Special Feature
カンタンに導入できるパッケージの登場でIoT市場が面白くなる!? もう費用対効果が見込めないとは言わせない
2018/12/26 09:00
週刊BCN 2018年12月17日vol.1756掲載
お手軽なIoTからスタートし
エンタープライズ市場を狙う
使ってみなければ、IoTのメリットは実感できない。IoT活用のすそ野を広げるためにもまずは低予算で、簡単に始められるIoTソリューションが不可欠だ。IoTのメリットが認知されれば、やがて大きな市場へと成長していく。そのための第一歩となるソリューションが注目を集めている。設定を簡単にしてビジネスロジックに集中
2016年に設立したばかりのスタートアップ、ピクスー。同社が提供する「Webiot(ウェビオ)」は、センサーをサービスとして提供することで、システム構築からデータ収集までをシンプルにしたもの。もともと、デバイスや組み込みの開発を省き、エンジニアがアプリケーションに注力できる環境を作ることをコンセプトに開発したという。
また、ピクスーは今年10月にLoRaWAN通信を使ったIoTプラットフォーム「SenseWay Mission Connect」を提供してきたセンスウェイと提携。これにより、柔軟なデータの収集が可能になった。
これまでWebiotは3GやBLE(Bluetooth Low Energy)でデータを送信していたが、「コストやカバレッジの面で課題を感じていた」と塩澤代表取締役は語る。一方、センサーデバイスの開発に課題を感じていたセンスウェイは、間口の広いセンサーを求めていた。
センスウェイの益子純一執行役員CMOは、「以前はセンサーの開発をユーザーに任せていたが、そこで一歩引いてしまうケースが多かった」という。
Webiotの特徴は、とにかく「簡単」であること。製品を注文し、センスウェイのLoRaWANゲートウェイとピクスーのセンサーが届いたら、ゲートウェイをコンセントに接続して起動する。センサーの設定はすでに済んでいるため、ゲートウェイの近くにセンサーを置けば自動で通信を行ってくれる。あとはウェブコンソールにアカウントを登録することでデータの確認やデバイスの管理ができる。センサーは温度センサーや人感センサー、ボタンといった基本的なものから、CO2センサーや超音波センサーまで11種類取りそろえている。センサーの種類は、今後も増やす予定だ。金額は1センサー当たり月額750円からで、LoRaWANゲートウェイは月額3400円。別途、通信費がかかる。
センサーは画像以外に全部で11種類ある。
管理画面はウェブからログインする形で利用できる
両社が提携したのは今年の10月。ピクスーがWebiotの提供を始めてから1年近く経っている。提携前は主に会議室などでの利用が多かったWebiotだが、「LoRaWANで通信するようになってからは、大規模な工場や、モバイル通信が届かない場所でのデータ収集といったユースケースが出てきた。確実に用途は広がっている」と塩澤代表取締役は胸を張る。
ハードをバンドルしてソフトを売るという発想
アステリアは昨年6月から、IoTにおけるエッジコンピューティング管理コンソールである「Gravio」を提供。その機能を今年10月に大幅に強化し、4種類のセンサーデバイスを合わせて貸し出しする新たなサービスとして再出発した。
マーケティング部部長の垂見智真氏(左)と執行役員研究開発担当の北原淑行氏
垂見事業部長が、「センサーが届いてから5分でデータが取れる」というGravioは、ウェブ上からアプリケーションや管理ソフトをダウンロードし、付属しているUSBレシーバーをPCに差し込むことで準備が完了する。センサーの登録やレシーバーの設定方法はウェブページのほか、「Slack」でのサポートを受けられるため、初心者でも迷わずデータを集められるという。集めたデータはローカルに蓄積される。
モニターでは集められたデータを確認でき、
データを表示する管理ソフトはウェブからダウンロードできる
料金は月額500円。人感、温度、ドア開閉、振動、スイッチのセンサーのうち、4種類を選択できる。IoTでは、センサーデバイスが注目されがちだが、Gravioでキモとなるのはソフトウェアだ。
