販売を担っており、阿西莫夫科技は同社と提携している。
また、人型ロボット「NAO」について、阿西莫夫科技はソフトバンクロボティクスとパートナー関係を結んでいる。

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