経理・財務のマインドチェンジ
森田隆之
副社長
CFO
三つめの人事が、CFO(最高財務責任者)に、森田隆之副社長が就いたことである。森田副社長は、グローバル経験は長いが、経理畑の経験はゼロ。これもCFOには、経理・財務部門の出身者が就くというNECの慣例からは外れたものになる。
「経理・財務部門と人事部門は、その道のプロがトップに就くのがこれまでのやり方。ある時代にはそれが当たり前の仕組みであり、そのほうが良かった。特に、NECは苦しい時期が続いていたことから、絶対に踏み外さない、絶対にこけない『守り』の経理・財務体制を敷いてきた」と新野社長。「だが、NECが変わり攻めていく、あるいはグローバルに出ていくという時に、経理・財務部門の専門知識を持っていればいいという考え方は通用しない。打って出るマインドを持った人材が経理・財務部門にも必要である」と、この人事の狙いを説明する。
次期社長候補の一角を担う森田副社長が、事業開発やグローバル事業で培ったこれまでの経験を、経理・財務部門の意識改革、ひいては全社の意識改革に生かすことができるのかが注目される。
“成長の柱”の確立がNECの再生につながる
NECは、売上高5兆4097億円、営業利益1851億円を記録した2000年度をピークに事業縮小が続き、17年度実績は、売上高2兆8444億円、営業利益は638億円(17年度はIFRSを適用)と、規模はほぼ半減。営業利益率は2.2%にとどまっている。その間、PC事業や携帯電話事業の売却、半導体事業の切り離しなど、大規模な構造改革を実施。その上、次の成長を担う事業を育てることができず、柱となる事業や稼げる事業が見えなくなってきた。
2020中期経営計画では、「セーフティ」と「グローバル」を成長の柱に据えるが、力強い成長をけん引する事業にまでは成長しきれていないのが実態だ。
では、NECは、これからどのような企業となることを目指すのか。
新野社長は、「社会への貢献度合いや、お客様とのつながりを考えた場合に、NECが1兆円の売上高では、世界になくてはならない企業だとはいえない。むしろ、売上高は4兆円、5兆円と伸ばしていきたい」としながらも、「だが、むやみに売上高を拡大することに力は注がない。5~10%という、きちんとした利益率を確保できる企業に変わり、そのビジネスモデルによって、社会に貢献する企業を目指す」とする。
5%の営業利益率は、赤字事業の再編や組織のスリム化で、短期的には達成できるだろう。その点、自前でハードウェアを持つことへのこだわりを捨てたことはプラス効果になる。だが、10%の営業利益率を目指すとなると、その手法では限界がある。むしろ、ピーク時と比較して売上規模が半減した今、これ以上のスリム化は限界だ。成長および利益の柱を早急に創出するぎりぎりのタイミングにあるともいえる。
SIは一般的に収益性が高いといわれ、独立系SIerの中には営業利益率で10%を超えている企業もある。しかし、その場合には、特定業種に絞り込んでいるケースが多く、NECのようなさまざまな業種に展開する立場は不利だ。
そして、かつてのNECが得意としていたハードウェアで収益をあげるというビジネスは、ネットワーク領域はもちろん、セーフティ領域でも確立が難しい。また、伝統的に官公庁とのつながりが強いNECのビジネスモデルは、公共投資の影響を受けやすく、しかも、第4四半期に集中する不安定さがある。
新野社長が柱に位置付けようと考えているセーフティでは、顔認証などのバイオメトリクス技術と、「NEC the WISE」によるAI技術の組み合わせで実現する「NEC Safer Cities」を打ち出すが、これがソリューションビジネスとして、どこまで営業利益率を高めることができるかは現時点では不透明だ。新野社長は「営業利益10%を目指すのであれば、営業利益率20%のビジネスを新たにつくっていく必要がある」と語るが、それが見当たらない。
NECは目指す姿を「社会価値創造型企業」としている。
「社会価値を創造する上で、NECはどの領域で、何を強みにして、そのポジションをとっていくのかが大切。その領域における価値が大きければ、売り上げも利益も大きくなる」
だが、長年にわたり、「守り」を続けてきたNECは、社会価値を創造するための新たな挑戦に遅れた点は否めない。そして、次の成長の柱も見えていないのが実態だ。
2020中期経営計画は、数字よりも社内文化や制度の改革を推進するとともに、次の成長を牽引する事業の創出も必要だ。成長事業を生むことができる体質に転換できるかがカギになる。
NEC 新野隆社長が語る「119年目の大改革」
当たり前を捨て、変化への対応力を身に付ける
――2018年1月から推進している「2020中期経営計画」の進捗はいかがでしょうか。
あらゆる手を使いながら、計画の実行性を高めることに取り組んでいます。数値の上では計画通りですが、実績として誇れるところに至るまでは、まだまだだと感じています。
