Special Feature
独自のアプローチで脅威に対抗!セキュリティスタートアップ特集
2017/06/07 09:00
週刊BCN 2017年05月29日vol.1679掲載
ダークトレース・ジャパン
ネットワークセキュリティでもAIを使った新たな製品が登場
現在、セキュリティ業界でもAIの波が到来し、「AI搭載」をうたう製品が数多く登場している。とくにエンドポイントセキュリティ市場においては、パターンマッチングのような従来型の技術では未知の脅威の侵入を防ぎきれないことを背景に、機械学習などでファイルの振る舞いをみることによって、高度な脅威に対抗する「次世代エンドポイントセキュリティ」が注目を集めている。ここにおいてはとくに、Cylance、Carbon Black、CrowdStrikeといった海外のスタートアップが台頭。後述するCybereasonもその一社だ。大手セキュリティベンダーもエンドポイントセキュリティ製品のバージョンアップでAI搭載を打ち出し追随するなど、市場は一層の盛り上がりを呈している。一方で、エンドポイントセキュリティ以外のセキュリティ分野でも、AIを搭載した製品は登場している。その代表的な一社として、ネットワークセキュリティ製品を提供する英Darktrace(ダークトレース)がある。

ダークトレース・ジャパン
写真左から、根本祥平マーケティングエグゼクティブ、重川隼飛サイバーディフェンス テクノロジースペシャリスト、
ジョン・カーチ リージョナルディレクター、芦矢悠司セールスエグゼクティブ
ダークトレースは、2013年に英ケンブリッジで設立。設立者はケンブリッジ大学の世界的な数学者で、同社のコアテクノロジー「Enterprise Immune System」には、同大で開発された機械学習や数学理論、英国の諜報機関でセキュリティの専門家として活躍した人物らの知見が活用されている。英ケンブリッジと米サンフランシスコに本社を置き、世界24か所に拠点を展開。日本法人であるダークトレース・ジャパンは15年10月に設立し、翌16年より本格的な事業活動を開始した。現在までに、グローバルで60か国以上、2400件に上る導入実績があり、「年次500~600%の成長を遂げている」(根本祥平マーケティングエグゼクティブ)という。
●ネットワークの状態を可視化しふだんの状態と異なる挙動を検知
同社が開発したEnterprise Immune Systemは、組織内のネットワークを可視化して、セキュリティ異常を検知するネットワークアプライアンス製品。同社独自のAIアルゴリズムを活用して組織内ネットワークの定常状態を学習し、ルールやシグネチャに頼らずに、ふだんはみられない異常な通信や挙動をリアルタイムに検知する。検知した異常はアラートとして管理画面に表示し、その後の判断・対処へとつなげることができる。サイバー攻撃だけでなく、内部不正のセキュリティ対策としても有効だ。
ダークトレースが強みとしているのは、シグネチャにしばられない検知、導入の手軽さ、特徴的な管理画面だ。再三述べてきたように、従来型のセキュリティ製品がルールベース、シグネチャベースであることから未知の脅威への対応が困難な場合でも、ネットワーク内のデバイスのふだんの動き、そうではない動きを機械学習で捉えることで、柔軟に脅威の検知が可能。導入にあたっては、ネットワークスイッチのミラーポートに接続することで、スイッチを流れる通信であれば、どのようなデバイスであってもすべてデータをとることができるうえ、自動的に通信の内容を学習するため、細かいルール設定などが不要。アプライアンス1台は、ラックスペース2ユニットサイズで、「1時間でインストールを完了できる」(ジョン・カーチ リージョナルディレクター北アジア)という。また、管理ツールである「Threat Visualizer」では、ネットワークの状態を3Dを用いたグラフィックで表示し、直感的に理解できるようなインターフェースになっている(画面写真参照)。製品の管理者用画面といえば数字やグラフを用いて表示するものが多いが、ダークトレースのこうしたGUIによる見える化は、「お客様からの受けがいい」(同)そうだ。

