<通信キャリアが本気でIoTに取り組む!>
KDDI 豊富な回線で全方位をカバー
●年度内にセルラーLPWAを開始
原田圭悟
ビジネスIoT推進本部
ビジネスIoT企画部長
「いろいろなデバイスがインターネットにつながり、便利で快適に使える時代がくる」(ビジネスIoT推進本部 ビジネスIoT企画部の原田圭悟部長)。そこに向けて、IoTビジネスに2016年から本格的に取り組み始めた。
通信キャリアであるKDDIの最大の強みはIoTビジネスに欠かせない回線サービスを豊富にもっていることだ。IoTという言葉が生まれる以前のM2M時代からセンサデータを伝送する回線サービスを展開している。その経験とノウハウは現在のIoT回線サービスにも受け継がれている。
16年6月にトヨタの車載通信機とクラウド間で、高品質かつ安定した通信をグローバルに確保するため、従来のローミングサービスなどに依存しない「グローバル通信プラットフォーム」を構築したのを皮切りに、同年12月には「KDDI IoTコネクト Air」の提供を開始した。今年1月にはKDDI IoTコネクト Airを連携させた検証キット「LoRa PoCキット」の提供を開始した。さらに17年度中のサービス開始を目指して、「セルラーLPWA」の準備を進めている。
●選べる五つの通信
17年度中に提供予定のセルラーLPWAとして、「LTE-M」と「MB-IoT」の二つを用意している。KDDIでは、スマートフォンのネットワークを使い、高速通信ができるCat.1、アンライセンスのLoRa、SIGFOXをすでに提供しており、LTE-M、MB-IoTが加わる来年には五つの通信方式が揃うことになる。原田部長は、「ここまで豊富に揃えているのは他社にはないKDDIの強み」とし、KDDIは全方位で展開ができると話す。
それぞれの通信は特徴があり、すべてをカバーするような万能な通信はない。例えば、Cat.1や新たに加わるLTE-Mは、端末と通信する基地局を移動中に切り替え、途切れず通信ができるハンドオーバーに対応する。つまり、自動車や貨物など、移動するものに適している。Cat.1とLTE-Mの通信速度が異なるので、映像や写真などを送るならCat.1、シンプルなデータを送るならLTE-Mと使い分けができる。一方、MB-IoT、LoRa、SIGFOXはビルや山、川など動かないものに適している。
セルラーLPWAは詳細な開始時期は未定だが、すでにあるスマートフォンの基地局をバージョンアップすることで利用できるので、新たに基地局を建てる必要がなく、スタートすればすぐに全国的に使えるようになるだろう。
●IoT市場の成長は緩やか
KDDIは顧客、案件の業種を絞らず、幅広く提案している。「業種を問わず、引き合いが増えている。お客様のニーズに応えていきたい」(原田部長)といい、KDDIと一緒にIoTビジネスを育てていけるパートナーを募集している。「KDDIだけですべての業務を詳しく把握することは難しい。なので、業種・業務に詳しかったり、技術的に特徴があるパートナー様を求めている」と原田部長は話す。
IoTビジネスは注目を集めているが、期待した爆発的な伸びがみられない、という声を聞く。原田部長は「海外に比べ、日本企業は業務効率化、コスト削減に重きをおく傾向にある。欧米ではビジネスを広げる方向に舵を切り、IoTを積極的に活用している。その差で、ゆっくりした動きにみえるのだろう。しかし着実に進んでいる」と話す。
また、法人向けスマートフォンの営業担当だった経験から、IoTはスマートフォンよりも息の長いビジネスになると予測する。「スマートフォンは一人1台だったので、4~5年で伸びが収まった。IoTは一人がもつ複数の端末にセンサが載る可能性がある。幅の広い市場だと考えている」と話す。
KDDIのパートナー戦略
IoTに関心の高い中部エリアで展開
落合孝之
ソリューション事業本部
ビジネスIoT推進本部
ビジネスIoT営業部長
IoTビジネスが興味深いのは、顧客にできあがったソリューションを提供するのではなく、顧客とともにソリューションをつくり上げていく点だ。KDDIはIoTビジネスパートナーを募集する取り組みを中部エリアで、中部電力、中小企業基盤整備機構中部本部(中小機構中部)、シスコシステムズの提携パートナーとともに実施している。
IoTビジネスに関心の高い中小企業は多い。しかし、ソリューション事業本部 ビジネスIoT推進本部ビジネスIoT営業部の落合孝之部長は、「取り組もうとしても、IoTで何のデータを集めていいかわからない企業は少なくない。またせっかく集めたデータも、不要なデータを取り除いたら何も残らなかった、というケースも珍しくない。応募してくれたパートナーとともに実証実験を進め、何が必要なデータで、何が不要なデータか、確かめていく」と話し、ここでIoTビジネスのノウハウを蓄積したい考えだ。
募集するIoTビジネスパートナーは、業種を問わない。LPWAネットワークを活用したIoTビジネスのアイデアやシステムをもち、共同で実証実験ができる中小企業を広く募る。落合部長は「規模が小さくてもすぐれた技術、アイデアをもつ企業はある。IoTビジネスは複数の企業をミックスすることで創出する事業なんだと思う」と話した。