振り返ると、「2018中期経営計画」は、指名停止(※編集部注 NECは16年度、公正取引委員会から計4件の独占禁止法違反を認定され、うち3件は排除措置命令および課徴金納付命令を受けている。それに伴い、自治体からの入札指名停止に陥った)の影響や外部環境の変化などがあったものの、1年を経たずに、ボロボロの結果になってしまった。何が悪かったのだろうか、と自問自答した時に、結局は、何も変わっていないし、これでは全く駄目だということに気が付いたのです。
NECの社員は頭のいい人が多く、特に、今までやってきたことを学習しながら発展させていく能力には長けています。その背景には、お客様からの要望を実現するというビジネススタイルが染み込んでおり、最高の技術を使って、最後までやり遂げる姿勢がありました。
今の時代は、NEC社員が自ら変化し、自ら市場をつくっていくやり方に変えなくてはなりません。だが、頭では分かっていても、足腰が変わっていかない。実行力がまったく追いついていませんでした。18年は、「119年目の大改革」と表現し、「変革に向けたギアチェンジの年」と位置付けました。姿勢を根本的に変え、文化や制度、仕組みを抜本的に変革します。
――NECは、中期経営計画の未達が続いています。社内には、「負け癖」がついていませんか。
私は、権限を委譲しながら、現場に責任をもってやってもらえばいいと思っていました。しかし、1年やってみて、それが結果につながらない。このやり方では駄目だと判断したのです。実際、中期経営計画を作ると、大半の社員が「3年後に、こんな数字はできっこない」と思ってしまう。しかも、「そんなことを言われても、自分は今やらなくてはならないことをしっかりとやっている」という雰囲気がありました。現場に「しらけムード」があったのは確かです。
それにもかかわらず、経営陣は「この中計をやるんだ」と言うわけですから、結果として、経営と現場がどんどん乖離してくる。負け癖というよりも、社員が、「なぜ、それをやるのか」という理由を理解していないこと、「自分たちが努力すれば達成できるんだ」という意識が希薄だったことが原因です。それが蔓延しているから、未達の繰り返しになる。
私は直接現場に出向き、今年7月末までに26回の対話会を行い、約1万人の社員と対話をしました。何のためにこの中計をやるのかということを言い、「こうやったら達成できる」「達成に向けた阻害要因は解決するので言ってほしい」という話をしています。これまでは経営と現場には信頼関係がなかった。それを強く反省しています。
――異例の人事が相次いでいます。特に、GEジャパンから熊谷昭彦氏を副社長として招聘したことには驚きました。
グローバル事業における責任と権限を一元化し、5000億円のビジネスにまで拡大させ、そこで利益をしっかりと出していく舵取りを考えたときに、NEC社内のグローバル事業経験者に任せるには荷が重いと考えていました。その時に、熊谷さんがGEジャパンを辞めるという話を聞き、「ぜひ一緒にやってほしい」とお願いしました。
外から、熊谷さんのような人材がやって来るということは、今までのNECにはないことでしたから、社員も不安を感じていましたし、正直、私も心配していました(笑)。しかし、すでに成果が出ています。NECの社員は、言われたことが腑に落ちると、すぐにやるタイプです。今までの自分たちが気付いていないことに気が付き、それを変えなくてはいけないということを社員が理解し始めています。また、決断の速さを学んだり、クイックレスポンスで物事を進める手法も定着してきました。これは、NECが弱かった部分でもあり、風土が変わってきていることを感じます。
新野隆
代表取締役
執行役員社長
兼 CEO
もちろん、外から人を招けばそれで終わりとは思ってはいません。今までと違う変化を与えながら、NEC社員自身が自分たちがどう変わらなくてはいけないのかということを考えていく必要があります。外からやって来た人に見てもらうと、明らかにNECのやり方は遅れていることが分かります。これまでの「当たり前」を捨て、本当に必要なものを、いかに強くするかということに取り組みます。
――今、NECが持つ課題は何でしょうか。
変化への対応力が、企業の強さを決める要因ですが、そこに課題があります。残念ながらNECの社員は、自分で市場を見て自ら考えて、指示を待たずに自ら行動するということができていません。その文化を変えていきたい。
ただ、文化を変えるには、少なくとも10年はかかります。今やらなくてはならないのは、文化を変えることよりも、それを変える仕組みや仕掛けを早く作り、それを回すということです。企業文化や制度、仕組みから抜本的に変革し、社員の力を最大限に引き出すことで強いNECを取り戻したい。そして、こうしたことがNECの課題であるとずっと考えてきた私だからこそ、この改革をやり遂げられると思っています。