ネットワークソリューション編
一般企業にもSDNのメリットが浸透
人手に頼らず運用できる仕組みが肝要
「オフィスのネットワーク構築案件でも、SDN(Software Defined Network)を前提とする提案依頼が増えてきた」「19年には目に見える形で、SDNが売り上げの数字に反映されるだろう」
ITインフラ構築の事業に関して、このような発言をするSIer幹部の数が増えてきた。物理的なネットワーク機器から制御機能を分離し、ソフトウェアによってネットワークをコントロールするSDNが、いよいよ一般企業でも本格導入されるようになるというのだ。
技術的なキーワードとしては、SDNは決して新しい言葉ではない。しかし、例えばサーバー仮想化技術には「複数台のサーバーを1台に統合できる」という分かりやすいコストメリットがあるのに対し、「ネットワークを仮想化して運用を効率化する」というSDNの考え方はより抽象的だ。大規模なデータセンターやサービス事業者では、運用効率の改善やサービスの迅速化を目的として、4~5年ほど前からSDNが実環境でも導入されてきたが、一般のオフィスにSDNを適用する必然性はこれまで薄かった。
しかし、現代の企業に求められるネットワークは「一度構築したら不具合がない限り手を触れない」性質のものではなくなりつつある。ネットワークに接続される機器の数と種類が増大していることに加え、オフィスのフリーアドレス化やリモートワークの導入などで、従業員がどこから業務システムにアクセスするかは多様になっている。さらに、クラウドの活用が進んだことで、業務システムの設置場所は社内と社外にまたがっているのが普通だ。
セキュリティー要件が年々厳しくなり、企業には社員やデバイスごとのアクセス権限をより厳格に管理することが求められているが、これだけネットワークが複雑になってくると、知識をもつ技術者の手作業で機器の設定を行っていくのは非効率なばかりか、設定ミスによるシステム障害など深刻な事態を招く危険性も増大する。また、攻撃者の社内への侵入やマルウェアへの感染といったセキュリティー事故が発生した場合も、アラートを見てから感染範囲を特定し、そこにつながるLANケーブルを探してスイッチから引き抜くといった、人手に頼った対応では、被害の封じ込めに多大な時間を要してしまう。
このような、ネットワークに関する運用の問題が顕在化したことで、企業や学校、病院といった一般の組織においても、SDNのメリットが理解されるようになってきた。今年はSDN市場がデータセンターからエンタープライズへと本格拡大する年になるとみられる。
SDN導入の目的が運用効率の向上や属人化の排除である以上、単に「SDN対応」をうたう製品を組み合わせるだけでは十分な導入効果は得られない。ネットワークとセキュリティーの製品群を、統合的に操作・管理できる仕組みを合わせて提供することが肝要になるだろう。(日高 彰)
業務アプリケーション編
SAPの2025年問題が市場の流動化を促す
「下位1000社」を狙って国産ベンダーの動きも活発化
経済産業省が昨年9月に発表した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開」は、18年の法人向けIT市場で大きな話題をさらったトピックの一つだ。このレポートでは、複雑化・ブラックボックス化した古い情報システムや旧態依然とした組織構造・業務プロセスがデジタルトランスフォーメーション(DX)の阻害要因となり、何も手を打たなければ25年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると指摘しており、これを2025年の崖と表現している。
2025年の崖のリスク要因の一つに挙げられているのが、SAPの「2025年問題」だ。「SAP ERP」は、標準サポート期限が25年までとなっている。しかし、SAPの最新ERPであるS/4HANAは従来製品の後継という位置付けではなく、「SAP HANA」を新たな基盤として完全に新しくつくられた製品だ。SAP ERPユーザーにとって、S/4HANAへの移行にはほとんどの場合データベースの移行を伴う大きな投資と負荷がかかる。S/4HANAを使うのか、他社製品に乗り換えるのか。競合のERP製品ベンダーやそのパートナーは、SAPの2025年問題を顧客基盤拡大の大きなチャンスと見る向きもある。
例えば「Microsoft Dynamics」の有力パートナーであるパシフィックビジネスコンサルティング(PBC)の吉島良平・取締役戦略事業推進室長は、「既存のSAPユーザー約2000社のうち、1000社はSAPの製品を使い続けるだろう。しかし、残りの1000社は企業規模がSAP ERPにフィットしていないなどの理由で、他のERPに乗り換え得る層だ」と指摘する。そしてその潜在顧客と言える1000社のうち、Dynamicsが半数の500社を獲得できるポテンシャルがあると見ている。
この「SAP ERP既存ユーザー2000社中の下位1000社」については、国産ベンダーも積極的に狙っていく姿勢を見せている。特筆すべきは、ERPパッケージのベンダーだけでなく、中小企業向けの基幹系業務ソフトを主力としてきたベンダーも、中堅企業・中小規模拠点向けのERP製品を強化する動きを見せていることだ。こうした一連の動きは、基幹系業務アプリケーション市場の活性化、流動化を引き起こしている印象だ。19年も同様の傾向は続くだろう。(本多和幸)
SIerビジネス編
デジタル新領域とのバランスがカギ
「ハンバーグ定食」で理想的な収益構造をつくれ
SIerを取り巻く受注環境は、2019年も引き続き良好の見通しだ。SIerの売り上げを支えているのは、基幹系システムをはじめとする既存システムの旺盛な更改需要。だが、それに甘んじてしまっては、次の成長のチャンスを逃すリスクが増してしまう。これまでのSIerの見立ては、既存システムへの投資は頭打ちになり、売り上げや利益を伸ばす新しいデジタル領域への投資が増えるというものだった。しかし、少なくとも19年の段階では、老朽化した既存システムの手直し需要が根強くあり、既存システムとデジタル新領域の投資割合の逆転は起きないとみられている。
実際問題として、デジタル新領域を取り込んでいくには、土台となる基幹系システムが古いままでは、API連携すらおぼつかない実情がある。基幹システムからデータを抽出してAI(人工知能)で何らかの傾向を読み解いたり、IoTやソーシャルメディアなどから上がってくる大量のデータを分析して、既存ビジネスのデジタル対応を推進するには、基幹系システムのアップデートが欠かせない。このボリュームが予想以上にある。
SIerの側から見ても、既存システムの改修やクラウド対応は、技術者の現行のスキルセットの範囲内で対応できる割合が高く、「SEの稼働率を高水準に保てる」(SIer幹部)魅力がある。別のSIer経営者は、「ハンバーグ定食」を例に挙げて、既存システムの更改や改修が“ごはん”だとしたら、デジタル新領域は“ハンバーグ”に相当すると形容する。「客を呼ぶためには、見栄えがする豪華なハンバーグを用意する必要がある」と話す。
ハンバーグは、AIやIoT、あるいはデジタルデータから新しい富を生み出すような大胆な提案力に相当する。問題はハンバーグ部分の売上構成比が小さすぎて、収益の大半を“ごはん”部分に依存する構図にある。
これでは自社の技術者のスキルセットは大きく変えられないし、収益構造も従来型のままである。受注環境が良好な19年を大きなチャンスととらえ、次の成長につながるスキル転換や収益モデルの変革を推進。大盛りごはんにミニハンバーグの付け合わせではなく、大盛りごはんに巨大ハンバーグ定食を目指していきたいものである。(安藤章司)