Q3 ユーザー企業の動向は?
あらゆる産業でIT投資活発化の傾向は強まる
ユーザーの動向も調査した。17年を振り返ってIT投資がとくに活発だった産業、18年にIT投資が活発化しそうな産業について回答してもらったが、これはあくまでも自社のビジネスにおける肌感覚をベースにしたもの。各ベンダーとも、強みをもっている産業領域がそれぞれあるためか、比較的均等に散らばった感もある。
具体的な数字をみると、まず、17年を振り返ってIT投資がとくに活発だった産業は製造業が37%、金融・保険業24%、流通・サービス業23%、医療・介護6%、公共・教育機関10%。18年にIT投資が活発化すると推測される産業については、製造業37%、金融・保険業16%、流通・サービス業26%、医療・介護10%、公共・教育機関11%という結果になった。
製造業がいずれも37%でトップとなったが、比較的多くのベンダーが携わっている産業領域であることに加え、IoTソリューションによる情報の可視化、生産現場の改善といったニーズがベンダーの実ビジネスに結びつき、IoTの市場が先行して立ち上がりつつあるという事情が大きいようだ。「PoCから本番システム案件への移行が製造業の領域では着実に進んでいる」という手ごたえを語るベンダーは少なくなかった。金融・保険業については、「マイナス金利の影響がユーザーのビジネスにはネガティブな影響をもたらしているが、それがむしろ業務の効率化やビジネスモデル変革へのインセンティブとなり、IT投資を促進している面もあった」という指摘も聞かれた。FinTechへの取り組みも、もはやユーザー側の必須科目といった感がある。また、流通・サービス業は、小売りのオムニチャネル化やビジネスのグローバル化、インバウンド需要の復活などを追い風の要素として指摘する声が聞かれた。
この質問に対しては、「一つに絞り切れない」という回答者が非常に多かった。医療・介護、公共・教育機関のIT投資についても、低調だと感じているベンダーが多いわけではないという印象だ。さらに、建設業や各種第一次産業など、週刊BCN側が選択肢として示さなかった分野でのIT投資が大きく拡大しているという指摘もあった。
Q4 2017年の法人向けIT市場を象徴するキーワードは?
「AI」「IoT」「働き方改革」が強かった
バズワードが浮かんでは消え、消えては浮かぶITの世界。短期間で消費されてしまうキーワードも多いが、うまく世の中に浸透すれば、市場のトレンドを左右することもある。週刊BCN編集部がインタビューした多くの有力ITベンダーのトップには、「2017年の法人向けIT市場を象徴するキーワードを挙げてもらうとしたら?」という問いにも答えてもらった。フリー回答で、複数のキーワードを挙げてもらうのも可という前提。結果を表にまとめてみた。
トップは「AI」で、10社が17年を象徴するキーワードに挙げた。以下、「働き方改革」と「IoT」が8社、「クラウド」4社、「デジタル」「RPA」「セキュリティ」がそれぞれ3社で続いた。なお、デジタルについては、DXなど、デジタル〇〇を共通のカテゴリとして集計している。
傾向を分析してみると、AIとIoTは、両者を合わせて「17年のキーワード」とした回答者が多かった。17年は、データソースの多様化と分析の高度化の流れを踏まえ、ユーザー企業のデジタル変革を後押しするソリューションを提供することで大きなビジネスチャンスを創出できるという認識が、ベンダー側に浸透した年だったといえそうだ。
一方、取材をする側としては、あらゆるITソリューションのマーケティングに、働き方改革というキーワードが使われていたという印象もある。テレワーク、モバイルワークをストレスなく実現するためのコミュニケーションツールやクラウド業務アプリケーションはもちろんのこと、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)などのインフラ製品も、「運用管理のしやすさや導入時の工数の少なさがユーザーの情報システム担当者や販社の働き方改革に貢献する」として拡販が進んだ。3票獲得のRPAも、働き方改革のトレンドが盛り上がるなかで市場に浸透した。
総じていえるのは、AI、IoT、働き方改革をはじめ、その後に続いたキーワードも含めて、それぞれが個別のトレンドとして存在するわけではなく、互いに密接なかかわりをもちつつ市場の現在の姿を構成しているということだ。
Q5 2018年の法人向けIT市場を席捲しそうなキーワードは?
