「ポスト2020」を見越した対策とは
ユーザーとSIerがともに勝ち残る方策を考え出す
企業経営にとってITの重要性が高まれば高まるほど、ユーザー自らがITをコントロールしようとする動機が高まる。ここにSIerが食い込んでいくには、ユーザーと目標を共有し、しっかりとした結果を出していくことが一層重要になる。「ポスト2020」はユーザー企業とSIerがともに勝ち残る方策を考え出すと言い換えることができる。SIerの具体的な対策をレポートする。
新日鉄住金ソリューションズ
ユーザーとの目標共有と効果測定がカギ
ユーザーの内製指向は、組み込みソフトでは割と早い段階からみられた。例えば自動車業界でコネクティッドカーや将来の自動運転に向けたソフトウェア開発は、自動車メーカーや大手部品メーカーが内製する割合が高いとされる。ソフトウェアは自動車の価値を左右するほど大きな存在になっており、そのソフトウェアの設計・開発を外部に依存するのを敬遠。結果として内製指向が強まった。
謝敷宗敬
社長
企業経営においても同様だ。新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)の謝敷宗敬社長は、「ソフトウェアによって企業の競争力が定義されるようになる」と話す。SDN(ソフトウェア制御ネットワーク)ならぬ、SDE(ソフトウェア制御エンタープライズ)の時代に入るのが「ポスト2020」。価値を生みだす源泉であるソフトウェアを自社内でコントロールしたいと考えるユーザー企業が一段と増える。
これまでも、ネット通販会社やソーシャルサービス会社、シェアリングサービス会社などで内製指向が強いのは、ソフトウェアが事業の中核部分を占めるからだった。ソフトウェアで企業の競争力が定義されるようになれば、業種・業態を問わず自社でコントロールしたいと考えるユーザーが増えることは自然な流れ。「SIerはユーザーと同じ目標感をもつ姿勢がより強く求められる」(謝敷社長)とみる。
経済全体のリセッションや人手不足は、「ユーザーもSIerも条件は同じ」(同)と、厳しいながらも、SIerだけのマイナス要因ではないと分析。重要なのは、ユーザーが目標を達成するための「答え」をSIer側がちゃんと用意し、その答えが正しかったかどうかの「効果測定」まで踏み込んでいくこと。ただ、新しい技術を提案するだけでは不十分であることを踏まえた対策が「ポスト2020」で勝ち残るポイントになる。
CAC Holdings
売り上げの3割を新デジタル領域で稼ぐ
CAC Holdingsの酒匂明彦社長は、「新しいデジタル領域を伸ばせるかが、今後のITビジネスの趨勢を決める」と明言する。デジタル領域とはAIやロボティクス、IoTなどを駆使したデジタル新ビジネスのことだ。
酒匂明彦
社長
「ポスト2020」に対して同社は、新デジタル領域を本格的に伸ばしていく方針を打ち出す。近年ではアフェクティブ・コンピューティング(感情認識AI)やコミュニケーションロボットなどの分野で、国内外のスタートアップ企業への出資を積極的に行っている。少し毛色が変わったところでは、砂漠でも高い栄養価の野菜を栽培できるフイルム農法のスタートアップ企業のスポンサーになるなど、新デジタル領域へ傾注。酒匂社長は「もし200億円の与信枠があるとすれば、すべてスタートアップに投資したい気分。そのほうが当社グループが勝ち残る確率は高い」とまで言う。
酒匂社長はグループ最大の事業会社であるシーエーシー社長も兼任していたが、この1月1日付で後任に譲り、自身は持ち株会社であるCAC Holdings社長に専任することにした。国内10社/海外12社のグループ全体の企業価値・利益の最大化に専念するためだ。スタートアップへの出資だけでなく、海外SIerのM&A(合併と買収)も積極的に展開。すでにグループ社員約5700人のうち海外社員が約6割を占める。
直近では、インド法人が同国に進出する英国の運輸会社向けにIoTを活用したり、米国法人が同国の牛の健康管理にIoTを役立てるビジネスを立ち上げている。国内のみならず海外での新デジタル領域のビジネスにも意欲的に取り組むことで、向こう4、5年でグループ年商の3割余りを新デジタル領域が占めることを目指す。これがCAC Holdingsの「ポスト2020」の戦略である。
豆蔵ホールディングス
五輪後のリセッションはM&Aの好機
豆蔵ホールディングスの荻原紀男社長は「ポスト2020」に向けた施策の一つに「M&A」を挙げる。同社は、08年のリーマン・ショックの直後からM&Aを本格化。当時は年商40億円前後で推移していた同社だったが、同業SIerやソフト開発会社を次々とグループに迎え入れることで直近は230億円規模まで売り上げを伸ばしてきた。
荻原紀男
社長
