サーバーやストレージ、ネットワーク機器などのITインフラをオンプレミス環境に置き、パブリッククラウドのように月額で利用料を支払う従量課金サービス。Dell EMC、日本ヒューレット・パッカード(日本HPE)を皮切りに、オンプレミスとパブリッククラウドのいいとこ取りをしたサービスが増えている。すでにスタートしたサービスと、今後開始予定の各社の従量課金サービスを紹介するとともに、このサービスモデルを取り巻く課題を整理した。(取材・文/山下彰子)
従量課金サービスの最新版
オンプレとクラウドのいいとこ取り
ITインフラの従量課金サービスといえば、今年2月に日本HPEが発表した「HPE GreenLake」が話題となった。顧客のオンプレミス環境に配置したITインフラやパッケージソリューション群を従量課金モデルで提供するサービスで、保守管理も日本HPEが担当する。顧客は常に最新の状態のITインフラを自社環境で利用することができる。まさにオンプレミスとクラウドの「いいとこ取り」をしたようなビジネスモデルだ。
購入と異なる点は、ITインフラを固定資産税が発生する自己資産として持たない点にある。またITインフラを購入する際、日本の企業では稟議書を提出し、経営者から承認をもらうというプロセスが必要なケースが多い。しかし、クラウドやレンタル、今回の従量課金サービスのようなケースは事業部の経費として処理ができる。社内フロー的には、ITインフラをスピーディーに導入しやすい、というメリットがある。
スムーズに拡張できる点も特徴だ。各社の従量課金プログラムをみていると、初回導入時に本稼働機のほかに予備機も導入し、リソースが足りなくなったら予備機の電源を入れることで簡単に拡張できるようにしている。段階的に必要なリソースが増えていくケースだけでなく、瞬間的な増減にも対応できる。モバイル向けサービスや月末、年度末といった瞬間的に負荷が増えるシステムに向いているという。
顧客が抱えるセキュリティーの課題も解決する。重要なデータはクラウドではなく自社に置きたい、セキュリティーを高めるためにソフトウェアなどを常に最新の状態に保ちたい、といったニーズに応える。最新の従量課金サービスは、サービス提供会社が運用管理、保守まで担っているケースが多い。つまり、ITインフラを手元に置きながら、運用管理を任せることができるので、顧客の負荷を軽減することができるのだ。オンプレミスとパブリッククラウドのどちらが最適か、悩んでいる顧客にとって、従量課金サービスは新たな選択肢となる。
市場拡大に期待
従量課金サービス市場は、今後拡大が見込まれる。調査会社の米IDCは「2020年までにITインフラの80%が消費モデルになる」と予想した。ここでいう消費モデルとは、パブリッククラウドのほか、オンプレミスの月額利用サービスも含まれる。80%とはグローバルの数字であり、パブリッククラウドに対してやや慎重な日本市場にそのまま当てはまるとは考えにくいが、今後の市場拡大が期待される。
国内の市場動向について、日本IBMの諸富健二・グローバル・ファイナンシング事業部リユース製品統括部理事は「企業の経営戦略が変わってきている。借金をなるべくつくらず、キャッシュフローを小さく、バランスシートを小さくする方向に変わってきている」と話す。
また、デジタルトランスフォーメーションの推進、新規事業の立ち上げなどでは、従量課金サービスの利用を検討する企業が増えていくと考えられる。
SIerはどう取り組むべきか
従量課金サービスは、ITインフラの所有権をメーカーが持つケースが多い。運用管理、保守サポートもメーカーが提供することが多く、メーカーと顧客の間でリセラー、SIerはどのような役割を担うべきか。メーカーに代わって顧客に提案し、メーカーからフィーを受け取る方法もある。顧客が支払う月額料金の数%を受け取ることになるが、売り切りとは異なり、一度に現金は入ってこない。中長期で考えれば、安定した収益になるものの、営業成績、評価としては売り切りの契約を獲得したほうがいいという考え方もあるだろう。
それならばITインフラの上で動くソフトウェアやソリューションをサブスプリクションで提供するほうが魅力的だ。こうした連携モデルは、メーカーも大いに期待しているところだ。
日立製作所の大野哲史・ITプロダクツ統括本部プロダクツサービス&ソリューション本部クラウド&プロダクツサービス部部長は「従量課金サービスは顧客の間口を広げることに期待ができる」と話す。全ての案件を従量課金サービスにつなげるのではなく、ビジネスチャンスを広げる足掛かりとして活用できるのではないだろうか。
歴史は繰り返す!?
昔のメインフレームは
従量課金だった
日本IBM
諸富健二
グローバル・ファイナンシング
事業部
リユース製品統括部理事
最近になって注目を集めている従量課金サービス。しかし数十年前は使った分だけ支払うビジネスが当たり前だった。
諸富理事は「昔のメインフレームにはカウンターがついていた」と話す。月末にこのカウンターをチェックし、時間単位で顧客に使用料を請求する。また、東京・日本橋室町にあった日本IBMの日本橋事業所では計算機を設置し、利用した顧客に、利用した分だけ請求するビジネスもあったという。
その後、ITインフラは売り切りモデルに変わっていったが、今、従量課金サービスが再びブレイクしようとしている。「顧客にとって、使った分だけ支払いたいというニーズは昔も今もある」と諸富理事は語る。
なお、現在はIBM Global Financing(IGF)部門でモバイルデバイスのレンタル、IBM製品ソフトウェア、他社のハードウェアも含めたリースビジネスを行っている。長年の経験を生かし、戻ってきたハードウェアの中古販売、中古レンタルも手掛ける。
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