ちなみに、同社製品は基本的に、他のセキュリティ製品を置き換えるものではない。「セキュリティは何層にもわたって守る必要があり、他のセキュリティ製品と補完し合う関係。全体のセキュリティ強度を高めていくもの」(重川隼飛サイバーディフェンス テクノロジースペシャリスト)だとしている。
ダークトレースは、基本的にはオンプレミスでの運用を想定している。最近のセキュリティ製品はクラウド上で解析を行うものも多いが、「(当社の製品は)ローカル環境で分析を行うため、外部にデータを上げることを避けたい企業でも導入することができる」(同)。また、クラウドや仮想環境への導入、SaaSアプリケーションとの接続も可能だ。
製品は、とくに業種や規模を問わず、幅広い層に展開している。また、手軽な導入やオンプレミスでの運用が可能という特性を生かし、SCADA/ICSなどのOT(Operational Technology)向け製品「Industrial Immune System」を用意しており、重要インフラ事業者に対しての製品提供も行っている。
国内の販売はパートナー経由が主体で、現在、一次代理店として6社と契約を締結している。今後も販売網は拡充していく方針で、芦矢悠司セールスエグゼクティブは、「今後、超大手SIerや独立系SIerと組んでいきたい。とくにネットワークに強いインテグレータとは相性がいいと考えている。当社の製品は、ネットワークの知識があれば運用できることがポイント。ネットワークスイッチなどを手がけてきた販売店がセキュリティ商材として、一緒に売っていただくというのがはまりやすいのでは」と説明。また、「昨年後半頃から、日本においての認知度も上がってきたとの感触がある」と話す。外部からの問い合わせも増えてきたといい、今後はさらに日本での拡販が進んでいくことが予想される。
ゼンムテック
情報を「無意味化」して情報漏えいを起こさせない
ゼンムテック
田口善一
代表取締役社長/CEO
ZENMUで採用している秘密分散技術は、データを意味のない形に分散して保管することで、データを守ることが可能な技術。秘密分散には「しきい値方式」や「AONT方式」などがあるが、一定数の分散片を集めるとデータを復元できるしきい値方式と異なり、AONT方式では、一片でもデータが欠けると元データに復元することができない。データは1KBまで分割することが可能で、分割数や分割するデータのサイズは任意に設定することができる。例えば、PC向け製品の「ZENMU for PC」では、分散片の一片をPCの内蔵ディスク、他の分散片をUSBやスマートフォン、クラウドストレージなどに保管するなどの利用方法が考えられる。
情報漏えいを防ぐために広く利用されているのは、暗号化技術だ。しかし、暗号鍵を用いて暗号化しても、元データはシステム上に存在するため、暗号鍵や暗号化されたデータが盗まれると情報漏えいの危険性がある。一方で、秘密分散技術で分散された分散片は、それ自体は意味のないデータとして解読不能なため、情報漏えいのリスクは低い。
ゼンムテック
檜山太郎
執行役員
マーケティング&セールス本部
同社では現在、PC向け製品のほか、サーバー向けの「ZENMU for Server」、アクセス制御によって同製品の情報管理をより強化した「ZENMU for Meister」、データ送信用の「ZENMU for Delivery」をラインアップ。また、6月より提供を予定するPC版の最新バージョンでは、iPhoneの無線接続に対応し、iPhone側からの操作もできるようになるという。
「守らないセキュリティ」普及なるか!?
