富士通
営業利益率10%達成に暗雲
田中社長在任中の実現は困難に
届かなかった営業利益目標
「2015年度、16年度でビジネスモデル変革をやりきり、つながるサービスに経営資源を集中した成果を17年度以降、利益率向上という明確なかたちで表していく計画だった。遺憾ながら、現実はこの計画とは乖離している。17年度の計画未達、18年度の減収減益予想と、皆様の期待に反することになり、大変申し訳なく思うが、ご理解いただきたい」。4月27日に開催された富士通の連結決算説明会。田中達也社長の表情は終始厳しかった。
15年6月に就任して以来、田中社長は営業利益率10%以上、フリー・キャッシュ・フロー1500億円以上、自己資本比率40%以上、海外売上比率50%以上を在任期間中の経営目標に掲げてきた。そのマイルストーンとなるのが、17年度営業利益率5%ゾーンの達成だ。計画値では、営業利益1850億円を、事業売却などの特殊要因を除く本業ベースで実現する予定だった。しかし、ふたを開けてみれば営業利益は1824億円。本業ベースでは1296億円となり、実質は約550億円の計画未達にとどまった。
これまで田中社長は、主要SE子会社の吸収合併や、富士通テンの株式の一部売却、旧ニフティの事業再編など、事業ポートフォリオの見直しを進めてきた。昨年11月には、PC事業について、レノボグループが過半数を出資する合弁会社が展開していくことを正式発表。AIやIoT、クラウドなどをキーワードとしたデジタルビジネス領域に資源を集中させている。その結果として、17年度の当期利益は1693億円と過去最高益を計上。一定の成果を上げているものの、「質を変えるという取り組みについて、成果を享受するには時間がかかっており、17年度を通じて改めて課題が明確になった」(田中社長)。
経営目標の達成時期を後ろ倒し
具体的には、海外ビジネスを含む積極的投資のリターンが不十分、ネットワークビジネスの事業環境変化への対応の遅れ、想定以上の不採算事業の拡大という三つのポイントが苦戦の大きな要因となった。17年度は、ソリューション/SI、インフラサービスで構成する屋台骨のサービス事業が堅調で、売上収益は2兆5983億と過去2番目の水準をキープしたが、第3四半期に生じた不採算案件のマイナス分を取り戻せなかった。ネットワークビジネスは、国内向け携帯電話基地局の所要が大幅に減少した影響で低迷。これにより、システムプラットフォーム事業は70億円の減益となった。
これらを踏まえ田中社長は、「非常に多額のマイナス影響を及ぼしたことに、大変強い危機感をもっており、18年度は改めて徹底的に対策を立てることにした」と強調。19年3月期の業績見通しは、売上収益が同4.8%減の3兆9000億円、営業利益が同23.3%減の1400億円、当期利益が同35.0%減の1100億円と減収減益計画に設定した。先行投資について金額縮減や投資回収の加速を展開するほか、不採算プロジェクトの圧縮を進め、ビジネスモデルの変革面では、新規領域の収益拡大に力を注ぐ。
営業利益見通しの1400億円は、「本業ベースの必ず守る数値」(田中社長)として設定したが、利益率では3.6%で17年度実績を下回り、マイルストーンの6%ラインも割る。田中社長は今回、営業利益率10%以上の経営目標について、「この3年間の結果を踏まえ、達成までの時間軸を見直す」と表明。目標実現が視野に入るレベルまで尽力するものの、在任期間中の実現については一旦取り下げたかたちだ。
経営目標の新たなマイルストーンとその詳細については、今年10月に開催する経営方針進捗レビュー説明会で明らかになる。(真鍋武)
収益性改善が進む日立
営業利益率8%超えに王手、達成のカギはLumada
