中国の国会にあたる第13期全国人民代表大会(全人代)が、21日間の会期を終えて3月16日に閉幕した。2018年の国内総生産(GDP)の伸び率は6.5%前後に据え置かれたものの、依然として成長機運は高く、積極的なITの利活用は今後も続く見通しだ。全人代の内容を踏まえ、中国のIT施策の注力分野と商機拡大のポイントを紹介する。(取材・文/齋藤秀平)
高速成長から質の高い発展へ
まずは中国の現状について整理してみたい。全人代では、その年の中国政府の方針が発表される。このなかで、とくに注目されるのがGDPの動向だ。
中国のGDPは近年、大きく伸び続けてきた。2010年には日本を抜き、米国に次ぐ世界第2位の座についた。中国政府のデータによると、その後も成長を続けており、17年のGDP(速報値)は82兆7100億元(約1396兆8000億円)となった。
伸び率をみると、かつては二桁成長をした年もあったが、最近は6~7%台の伸び率で推移し、17年の伸び率は6.9%だった。これまでのいけいけどんどんの状況を考えると、「中国の成長は鈍化している」との見方もある。
それでも、17年は中国政府が掲げた約6.5%の目標値を達成した。7年ぶりに前年の伸び率を上回ったことも考えると、まだ成長路線にあるといえる。仮に18年の目標値に設定した「6.5%前後」の伸び率を上回った場合、GDPは88兆元(約1486兆円)前後になる見通しだ。
全人代が開かれた人民大会堂
全人代初日の開幕式で登壇した李克強首相は、「わが国の経済の実情が、高速成長の段階から質の高い発展を目指す段階へと切り替わってきている」と述べ、6.5%前後の目標設定について理解を求めた。
過去5年間の総括と18年の方針を説明する李首相
中国は、今後も手堅く成長を目指す方針だが、李首相は、「まさに発展パターンの転換、経済構造の最適化、成長の原動力の転換の難関攻略期にあり、まだまだ『坂を上り峠を越える』必要がある」とも言及。先を行く米国を強く意識していることがうかがえた。
開幕式を取材する各国のメディア
起業意識が革新を生み出す
李首相は中国の成長に対し、ITが大きく貢献したと紹介した。とくに先進的な取り組みが注目されているEコマースやモバイル決済、シェアリングエコノミーの領域については、「世界の潮流をリードした」と高く評価した。
Eコマースやモバイル決済では、阿里巴巴集団(アリババグループ)や騰訊(テンセント)が世界的に大きな存在感を示している。なかでも両社が提供するモバイル決済「支付宝(アリペイ)と「微信支付(ウイチャットペイ)」は、中国国内で急速に普及。中国の中央銀行・中国人民銀行がまとめたデータによると、17年のモバイル決済の金額は前年比128.8%の約203兆元に達した。
日本銀行が17年6月にまとめた「モバイル決済の現状と課題」によると、日本のモバイル決済の利用率は6.0%。爆発的に利用が拡大している中国に比べると、利用は活発とはいえない。
しかし、日本国内でも徐々にアリペイやウイチャットペイの対応店舗が増えている。LINE PayやNTTドコモの「d払い」など、日本発の仕組みも生まれおり、18年は、日本のモバイル決済サービス市場が本格的に立ち上がる可能性がある。
一方、シェア自転車などで知られるシェアリングエコノミーも、中国では巨大な市場になっている。中国の国家情報センターシェアリングエコノミー研究センターがまとめた報告書「中国シェアリングエコノミー発展年度報告2018」によると、17年の中国シェアリングエコノミー市場の取引金額は、前年比147.2%の約4兆9205億元に増加。ユーザー数は7億人を超え、前年から約1億人増えた。
上海市内のシェア自転車
シェアリングエコノミー市場の成長は、中国の雇用創出にもつながっている。報告書によると、シェアリングエコノミー関連のプラットフォームを提供する企業の従業員数は、前年比131万人増の約716万人となり、都市部の新規雇用の9.7%を占めるようになった。
中国では、前述のようにモバイル決済やシェアリングエコノミーなどの新興産業の発展が著しい。それを支えているのは、中国の起業意識の高さだ。全人代で配布された資料によると、13年に約6900社だった中国国内の1日の新規登記企業数は、17年は約1万6600社に急増した。
毎日、たくさんのベンチャー企業が生まれ、既存の業界に革新を起こす。この構図は中国で定着しつつあり、李首相も、「急速に興隆する新たな原動力は、今まさに経済成長の形態を再創造して生産方式やライフスタイルを大きく変え、中国の革新発展の新たな象徴となってきている」と胸を張った。
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