同社では近年、大手企業をターゲットに、パートナー経由での製品販売に注力してきた。実際に富士通やLIXILの大型導入など、実績を積み重ねてきた。
今後はさらにSDKの提供による、ソリューションベンダーとのオープンイノベーションに力を入れていく方針だ。実際の協業事例として、ウフルがIoTでの通信コスト削減や情報漏えい対策を目的に「ZENMU SDK」を採用し、現在検証を行っている。「他の企業との検証も進んでいる」(檜山執行役員)といい、ZENMUを活用したソリューションは、今後も増えていく見通しだ。
また、シリコンバレー進出に向けた動きも本格化させている。拠点の設置場所についてはすでに決定しており、現在は進出形態について調整中だ。田口善一代表取締役社長/CEOは、「日本発のソリューションとして、早く海外展開に乗り出したい」と意気込みを示す。
田口社長は、「情報漏えいのリスクがつきまとう暗号化は結局のところ意味がない。ZENMUは、データを無意味化して分散保管し、必要なときだけ集めてくるというアプローチだ。つまり、そもそも情報漏えいを防ぐ必要がない。こうした提案が、経営層に刺さる」と強調する。最近、有力な人材が同社へ移ってくるケースが徐々に増えてきており、先に登場した檜山執行役員もその一人で、前職は30年にわたって東芝に在籍し、同社のラップトップ事業の立ち上げに参画したメンバーの一人だ。新たな情報漏えい対策製品として注目されるゼンムテック。暗号化に代わる新たな製品として市場に受け入れられるかが、今後の展開で証明されていくだろう。
●世界的に猛威を振るった「WannaCry」スタートアップ各社の製品も検知
5月12日以降、ランサムウェア「WannaCry」が世界規模で猛威を振るった。セキュリティベンダー各社の調査によれば、世界150か国以上、30万台以上の端末で被害が相次いだという。Windowsのぜい弱性を悪用した今回の攻撃は、Windows XPやWindows Server 2003といった、マイクロソフトのサポートが終了しているシステムにも影響があったことから、同社ではそれらシステムに対する修正プログラムを公開する、異例の対応を行うに至った。
日本では週末にあたる時間帯に攻撃が目立ち始めたこともあり、被害が少なかったといわれている。しかし、これほど世界規模で同時にサイバー被害にあったケースは前例がなく大きな注目を集めた。日本企業は、セキュリティ投資に関し「実際に被害が起きないとなかなか動かない」といわれがちだが、今回のWannaCryが、そんな日本企業の重い腰を浮かすことにつながるかもしれない。ちなみに、セキュリティベンダー各社が、今回のランサムウェアの分析や自社製品の対応を明らかにしたが、本特集に登場しているセキュリティスタートアップ各社も「WannaCryを検知した」と話している。サイバーリーズン・ジャパン
先述した次世代エンドポイントセキュリティ市場を形づくるスタートアップの一社、Cybereason(サイバーリーズン)は5月19日、同社のエンドポイントセキュリティソリューション「Cybereason」の最新版で、ランサムウェア対策機能を強化したと発表した。
サイバーリーズンは、イスラエル国防軍の諜報部隊でサイバーセキュリティに携わったメンバーらによって設立され、現在約250人いる従業員の多くも同部隊での兵役経験者で構成されている。サイバー攻撃の最前線で培った経験から生み出されたエンドポイントセキュリティソリューションCybereasonを提供。日本においては、ソフトバンクとの合弁で設立されたサイバーリーズン・ジャパンが総代理店の役割を担い、リセラーとしてソフトバンクがサイバーリーズンの製品を販売している。サイバーリーズン・ジャパンにおいても、イスラエル国防軍に在籍したシャイ・ホロヴィッツ氏が取締役CEOを務めており、また、16年10月には、前ファイア・アイ社長の茂木正之氏が執行役員社長に就任している。
同社が提供するCybereasonは、組織内部にマルウェアが侵入した後の対処を担う、EDRのソリューション。AIを活用してふるまいを分析し、マルウェアを検知する。エンドポイント端末に搭載し、情報を収集するセンサ、収集したデータをパターン認識、機械学習、行動解析などの技術を組み合わせたAIを用いてクラウド上で挙動を解析する独自のエンジン、検知した攻撃の詳細をグラフィカルに表示する管理コンソールの、3つのコンポーネントで構成されている。WindowsやMacOS、Linuxに対応し、ファイルのハッシュ値をもとにして攻撃プロセスの実行を自動的にブロックする機能や、不正なプログラムに感染した端末をネットワークから分離する機能などを備えている。
今回発表した最新版では、振る舞い分析やおとり技術を使って、未知のランサムウェアも検知することが可能になった。WannaCryも検知し、暗号化が行われる前に停止させることができたという。