NTTドコモ LPWAとLTEの二本柱で展開
●LPWAのビジネスをつくり出す
瀧上昇平
第一法人営業部
法人サービス第二 担当部長
「顧客からIoTに関する問い合わせが増えている。顧客のニーズの高まりを感じる」と話すのは、NTTドコモの第一法人営業部法人サービス第二の瀧上昇平担当部長だ。
NTTドコモはこれまで、通信事業として大容量、高速のLTEを中心に展開してきた。しかし今や、高速のLTEと低速、低消費電力のLPWAの二本柱で展開する方向性を打ち出している。LPWAを強化する流れのなか、3月にはIoTビジネス創出のため、LPWAの実証実験をスタート。これまでのLPWAを使ったIoTソリューションだけではなく、LPWAを使ったソリューションも提供できるようになった。LPWAはまだ始まったばかりだが、「付加価値を創造できたり、コスト効率向上につながったりするのでは、と期待は大きい」と瀧上担当部長。LPWAの新たなニーズを発掘していきたいと意気込む。
LPWA実証実験では、まずLoRaを利用する。商用化に向けて、どういった要件が必要か、どんなビジネスが実現できるか、またどんな利用シーンがあるかなどを顧客とともに探り、IoTビジネスのパターンをつくり上げていく。3月のリリース発表時は48社の応募があったが、7月中旬時点では約130社に達したという。注目の高さがうかがえる。今後は「セルラーIoT」も加わる予定だ。サービス開始時期は未定だが、いずれは並行して取り組んで行く計画だ。
LTEであるセルラーIoTはモビリティに適しているという特性がある。用途に合わせて提案していくが、瀧上担当部長は「用途に合わせて選んだり、もしかしたらLTEとLPWAの二つを組み合わせるケースもあるかもしれない」と話し、同社の強みとなることを強調した。
また、IoTセミナーやワークショップも実施している。5~6月に都内で2回、IoTセミナーを開催したところ、どちらも60社を超える参加があったという。今後は都内だけではなく、全国に広げていく予定だ。
●課題はデータ解析
浪江聡志
法人ビジネス本部
IoTビジネス部
IoT営業推進
IoTソリューション担当課長
今回の実証実験は、今年9月末まで実施する。その後、年内をめどに事例などをまとめたレポートを作成し、商用化を進めていく計画だ。
そのなかで課題となるのがデータの活用だ。法人ビジネス本部 IoTビジネス部 IoT営業推進 IoTソリューションの浪江聡志担当課長は、「センサでデータを集めた後、どう活用するか、パートナーも含め今議論している」という。
●期待が高まるIoTビジネス
瀧上担当部長は「IoTという言葉は最近できたが、コンセプトは昔からあった。例えば、M2Mコミュニケーションや、ユビキタスサービスなどがそれだ。そういった取り組みを、弊社は15年ぐらい前から取り組んできている」とノウハウの蓄積があることを強調した。「今、IoTというキーワードでもう一度脚光を浴びている」と市場の盛り上がりに期待を込めた。
NTTドコモのパートナー戦略
Azureを中心にソリューションを拡大
NTTドコモは、3月にLPWAの実証実験を開始し、4月にIoTビジネス拡大のため、パートナーとの協業を発表した。具体的には、日本マイクロソフトのパブリッククラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」、ユニアデックスの「IoTビジネスプラットフォーム」を組み合わせたIoTパッケージサービスを9月から共同で販売していく。

中村雅彦
法人ビジネス本部
IoTビジネス部
IoT営業推進担当部長
日本マイクロソフトとユニアデックスを選んだ理由として、法人ビジネス本部 IoTビジネス部 IoT営業推進の中村雅彦担当部長は、「AzureはIoTビジネス向けの機能が充実しており、よく選ばれている。汎用性、拡張性があり、セキュアである。一方、ユニアデックスはIoTの分野で積極的に活動しているSler。採用したプラットフォームはAzureと連携でき、実際に連携した事例が多い」と話す。この二つにNTTドコモの回線を組み合わせることで、簡単に導入できるIoTパッケージを顧客に提案する。
今回、業種は製造業とヘルスケアに絞った。この二つの業種に展開するにあたり、細心の注意を払ったのがセキュリティ面だ。製造業もヘルスケアも秘匿性の高いデータを扱うことが想定されているので、ゲートウェイで集めたデータを暗号化するだけではなく、ドコモの設備からAzureまでを閉域網で接続することで、インターネットを介さない接続を実現した。中村担当部長は「閉域網を使ってAzureに接続する事例は極めて少ない」と話し、セキュリティの高さは他社との差異化のポイントになるという。
パートナー戦略では、パッケージの幅を広げるため、デバイスベンダーと、Azure上で分析できるアプリケーションベンダーをパートナーとして募りたいという。さらに17年秋には製造業版パッケージの提供を開始する予定だ。中村担当部長は「機械だけではなく、人や作業環境もモニタリングし、生産性を上げたい。こうした知恵や知見をもつパートナーと組みたい」と呼びかけた。