製造業向けで業績アップ
新興市場への挑戦も
今回の全人代で、李首相は「製造強国づくりの加速」を引き続き重点項目に位置づけた。中国では、すでに「中国製造2025」を国策として打ち出し、製造業の強化を進めている。これまでの取り組みをより一層進めるため、18年は引き続き大規模な投資をする方針。多くの日系ITベンダーが、製造業向けビジネスで業績アップを狙っている一方、新興市場に挑むベンダーもある。
49年までに製造業で世界をリードへ
中国製造2025は、中国政府が15年に公表した計画で、今後、三段階の発展を想定している。第一段階は25年までの10年間で、日本などの製造業先進国が工業化を達成した時のレベルまで近づけることを目指している。第二段階は35年までの10年間で、製造業先進国の中位グループまでレベルを上げることを目標に設定した。第三段階は45年から建国100周年の49年までに、製造業先進国の上位グループ入りを実現し、世界をリードする国になることを想定している。
計画を実現するために、中国政府は、「イノベーション能力の向上」や「情報技術と産業技術のさらなる融合」などを重要視。強化対象の重点分野には、第5世代(5G)移動通信システムなどの次世代情報通信技術をはじめ、ロボット、航空・宇宙、海洋建設機械、新エネルギー自動車など、10の産業を選定し、大企業と中小企業の協調などを促している。
全人代で李首相は、重点分野のなかで「集積回路、5G、航空エンジン、新エネルギー自動車、新素材」を具体的に挙げ、「重要設備の補強を実施し、インダストリアル・インターネットのプラットフォームを発展させる」と強調。18年は中国製造2025の「モデル区を創設する」ことも明らかにした。
さらに、中国製品の品質向上についても触れ、「工業分野の生産許可証を大幅に縮減し、製品の品質の監督管理を強化する。品質向上行動を全面的に繰り広げ、世界の先端レベルを対象としたベンチマーキングにもとづく目標基準の達成を推進し、匠の精神を発揚し、中国製造の品質革命を起こす」と訴えた。
日系ベンダーはどう動く?
中国では、前述の通り3段階で製造2025の実現を狙っている。第1ステップ最終年の25年に向け、20年までに製造業のデジタル化やネットワーク化、インテリジェント化を進展させ、生産現場の基礎を固めることも戦略に位置づけている。
アスプローバ上海
徐嘉良
総経理
日系ITベンダーの状況をみると、17年半ば頃から製造業向けのビジネスが増え始め、業績を押し上げたケースが多く、なかには、「仕事がありすぎて、許容範囲を大きく超えている」とうれしい悲鳴をあげるベンダーも。中国企業向けのビジネスに力を入れるアスプローバの中国現地法人、派程(上海)軟件科技(アスプローバ上海)の徐嘉良総経理は、「今、中国の製造業は勢いがすごい」と実感している。
アスプローバ上海は、生産スケジューラ「Asprova」の販売を手がけている。以前は日系企業向けと中国企業向けの売り上げが半々だったが、数年前から中国企業向けを重視。全体の売り上げのうち、中国企業向けが約7割を占めるようになったという。
徐総経理は、中国企業の動向について、「最近は中国企業がきちんと計画や予算をもっており、IT導入に対する意識は以前より高くなっている」とし、「まずはMES(製造実行システム)が求められ、次にスケジューラのような周辺機器の導入段階になる。場合によってはMESと周辺機器が同時に導入できることもある」と説明する。
17年の売り上げは、製造業向けが堅調に推移した影響で、前年比120%に伸びたという。18年の業績については、「いきなり拡大するというよりは、一歩一歩ステップを踏んだほうがいい」と慎重な見解を示しつつ、前年比110~115%の成長を見込んでいる。
今後の見通しについては、「中国企業は、国の方針を受けてIT投資をしっかり進めようとしている。投資意欲はあと5年は続くと予想している。その次は人工知能(AI)やビッグデータといった専門的な領域で新たな投資が生まれるだろう」とみており、今後も中国企業向けに注力するとしている。