また、あわせて無償で利用できるランサムウェア対策製品の「Cybereason RansomFree」の提供も明らかにした。Cybereasonのランサムウェア対策機能を切り出したPC、サーバー向け製品で、個人、中小企業の利用を想定している。現在は英語版のみだが、日本語への対応も進める考えだ。
Cybereasonの主な販売ターゲットは大企業で、1000ライセンスから提供している。日本においてはソフトバンクが6万台の端末に導入するなどの導入実績をもっている。現状は、ソフトバンクが販売を一手に担っているが、4月から日本での販路拡大に向けて、リセラー向けのパートナープログラムを用意。日本での販売を加速させている。
5月12日以降、ランサムウェア「WannaCry」が世界規模で猛威を振るった。セキュリティベンダー各社の調査によれば、世界150か国以上、30万台以上の端末で被害が相次いだという。Windowsのぜい弱性を悪用した今回の攻撃は、Windows XPやWindows Server 2003といった、マイクロソフトのサポートが終了しているシステムにも影響があったことから、同社ではそれらシステムに対する修正プログラムを公開する、異例の対応を行うに至った。
日本では週末にあたる時間帯に攻撃が目立ち始めたこともあり、被害が少なかったといわれている。しかし、これほど世界規模で同時にサイバー被害にあったケースは前例がなく大きな注目を集めた。日本企業は、セキュリティ投資に関し「実際に被害が起きないとなかなか動かない」といわれがちだが、今回のWannaCryが、そんな日本企業の重い腰を浮かすことにつながるかもしれない。ちなみに、セキュリティベンダー各社が、今回のランサムウェアの分析や自社製品の対応を明らかにしたが、本特集に登場しているセキュリティスタートアップ各社も「WannaCryを検知した」と話している。
サイバーリーズン・ジャパン
イスラエル軍諜報機関の経験から生まれたセキュリティソリューション
先述した次世代エンドポイントセキュリティ市場を形づくるスタートアップの一社、Cybereason(サイバーリーズン)は5月19日、同社のエンドポイントセキュリティソリューション「Cybereason」の最新版で、ランサムウェア対策機能を強化したと発表した。サイバーリーズンは、イスラエル国防軍の諜報部隊でサイバーセキュリティに携わったメンバーらによって設立され、現在約250人いる従業員の多くも同部隊での兵役経験者で構成されている。サイバー攻撃の最前線で培った経験から生み出されたエンドポイントセキュリティソリューションCybereasonを提供。日本においては、ソフトバンクとの合弁で設立されたサイバーリーズン・ジャパンが総代理店の役割を担い、リセラーとしてソフトバンクがサイバーリーズンの製品を販売している。サイバーリーズン・ジャパンにおいても、イスラエル国防軍に在籍したシャイ・ホロヴィッツ氏が取締役CEOを務めており、また、16年10月には、前ファイア・アイ社長の茂木正之氏が執行役員社長に就任している。
同社が提供するCybereasonは、組織内部にマルウェアが侵入した後の対処を担う、EDRのソリューション。AIを活用してふるまいを分析し、マルウェアを検知する。エンドポイント端末に搭載し、情報を収集するセンサ、収集したデータをパターン認識、機械学習、行動解析などの技術を組み合わせたAIを用いてクラウド上で挙動を解析する独自のエンジン、検知した攻撃の詳細をグラフィカルに表示する管理コンソールの、3つのコンポーネントで構成されている。WindowsやMacOS、Linuxに対応し、ファイルのハッシュ値をもとにして攻撃プロセスの実行を自動的にブロックする機能や、不正なプログラムに感染した端末をネットワークから分離する機能などを備えている。
今回発表した最新版では、振る舞い分析やおとり技術を使って、未知のランサムウェアも検知することが可能になった。WannaCryも検知し、暗号化が行われる前に停止させることができたという。
また、あわせて無償で利用できるランサムウェア対策製品の「Cybereason RansomFree」の提供も明らかにした。Cybereasonのランサムウェア対策機能を切り出したPC、サーバー向け製品で、個人、中小企業の利用を想定している。現在は英語版のみだが、日本語への対応も進める考えだ。
Cybereasonの主な販売ターゲットは大企業で、1000ライセンスから提供している。日本においてはソフトバンクが6万台の端末に導入するなどの導入実績をもっている。現状は、ソフトバンクが販売を一手に担っているが、4月から日本での販路拡大に向けて、リセラー向けのパートナープログラムを用意。日本での販売を加速させている。
セキュリティ脅威が複雑化するにつれ、セキュリティ対策も多様化し、新たな技術・製品が脚光を浴びるようになってきている。その中心にいるのが、近年設立されたスタートアップ企業だ。セキュリティスタートアップたちが用意した、新たなセキュリティ対策の中身とは――。(取材・文/前田幸慧)
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