「地域」を切り口にシステム需要を創出
複数プレーヤーによる多層的なサービス構築がカギ
<シェアリングサービス側の事情>
国内シェアリングサービスは「地域」がカギを握るとシェアリングエコノミーに携わるプレーヤーはみている。地域に密着した多層的なシェアリングサービスを構築。既存企業やスタートアップ企業などを巻き込んだシステム需要を取り込んでいくことがITベンダーのビジネスチャンスとなる。
「地域」単位で経済活動の
底上げを測る
シェアリングエコノミー協会
重松大輔
代表理事
シェアリングエコノミー協会代表理事を務めるスペースマーケットの重松大輔CEOは、「市民主導の街づくりに大きな潜在力がある」と指摘している。
キーワードは「地域」だ。地域が抱える課題は、子育て/介護や人口減少、観光誘致、農業/産業の振興などさまざま。少子高齢化の厳しい情勢のなかで、民間企業の商業ベースに乗りにくい分野も多い。とはいえ、税金(公助)ばかりに依存していては財政が破綻しかねない。そこで全国の自治体から関心が高いのが、民間や市民主体のシェアリングエコノミーの仕組みを取り入れた「共助」だ。
地域の子育て/介護、観光など、個人レベルの小さなリソースを少しずつシェアしていくことで、経済活動の底上げを図る。
シェアリングエコノミー協会では、「地域」に根ざしたシェアリングエコノミーの第一歩として、今年度(2018年3月期)から「シェアリングシティ認定制度」をスタート。同協会の会員企業のシェアサービスを二つ以上導入していることなどを条件に、北は北海道の天塩町、南は奄美大島の奄美市まで全国15団体を認定を受けた。他の自治体からも参加への打診がきており、来年度(19年3月期)は30団体に認定団体が増える見通し。
中国をはじめとする成長市場型のシェアリングエコノミーは、個人間取引(c対c)が起爆剤となって市場が急拡大した。成熟市場では既存の企業が質の高いサービスをすでに提供していることもあり、その仕組みをトランスフォーメーション(転換)させるほどの強い動機づけがあるとも限らない。むしろ既存の仕組みのなかに、うまくシェアリングエコノミーのメリットを落とし込んでいくほうが馴じみやすい。
重松代表理事の所属会社であるスペースマーケットは、「場所」のシェアリングサービスを提供している。個人所有の民家から映画館まで、空き時間をみんなでシェアできるサービスで、直近の利用件数の約3割が法人が占める。件数ベースでは個人利用が約7割と多いものの、金額ベースでは法人と個人はほぼ半々だ。味気ない会議室でセミナーを開くより、ラグジュアリー感がある劇場でセミナーを開いたり、個人なら和風の古民家でコスプレ撮影をしたりと、シェアする側、シェアされる側と「個人/法人問わず、多様な活用ができるのが人気だ」と話す。
海外大手は最新技術で
大規模開発を実践
ガイアックス
岡田健太郎
執行役
シェアリングサービス事業者からITベンダーやSIerはどうみえているのだろうか。シェアリングサービスに詳しいガイアックスの岡田健太郎執行役は、「国内のシェアリングサービス事業者の9割方が、システムを内製している」と指摘。Amazon Web Services(AWS)などのパブリッククラウドや決済サービスは外部のものを活用しているケースは多いが、システム開発は内製しているケースが多くを占める。
スタートアップ企業が多いため、外注できる資金的余裕がない事情もあるが、それよりも、いちいち仕様を固めて、外注していては経営のスピードが上がらず、激しい競争に勝てないということが背景に挙げられる。
ITベンダーやSIerは、機会あるごとにデジタルビジネスを勝ち抜くために支援するとメッセージを発したり、プロトタイプから徐々に完成度を高めていくアジャイル開発の手法を提案したりしているが、肝心のデジタルビジネスの先端を行くシェアリングサービス事業者には、こうしたSIerの思いは十分に届いているとはいえないようだ。
もう一つ、シェアリングサービスは、スマートフォンのアプリを開発している印象が強く、基幹業務システムの構築経験が長いSIerは、「自分たちの主戦場ではない」と思い込んでいる節も見受けられる。
開発規模が小さすぎて、自分たちのビジネスの間尺に合わないとみているとしたら、必ずしも正しい見方とはいえないようだ。Airbnbなど大手の民泊シェアサービス会社では、「今のシステムを開発するのに数千人月規模のエンジニアを投入している」と岡田執行役は推測。最先端の機械学習のアルゴリズムを活用して、シェアサービスの活性化に向けたマーケティングや価格形成の支援を行う大規模なシステム開発を行っている。
残念ながらシェアリングサービスで、こうした大規模開発を実践しているのは、資金力のある海外大手シェアサービス会社が中心。見方を変えれば、システム開発力にすぐれた海外サービスに日本のスタートアップや既存企業は勝てない危険性もはらんでいる。