「オフィスや店舗でIoTソリューションを使ってもらうには、いかにして使いやすいソフトウェアを提供するかが大事。その場で製品の本質を理解し、その場で買って始めることができるくらい分かりやすい製品でなければならない」と、垂見事業部長は語る。
PCではソフトウェアをバンドルして販売するが、Gravioはソフトウェアを提供する際にハードをバンドルして展開していくという発想だ。
アステリアの研究開発担当の北原淑行執行役員は「スマートフォンで便利なアプリケーションを使えるのは、そもそもスマートフォンというハードウェアが手元にあるから。ソフトウェアの効果を確かめてもらうには、ハードウェアを一緒に渡すのが一番分かりやすい」と語る。ソフトウェアにマネタイズの比重を置くことで、ソフトウェア自体の価値を上げる狙いだ。
また、そういった分かりやすさの追求は、エッジコンピューティングという選択にも表れている。クラウドに接続する手間を省くのはもちろん、ビッグデータを解析する際にかかるコストを削減することができる。
垂見事業部長は「クラウドが悪いわけではなく、データの種類によってクラウドとエッジを使い分けることが大事。例えば自動ドアの開閉させるとき、その都度クラウドに問い合わせる必要はない」と指摘する。
明確なゴールの提案がIoT普及のカギを握る
いくら簡単に導入できるからといって、ただ構築するだけでは定着しない。一般的なIoTソリューションにおいて、PoCより先に進めないユーザーが多い要因には、明確なゴールの不在がある。それは規模の大小に限らない。
「IoTを使って何をやりたいかが具体的な目的ベースまで落ちてきているユーザーであれば、すぐに役立つものが作れる」とピクスーの塩澤代表取締役は語る。「現状では、改善可能な部分とテクノロジーを結び付けられるユーザーが少ない。PoCの段階で目的がしっかりしていないと、当然、効果を定量化できない。その結果、導入を見送ってしまう」と指摘する。
オフィスや店舗でのIoT導入は、製造業などと比べて費用対効果が見えづらい分野である。初期段階から構想を詰めていくことで、実際に効果のあるIoT導入を実現できる。IoTを提供するSIerとしては、そこを考慮した提案が必要だ。
現場の理解も不可欠。アステリアの垂見事業部長は「IoTの知識があるIT担当者が導入を進めても、現場の理解がなければ使ってもらえない」と語る。IT部門とビジネス部門の連携不足は、よくあるケース。SIerが何度も経験してきた光景だ。IoTにおいても、これまでと同様に、現場を巻き込んだプロジェクトとなるよう、アドバイスしていくことが求められる。
また、IoTの導入が簡単になっても、そもそもIoTという選択肢が思い浮かばなければサービスを使ってもらえない。
垂見事業部長は「一番手っ取り早いのは実際に触ってもらうこと。一度触っていただければ製品の本質を理解できるように作ってある。GravioでエッジIoTを学ぶきっかけにしてほしい」と強調する。
また、塩澤代表取締役は「IoT導入に最終的な目的までなかったとしても、お試しで使ってみることは大切。適切な場所にセンサーを置き、データを集め、分析するという一連の動きを実感してもらいたい」と強調する。
まずはこういったソリューションがあることを知ってもらう必要がある。IoTソリューションが簡単に導入できるとなれば、そこから広がっていくことが期待できる。簡単なパッケージ製品は、IoT市場全体を長い目で見たとき、本格導入の波を加速させるための起爆剤なのである。
IoT News Pick Up
IoT市場の参入障壁を壊す
既存製品のIoT化を支援し開発のコストを削減
―― ソフトバンク コマース&サービス
ソフトバンク コマース&サービス(溝口泰雄社長)は10月16日、Tuya Global(王学集CEO)とパートナー契約を結び、「Tuya Smart」の国内提供を開始した。Tuya Smartは既存の家電製品をIoT化するソリューション。通信モジュールの販売・クラウド環境の構築・スマホアプリ開発をワンストップで提供することで、企業は既存製品をIoTできる。これにより、開発期間・コストの短縮を見込んでいる。