日立製作所(日立)が発表した2017年度(18年3月期)連結決算は、売上収益が前年度比2.3%増の9兆3686億円、調整後営業利益が同21.7%増の7146億円で、増収増益となった。16年度に日立物流、日立キャピタル、日立工機の3社を連結対象から外した事業ポートフォリオ再編や為替の影響があったものの、英国の鉄道システム事業や中国など海外向けの建設機械販売が売上増に貢献した。営業利益率は過去最高の7.6%。18年度(19年3月期)を最終年度とする中期経営計画で掲げている低収益事業の縮小・撤退など、収益性改善施策が結果として表れたかたちだ。
セグメント別にみると、情報・通信システムは好調だ。17年度の売上収益は前年比101%の2兆89億円で、調整後営業利益は1892億円、利益率は同1.7%増の9.4%となった。うち、各産業向けシステム開発などを含むフロントビジネスの売上収益は同102%の1兆4172億円。「プロジェクトマネジメントの定着が収益の安定化に寄与している」と西山光秋・代表執行役 執行役専務CFO兼財務統括本部長は説明する。また、サーバー、ストレージ、通信ネットワーク関連機器および関連ソフトウェアを含むITプラットフォーム&プロダクツの売上収益は同101%の7442億円だった。
今中計で売り上げよりも利益率を追う施策を進める日立は、情報・通信システム部門でも低収益事業の見直しの一環で、ハードウェア製品の絞り込みを断行してきた。17年5月にはメインフレームのハードウェア開発から撤退し、18年3月にはNECとの合弁会社でネットワーク機器開発などを手がけるアラクサラネットワークスの保有株式を投資ファンドの日本産業パートナーズへ譲渡。さらに4月には、ユー・エム・シー・エレクトロニクスとの協業により、日立情報通信マニュファクチャリングと関連資産を譲渡し、サーバー、ストレージ、ネットワーク機器などの製造を委託することを発表した。これについて東原敏昭社長兼CEOは、「サーバーやストレージなどのものづくりも、将来的にはもっとボリュームがないと強化していくことができない。そこで、他社との連携を考えた。ユー・エム・シー・エレクトロニクスとの協業によるものづくりを一層強くしていく」と説明している。今後、日立のハードウェア製品で注力事業と位置づけるのはストレージで、とくにフラッシュストレージは北米向けの販売が非常に好調という。東原社長は、「18年度も加速させていく」との考えを示す。
今中計の最終年度にあたる18年度は、日立全体での売上収益として9兆4000億円、調整後営業利益は7500億円を目指す。当初に掲げた売上収益10兆円目標は未達の予想だが、営業利益率8%超の達成は射程に入れた。
成長をけん引するのは、IoTプラットフォーム「Lumada」を核とするデジタル領域だ。Lumada事業の昨年度の売上収益は計画値の9500億より560億多い1兆60億円で、計画以上の進捗をみせている。そのうち、顧客データをAI、アナリティクスを活用して分析し価値に変えるLumadaコア事業の売上収益は2300億円で、IoT分野のSIを行うLumada SI事業は7760億円。SI事業に比べるとコア事業の規模はそれほど大きくないものの、「Lumadaコア事業を伸ばしていくことが、日立グループ全体の収益性を上げていく」と西山CFOは強調する。
17年度は、Lumadaの強化に向けた足もとの基盤を整えてきた。昨年9月に日立データシステムズとペンタホを統合し、日立ヴァンタラを設立。今年4月には日立ヴァンタラと日立コンサルティングが一体となったフロントチームとして、日立グローバルデジタルホールディングスを発足した。この2社を中心に、海外におけるLumada展開を強化していく。
また、Lumadaを活用した顧客との協創事例の創出にも力を入れてきており、すでに500件を超える生産性向上や品質向上につながるLumadaユースケースを蓄積しているという。さらに日立グループ内でのLumada活用も推進しており、自社での活用事例を外販にも応用していく考え。営業利益率8%超えに向けて、Lumadaビジネスの拡大に拍車をかける。(前田幸慧)