仮想通貨は相場の乱高下を繰り返してきたが、今年1月末に発生した取引所への攻撃による大規模な流出事件を経て、全般的に価値の下落傾向が続いている。それでも、仮想通貨とそれを支える基盤技術であるブロックチェーンの有用性に関する議論は一層活発になっている印象だ。その動きは、公共分野にも波及している。石川県加賀市は、「ブロックチェーン都市」を目指すことを宣言し、新しいテクノロジーを積極的に活用して地方創生を進めていく方針を打ち出した。単なる地方通貨の発行とは一線を画す取り組みであり、地方創生の新たなロールモデルとなるか――?(取材・文/本多和幸)
日本初のブロックチェーン都市を目指せ!
加賀市で官民共同プロジェクトが発足
ブロックチェーン上に
KYC認証基盤を構築
加賀市とシステム開発を手がけるスマートバリュー、ブロックチェーン技術の開発を手がけるシビラは3月16日、「地域が自律・自走していく日本初のブロックチェーン都市」の実現を目的として、包括連携協定を結んだと発表した。加賀市域の産業・資源・公共サービス・人材などの課題をブロックチェーンなどの先進ICT技術を活用して解決するとともに、地域コミュニティにおける新しい経済圏の創出を目指すプロジェクトを立ち上げるという。つまりは、ブロックチェーンを核に、テクノロジーによる地方創生を試みる取り組みを3者が連携して進めていくと宣言したのだ。
包括連携協定の締結式の様子。
左からスマートバリューの渋谷順社長、加賀市の宮元陸市長、シビラの藤井隆嗣社長
プロジェクトは2019年度(2019年4月~20年3月)を初年度とし、二つの事業に着手する。まず、プロジェクトの基礎固めとしてブロックチェーンによるKYC(本人確認)認証基盤の構築を行う。公共サービス、民間のサービスを含め、地域内の多様なサービスを横串を通して利用するための共通のユーザー認証基盤をブロックチェーン上に構築する。「トラストレスな基盤であるブロックチェーン上にKYC認証基盤のアプリケーションを構築し、そこに地域で展開する各サービスのアプリケーションをつなぎ合わせ、デジタルな地域空間を生み出すことで、既存の行政主体の枠組みに捉われない“新しい公共の形”を研究していく」(スマートバリュー)。具体的なメリットとしては、地域内サービスの認証を一元化することで社会コストを削減したり、プラットフォームに集めたデータをサービスの改善や新サービス開発などに役立てられる可能性があるとみている。
KYC認証基盤構築には、シビラの独自ブロックチェーン技術「Broof」を採用する。スマートコントラクト(ブロックチェーン上で動くプログラム)実装の柔軟性や堅牢性、パフォーマンスにすぐれているほか、IoTデバイスにウォレットを組み込むことができ、IoTとの連携サービスも容易に実現できる点が特徴だという。
実証実験やIT人材育成の
拠点も整備
二つめの事業としては、スマートバリューが中心となり、テクノロジーを活用した地域活性化の実証実験やIT人材育成の拠点となる「加賀ラボ(仮称)」の建設を進める。加賀市をフィールドとして、ブロックチェーン、AI、IoTといった領域の技術・サービス開発を行う体制を、ソフト、ハードの両面で整える。現在のところ、ラボに参画するのが決まっているのはスマートバリュー、加賀市、シビラの3者のみだが、地域の課題をテクノロジーで解決しようという志のある企業なども幅広く取り込み、テクノロジー・ドリブンな地方創生のエコシステムをつくる構想だ。ラボメンバーがハンズオンセミナーなどを開催し、先進技術を活用した新しいビジネスを創出できる人材の育成を図るほか、雇用創出にもつなげていく考え。
地域の持続可能性を担保する
新しい仕組みを模索
加賀市をフィールドとしたこれらの試みは、ブロックチェーンをベースに仮想都市基盤をつくり、電子行政、スマートシティ化の推進力にするとともに、仮想都市基盤を行き交う多様なデータを活用して、地方創生につなげていこうという壮大なプロジェクトだ。参画する3者は、ブロックチェーンの特性を生かせば、地域住民の活動に新しい価値をもたせ、その価値を仮想都市基盤上でデータとして流通させることで、地域の持続可能性を担保する仕組みを構築できるかもしれないと考えているのだ。
KYC認証基盤は19年度内の公開を予定しており、ラボも19年度に着工する。
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