第4章 Partnering
IT+OTの領域をアライアンスで賄う
IoTのシステム開発をするうえでは、部材・商材、通信環境、情報システム、AIなどのテクノロジーを含め、必要な要素が多岐にわたる。各領域に関する技術スキルをもつ人材確保も課題だ。そういう意味で、マルチで各領域に強いソリューションをもつベンダーとの連携で、都築電気は数多くのメーカーなどと強固なアライアンスを築く。製造・組込み領域では、ワイヤレスモジュールや生産現場の各種ソリューションと、無線・ネットワーク構築でも、LPWA(Low Power Wide Area)の標準化団体や通信キャリアと、従来の得意技である情報系のクラウド構築・運用で基幹システムをもつメーカーの商材を扱う。佐藤室長は「特定の領域に強いベンダーとマッチングし、IoTビジネスを拡大する」と、センシング、データ収集、設備管理、データ分析に加え、将来の自律制御の全カテゴリで製品やソリューションを揃える(図4)。
ただ、センサから分析系のAIやBI(ビジネス・インテリジェンス)などの情報系システムまで含めてすべてを顧客に強いるとなると、膨大なコストがかかり、案件によってはしり込みをされてしまう。「いかに安価に、顧客に適したセンサ・デバイスを開発し、いかに安くデータを拾う仕組みをつくるかが重要だ。当社は、トータルで各カテゴリ別に商材を提供できるため、コスト低減に貢献できる」(佐藤室長)と、関連ベンダーと組めていることと、その技術を習得していることの重要性を指摘している。
Hisolは、ITとOTの両領域に強みをもつベンダーが日立グループ内に多く存在する。同社はSI会社であり、エッジ領域の強化が重要だ。そのため、ここ数年は、「OTの領域が得意なグループ会社に人を出向させ、技術を学ばせている」(髙橋副事業部長)と、人的な投資も増やしている。都築電気の佐藤室長がいうように、「IoTの営業先は、従来の情報システム担当者から生産部門など別部門になっている」。Hisolも、「システム導入を前提とした話でなく、コンサルティングをしながら顧客の課題を発見するスタイルが求められる」(柚山部長)と、営業やマーケティングの方法を転換しているという。
NSWは、IoTの取り組みに踏み切らせることができた企業をこう分析。「小さなスタートから、小さな結果を出す」(竹村部長)。どの情報をどう見える化し、どのような効果が期待できるか。このPDCAサイクルを繰り返し実行し試行錯誤するなかで、顧客の投資対効果(ROI)を導き出すことが重要と説く。同社のToamiは、10数社のSIパートナーがいる。1社だけでIoT事業を拡大するだけでなく、ビジネスモデルを共有できる同業他社との連携も拡大中だ。
都築電気
大桃幸治
エンジニアリング・ソリューション
統括部統括部長
兼ソリューション
技術部長
国内のIoT市場を拡大するうえで、エッジ領域の標準化に向けた同業他社のアライアンスが始まっている。昨年12月には、三菱電機などを中心にした「Edgecrossコンソーシアム」が立ち上がった。都築電気とNSWは、同団体に加盟。都築電気の大桃部長は、「FAとITを協調するオープンな日本発のエッジ・コンピューティング領域の基盤が必要だ。呉越同舟の団体だが、製造業だけでなく、さまざまな産業への適用が拡大できると、SIerの側では開発コストの低減や設計品質の向上などにつながる」と、エッジ領域の課題解決に重要な動きとなっている。
NSWの竹村部長は、IoT基盤に求められる要件として次のことを挙げる。「開発の効率、外部連携・連動、データとアプリの分離、デバイスへの組込み」。これらをクリアするため、Toamiが基盤として有効に作用しているわけだが、これ以外でも、通信キャリアやIoTゲートウェイ、センサメーカー、パッケージソフト会社、機器メーカーなどと「共創(=協創)」しなければ、1社だけで顧客の要件を賄えないという。
IoT事業で儲けるには、情報システムを売りにいく従来型のSIだと壁にぶつかる。情報システムを顧客に納品して終わりのビジネスではない。センサから出たデータなどを活用し、顧客の事業変革を促すことができなければ評価されない。顧客の発注先も、従来の情報システム部門からではなく、事業部門になっている。
IoTの世界で勝つには、顧客の課題の見極めができ、解決の手段をもっていることが重要になる。
Opinion
ウフル 上級執行役員 IoTイノベーションセンター所長兼
エグゼクティブコンサルタント 八子知礼 氏に聞く
IoTの基本はクラウド
ウフルでは、2016年を「IoT元年」、17年を「エッジ元年」と位置づけた。そして18年は「インダストリアル・プラットフォーム元年」だ。16年には、IoTの導入事例が増加。17年には政府が「Connected Industries」というコンセプトを提示。つながる産業の世界観が描かれキーワードとして刺激を与えた。また、リアルタイム性が求められエッジ側でデータを処理する必要性が出てきた。18年は、IT会社でない企業がIoT基盤を立ち上げ、センサやデバイスなどをつなぎ、そこで得たデータをオープンにし他社に提供する動きが、一段と活発化すると予測している(図5)。
Connected Industriesの意味するところは、最後の「s」にある。「複数の産業をつなぐ」ことだ。例えば、高齢化で事業承継が困難な農家に対し、作物の生産だけでなく、流通や店頭の業者を巻き込み需要予測を加えて、供給量決め、産直ビジネスを推進する。一昨年から「地方版IoT推進ラボ」が全国74か所で立ち上がった。地元のITベンダーらに加え、課題を抱える地元産業界が集まり、連携が始まった。ただ、まだ巧拙がある。
多くの地域では、IT関係者とノンIT関係者が地元の課題発見で集まる機会が増えた。これらの活動に積極的なのは、ITをよく知らないノンIT関係者だ。ITベンダーは、依然として情報システム部門へ営業しているが、課題を抱える現場こそがあたり先だ。
企業がIoTを検討する際、データが見えると現場からアイデアが出てくる。まずは、トライ&エラーを速く繰り返し、徐々に拡張を続け、最終的に商用化に結びつけるやり方がいい。IoTのビジネスモデルは、基本的にクラウドサービス型である。最終的には、サブスクリプションモデルであったり、あるいは機器のリースの形で提供すべきだ。これまでのSIの発想を抜け出る必要がある。