5Gで中国と米国が“火花”
中国国内では、中国製造2025で重要分野の一つになっている5Gに関するニュースが新聞やテレビを賑わしている。中国が5Gの標準化を主導しようとしているとして、米国は警戒を強めており、中国系企業の買収を阻止。両国間で激しい火花が散っている。
中国最大手の通信事業者中国移動通信(チャイナモバイル)は、2月にスペイン・バルセロナで開催された世界最大規模の携帯端末見本市「Mobile World Congress」(MWC)で、18年に5Gの大規模試験網を整備する計画を公表した。
MWCに出展したチャイナモバイルのブース
具体的には、18年に杭州、上海、広州、蘇州、武漢の5都市で実証試験に着手するとしている。ほかの大手通信事業者の中国電信集団(チャイナテレコム)と中国聯合網絡通信集団(チャイナユニコム)のほか、通信機器ベンダーも積極的に5G関連の開発を加速させている。
こうした中国の活発な姿勢に、米国は敏感に反応している。米国のトランプ大統領はこのほど、シンガポールの半導体大手ブロードコムによる米半導体大手クアルコムの買収を阻止する大統領令に署名した。
中国メディアは、中国と米国の間で「5Gのレースが白熱している」とのタイトルで記事を掲載し、米当局者が、今回の買収で「中国企業の影響力が拡大する恐れがある」と話していることを報道した。
5Gは、IoTや自動運転を支える技術として世界中で競争が激化しており、日本も20年の東京五輪・パラリンピックでの実用化を目標に、産学官が一体となって実証実験などに取り組んでいる。しかし、中国で日本の存在感の薄さは否めない。日本が各国と対抗するためには、より積極的なアピールも必要だ。
KCSSは「栄養管理」で勝負
中国は、製造業の強化のほかに、次世代AIの研究開発を進め、医療や高齢者福祉、教育、文化、スポーツなど、多くの分野でインターネットを活用する「インターネット+」を推進しようとしている。さらに、スマート産業を発展させ、「デジタル中国」の建設を加速させることも目論んでいる。
KCSS
今井雄治
総経理
日系ITベンダーにとっては、中国のIT政策は、多くのビジネスチャンスをもたらす可能性がある。一方で、新たな領域に挑戦するベンダーもある。
京セラコミュニケーションシステム(KCCS、黒瀬善仁社長)の中国現地法人京瓷信息系統(上海)(KCSS、今井雄治総経理)は、中国の健康政策に着目し、18年は栄養管理の領域で新規事業に着手することを決めた。
中国政府は、ヘルスケアのガイドライン「健康中国2030」を策定し、予防や治療、リハビリテーションなどの健康促進に注力している。全人代で李首相は、「人民大衆が心身を健全な状態へと練磨していれば、国家も必ずや活気に満ち溢れ、繁栄・富強へと向かうであろう」と呼びかけ、18年はこの領域にも投資することを示唆した。
KCSSは、日本で培った栄養給食管理システムのノウハウを生かし、中国の病院などにシステムを販売していく予定だ。販売にあたっては、中国国内に代理店網をもつ企業とのパートナー提携を目指し、現在、詰めの協議を慎重に進めている。
最初の1、2年で市場を開拓し、3年目以降に売り上げを伸ばしていくことを想定。システムでたまったデータを活用し、将来的に健康に役立つサービスを展開することも検討しているという。
今井総経理は、「国が豊かになるにつれて、栄養管理の市場はニーズが高まっていく。中国の場合はまだ新興市場で、これから盛り上がっていくことが予想される。18年中に製品をリリースし、うまくいけば、その後は中国の市場で勝負していける」と青写真を描き、「管理の精密さとシステムのていねいさといった日本製品のよさをアピールし、中国の健康管理に貢献できるようにしていきたい」と意気込んでいる。