特に通信モジュールでは一般家庭用に加えて、照明系、センサー医療系、交通工業系のWi-Fiモジュールを取り揃えた。幅広い製品に対応するだけでなく、Wi-Fiモジュールの採用により、エンドユーザーは簡単にIoT製品を使えるようになる。
PoCで疲れさせない
IoTの検証をシンプルにして導入を簡単に
―― 日立システムズフィールドサービス
日立システムズフィールドサービス(飯間正芳社長)は10月24日、IoTのPoCを検討している企業をターゲットに「IoT PoCキット」の販売を開始する。同時に、現場でIoTを導入する際の無線ネットワークの設計・構築や、各種センサー、ゲートウェイの設置をワンストップで支援する「現場向けIoT導入支援サービス」の提供を開始した。IoT PoCキットはIoT導入前の検証を手軽にするため、センサー、ゲートウェイ、クラウド環境をセットで提供するもの。あらかじめ動作検証が済んでいる機器やサービスを提供するため、比較選定・構築にかける時間を短縮できるほか、取得したデータはキャリアネットワークを通してクラウドにあげるため、情報システム部門への負担が少ない。キットは3種類用意してあり、目的に応じて測定ができる。
現場向けIoT導入支援サービスは主に製造業を対象にしたもので、センサーやゲートウェイの設置カ所の調査・工事や無線アクセスポイントの電波調査・環境設計・施工までを代行する。機器の設置から無線までの幅広いサービスを提供することで現場のIoT導入を容易にする。
料金は、IoT PoCキットが9万9800円、現場向けIoT導入支援サービスは個別見積もりとなる。
パートナーのソリューションと
IoTデバイスを組み合わせてパッケージ化
―― ビッグローブ
ビッグローブ(有泉健社長)は9月13日、Android搭載のIoTデバイス「BL-02」とパートナー企業のソリューションを組み合わせ、パッケージ商品として提供を開始する。BL-02は4月から提供している企業向けIoTデバイスで、位置情報や加速度、気圧データを収集できる。また、Bluetoothや無線LANを利用しデータ収集できるため、ゲートウェイとして利用することも可能。今回はパッケージソリューションの第一弾として、マルティスープが提供する屋内測位ソリューション「iField indoor」と、Momoが提供する介護用離床・転倒検知ソリューション「Palette IoT for care」と連携する。
iField indoorは、最大60個のBLEビーコンと3台のBL-02で、GPSが届きにくい屋内での人や設備の位置情報を見える化する。ヒートマップやメッシュマップ、プロットマップといった11種類のレポートにして出力することで、安全管理や稼働率の効率化をサポートする。1カ月以内の導入検証パッケージで初期費用98万円。
一方、Palette IoT for careは、センサー情報のリモート監視システムを介護向けにしたもの。ベッド用センサー2台とドア開閉センサー1台をゲートウェイのBL-02と組み合わせる。転倒や長時間のうずくまりを検知しアラートするほか、認知症患者の不意の外出を監視することで要介護者の見守りを支援する。
ビッグローブは今後、工場、介護、農業、ホテルといった分野をターゲットとしたソリューションを中心にパッケージ化を進める方針で、2018年度内に50のソリューションとの連携を目指す。
導入を検討するも、PoC(概念実証)の段階で止まってしまうのは、IoTでよくあるケース。投資に対する効果が見込めないのが大きな要因だ。便利でも、人手に任せた方が安く済むとなれば、IoTへの投資は決断できない。とはいえ、IoTが普及するにつれてネットワークやセンサーの価格が下がるとともに、人材不足という社会課題もあることから、IoTにおける費用対効果のハードルは確実に下がっていく。そうした中で、手軽にIoTシステムが構築できるパッケージシステムが出始めている。安くて簡単なIoTは、どれだけの可能性を秘めているのか。(取材・文/銭 君毅)
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