AIは引き続きトレンドの中心、DXの本格化も
前問を受けて、18年の市場はどんなキーワードを中心に動いていくのかという予測についても聞いてみた。結果は、「AI」18社、「デジタル」15社、「IoT」9社、「RPA」5社、「働き方改革」3社となった。
回答してくれた全ベンダーの3分の1近くが、AIを活用したソリューションの開発、そしてビジネスの立ち上げが18年に各方面で加速するとみている。また、デジタルも前問と比べて大きく票を伸ばした。DXを構成するテクノロジーや製品が17年にある程度出揃い、いよいよ本格的にユーザーのビジネスのDXを進めていくフェーズに入ろうとしていることをうかがわせる。
Q6 海外ビジネスで成長できるか?
ASEANに商機を見出すベンダー多数、北米にも積極投資
海外ビジネスの実績がある、もしくは海外進出の意欲があるITベンダーのトップを対象に、現状を聞いた。まず、全社売上高に占める海外売上高比率については、「0~4%」が圧倒的に多く、70%にのぼった。そのほか、「5~9%」が9%、「10~14%」が5%、「15~19%」が5%、「20%以上」は11%となった。ほとんどのベンダーにとって、海外ビジネスはまだまだ主力とはいえず、海外進出を目指そうとしているにせよ、実態はドメスティックなビジネスに頼っているケースがほとんどだ。一方で、2番目に多かった回答が20%以上だったことから、海外市場で成果を得つつあるベンダーも少なからず出てきている状況がうかがえる。こうした傾向は、次の設問の回答結果にも表れている。
17年の海外ビジネスの実績について聞くと、「計画以上の実績あり。18年(18年度)も積極投資する」が28%、「計画値通りで現状のまま。(追加投資はせず)展開する」が56%、「実績はないが積極投資する」が16%という結果になった。日系企業の海外現地法人を対象にしたビジネスを中心に、粛々と事業展開していくという企業が過半数を占めたが、17年に計画以上の実績を残し、18年も積極的に海外ビジネスに投資していくとしたベンダーが3割近くにのぼったのは特筆すべきポイントだといえよう。また、現時点では実績がなくても、海外市場に新たな成長の糧を求めようとするベンダーも決して少なくないことがわかる。
また、海外ビジネスの重点地域については、「ASEAN」と答えたベンダーが50%と群を抜いて多く、以下、「米国」19%、「東アジア」15%、「欧州」と「インド」がそれぞれ6%だった。ASEANは、古くから日本の製造業の進出が盛んなタイ、近年進出が加速していて経済成長も著しいベトナム、インドネシア、マレーシア、そしてASEAN地域のヘッドクォーターが置かれるケースも多いシンガポールなどでビジネスを強化したいという声が目立った。
米国に注力するとしたベンダーで注目したいのは、大手SIerの動きだ。近年、M&Aで米国企業も取り込み、“規模の拡大”を指向する方針を鮮明にしている。世界のIT市場の中心であり、トレンドの発信地でもある米国でどれだけ成長できるかは、グローバルプレイヤーとしてのプレゼンスにつながる。
東アジア、とくに中国市場については、外資系企業に対するさまざまな規制が存在することから、積極的な投資はしないとするベンダーも多かった一方で、米国に次ぐ先進テクノロジー、プロダクトの発信地として注目すべきという声も複数聞かれた。
記者の眼
共通質問を複数のベンダーにぶつけてみると、個別のベンダーの強みや課題がより鮮明にみえてくるとともに、18年の市場がどのように動いていくのか、おぼろげながら輪郭がみえてくる。17年に市場に浸透したDXの概念、そしてそれを構成する新興技術やビジネスモデルが、実際の案件につながってくる手応えを、多くのベンダーが感じているのは間違いない。国内の有力ITベンダーのトップにインタビューした成果は、1月1日号から「年頭所感」としてアウトプットしている。