「ポスト2020」で、仮に何らかのリセッションがあるとすれば、かつてのリーマン・ショックのときのように企業価値を下げた会社を「M&Aでグループに迎え入れる好機」(荻原社長)だとみている。ここ数年続いているSIerの良好な事業環境によって、「実態よりも高くM&A価格が評価されている」(同)と指摘。IT投資が一区切りついた「ポスト2020」のタイミングで、実態に合った評価に落ち着くとすれば、豆蔵ホールディングスにとってM&Aの好機が再び訪れることを意味する。
過去を振り返れば、かつてグループに迎え入れた会社は、必ずしも高収益会社ばかりではなかった。しかし、荻原社長率いる豆蔵ホールディングスの組織改革によって次々と高収益企業へと生まれ変わっていった。同社上期(17年4-9月期)の連結営業利益率は7.9%、通期(18年3月期)は同9.6%を見込む。二ケタに迫る営業利益率は、国内SIerのなかでも高水準な部類に入る。
技術者のスキル転換や新規技術の取得、独自商材の開発強化、次世代の基幹系システムのプロジェクトにしっかり食い込むといった重点施策と相まって、M&A戦略と組織改革のコンビネーションは、豆蔵ホールディングスの事業拡大に重要な役割を果たしている。そして、「ポスト2020」をきっかけに、再び外部成長のエンジンを回す機会を虎視眈々と狙っている。
SCSK
ユーザーとともに新しいビジネスを仕掛ける
SCSKは、「ポスト2020」を見据えて5か年の中期経営計画を実行中だ。基本戦略は「サービス提供型ビジネスへのシフト」「戦略的事業の推進」「グローバル展開」の三つ。とりわけ一つめの「サービス提供型ビジネスへのシフト」は、従来型の労働集約型ビジネスからの脱却につながる重要戦略。目下、さまざまなサービス開発に邁進している。
谷原 徹
社長
具体的には、流通業向けオムニチャネル・サポートサービスや製造業向けIoT活用型の業務変革支援、金融機関向けのスマートフォン対応ワンツーワン・コミュニケーションアプリなど、矢継ぎ早に拡充。5か年中期経営計画の最終年度の20年3月期には、こうした「サービス提供型ビジネス」の規模を昨年度比で約2倍に相当する1000億円にすることを目指している。
谷原徹社長は、「ユーザーからのインプットがなければ、SEがアウトプットを出せない。これは労働集約型のビジネスを手がけるSIerの最大の弱点」だと話す。「ポスト2020」で比重が高まるデジタル新領域では、ユーザーとともにビジネスを立ち上げていく力量が問われる。インプット待ちでは、常にユーザーより一歩遅れてしまうため、ユーザーの期待に応えられない。いわば、「サービス提供型ビジネスへのシフト」は、ユーザーより一歩先を進み、ユーザーの新しいデジタルビジネスを立ち上げるのに不可欠なスタイルだと谷原社長は捉える。
競争力あるサービスを揃えてこそ、新しいビジネスが仕掛けられる。「ポスト2020」では、ユーザーとともに新しいビジネスを立ち上げ、成功に導く戦略的ITパートナーのポジションを獲得。成長を持続させていく。
PE-BANK
異業種連携で「ポスト2020」に備える
個人事業主(プロエンジニア)およそ3200人で組織するPE-BANKの昨年度(17年8月期)取扱高は、前年度比10%近く伸びた。受注環境は非常に好調で、「仕事をとろうと思ったら、どれだけでもとれる」(櫻井多佳子社長)と話す。一方でエンジニアがほぼフル稼働の状態が続いており、こなしきれない案件は協力会社に外注するほど。ただ、目の前の仕事ばかりを追っていては、「仮に20年を区切りにリセッションが起きたとき、総崩れになりかねない」と危機感を強める。
櫻井多佳子
社長
そこで今年度に入ってからは、一部方針を転換。「ポスト2020」でも成長が見込めるAIやロボティクス、IoTなどの新領域を優先的に受注するようにした。PE-BANKのエンジニアの多くは、伝統的に金融機関の基幹系システムの構築をはじめ、レガシーSIに分類される領域での活躍が目立つ。そこで「ポスト2020」を見越したスキル転換の一環として、成長可能性の高いAIやロボティクスなどの勉強会や研究会を全国の拠点で開催。直近1年間の開催件数は250件あまりで、ざっくり隔週に1回は何らかの勉強会、研究会を各地で開いている計算になる。
なかでも、「ファッション業界の未来とIT」「IT×スポーツ」といった異業種連携のテーマが目を引く。異業種の講師を招いて異業種との接点を増やす活動に力を入れることで、新しいデジタルビジネスにつながるヒントを探る活動だ。「ポスト2020」を見越した動きによって、「既存のビジネスの伸びが横ばいになったとしても、新領域のビジネスは年率10%の勢いで伸ばしていく」(櫻井社長)と腹をくくる。成長領域の案件の受注活動に力を入れるとともに、エンジニアのキャリアアップ支援を行うことで、「ポスト2020」に備えた対策を本格化させる。