<IT業界側からみるシェアリングサービス>
NEC
会員組織の活性化に シェアサービスを応用
NECは、シェアリングサービスを支援する「シェアリングサービスプラットフォーム」を2017年10月からスタート。シェアするモノや場所、スキルを登録したり、料金計算、ユーザーレビュー(評価)、会員管理などの機能をパッケージ化した。
NECが注目するのは「地域」だ。民泊などはその場所に行かなければ意味がないし、家事代行や育児支援のスキルをシェアしようにも、同じ地域に住んでいる必要がある。オンラインでやりとりができる一部のクラウドソーシングやフリーマーケットなどを除く、多くのシェアサービスは地域密着型。そこで、NECでは会員組織を有している既存企業に働きかけて、シェアリングサービスとのマッチングを試みている。
NECの柴田道男シニアマネージャー(右)と福田浩一主任
例えば、電気/ガス、食品スーパー、金融機関、自治体と地域に密着した会員組織をもっている企業や団体のなかには、「『会員組織のより一層の活性化をしたい』とのニーズが大きい」と、NECの柴田道男・産業ソリューション事業部第二インテグレーショングループシニアマネージャーは手応えを感じている。
同プラットフォームでは、シェアリングに関わる部分と、会員組織の管理システムを二層構造にした(図参照)。すでに会員組織をもっている企業/団体であれば、シェアリング部分の機能を増築することで、「既存会員向けに多様なシェアリングサービスをすぐにでも提供できるようになる」(NECの福田浩一・コーポレートマーケティング本部主任)わけだ。
富士通
幅広い業種・業態の 顧客と商談が進行中
富士通は、NECより一足早い17年4月から「シェアリングビジネス基盤サービス」をスタート。富士通クラウドサービスの「K5」の一部機能として実装するとともに、スタートアップ企業や自治体でも気軽に活用できるよう、利用料金も抑えめに設定している。
富士通の松本安英シニアディレクター(右)と秦早穂子氏
シェアリング管理やマッチング、ユーザーからの評価など一通りの機能を実装。さらにK5に備わっているクラウド基盤やIoTプラットフォーム、AI(人工知能)のZinrai(ジンライ)といった機能を、「APIで呼び出して必要に応じて柔軟に拡張できる」(富士通の松本安英・ビジネスプラットフォームサービス統括部シニアディレクター)ことを強みとする。このシェアリングビジネス基盤サービスは、「シェアリングサービスを低い初期投資で構築できる」ことなどが評価されて2017年度グッドデザイン賞を受賞した。
営業面では、富士通も「地域」に着目している。北海道に住んでいる人のスキルを沖縄でシェアすることは現実的ではない。地域密着の特性を踏まえたうえで、「自治体や流通・サービスなど、幅広い業種・業態の顧客と商談を進めている」(富士通のビジネスプラットフォームサービス統括部の秦早穂子氏)と話す。場所やスキルを中心に、地域のなかで多層的にサービスを構築していくビジネスの基盤として活用されるようになれば、商談規模も自ずと大きくなる。18年度に向けて「さまざまな業種・業態の顧客向けの案件成約につなげていきたい」(同)と意欲を示している。
GMOインターネットグループ
シェア向け決済は 倍増の勢いで拡大見込む
GMOインターネットグループは、シェアリングサービス関連事業としてフリーマーケットや決済サービスを手がけている。GMOペパボが手がけるハンドメイドマーケット「minne(ミンネ)」は17年の年間流通総額が100億円を突破。わずか3年で流通総額が10倍に拡大した。また、決済代行サービスを手がけるGMOペイメントゲートウェイは、「シェアリングサービス事業者向けの決済関連サービスは、向こう数年は毎年倍増する勢いで拡大していく」(GMOペイメントゲートウェイの谷中亮・イノベーション戦略室室長)と手応えを感じている。
GMOペイメントゲートウェイの谷中亮室長(左)と
須田真暢担当課長
GMOペイメントゲートウェイは、ネット通販向けの決済代行サービスで業績を伸ばしてきた。従来のネット通販とシェアリングサービスの決済サービス面での最大の違いは、モノや場所、スキルを提供する出品者への支払いがあること。ネット通販は事業者が顧客へ販売。代金を回収してトランザクションが終わるが、シェアリングサービスの場合、代金を回収してから出品者へその代金を支払うところまでカバーする必要がある。
同社では、15年時点でこの仕組みを構築。他社に先駆けてシェアリングサービス事業者向けのサービスを立ち上げたこともあり「この分野でも大きく決済関連サービスビジネスを伸ばしていけそうだ」(同社の須田真暢・イノベーション戦略室担当課長)と話している。