日本市場でビジネス拡大を目指す
有力RPAベンダーの勝算

　RPAブームを商機に、ビジネスを展開する企業が数多く登場する中で、日本市場で数多くの実績を重ねる有力ベンダーもある。その中から今回は、UiPath（ユーアイパス）とBleu Prism（ブループリズム）のビジネス戦略を取り上げる。
 

UiPath（ユーアイパス）
RPAは企業の真ん中で
デジタル・プラットフォーマーになる

日本からの要望を製品開発に反映

　さまざまなシステムの真ん中にRPAが位置することで、自動化のメリットを享受できる。このような発想自体は、かつてのSOA（サービス指向アーキテクチャ）や「Enterprise Service Bus」などにもあっただろう。それらと異なる点は、RPAはツールの形で機能し、活用するのにプログラミングも既存システムの改変も必要ないことだ。「RPAなら事業部門にいるITスキルが高くない人でも、自動化を実現できる。RPAはそうした人たちが、ITを使いこなすためのものだ」と、ユーアイパスの長谷川康一代表取締役CEOは語る。ロボットを作るのではなく、ロボットを人々が使いこなす、それがRPAの本質。そのためIT部門よりも事業部門が主体となり、業務改善を考え実現する手法だ。
 
　調査機関のグローバルにおけるRPAベンダーの評価で、ユーアイパスはリーダーに位置付けられている。同社は2005年にルーマニアで創業、日本法人の設立は17年2月と日はまだ浅い。とはいえユーアイパスは、日本を最優先市場と見ている。というのも、17年6月時点で日本の同社製品導入企業数は6社しかなかったが、18年11月時点で600社を超え19年1月には765社まで増えているからだ。急激に日本のビジネスは伸びており、グローバルの導入社数の3割以上を占める。

　「日本のRPAは周回遅れとも言われているが、この1年くらいで日本がリードし、むしろ日本のRPAが世界標準になっている」と長谷川氏。日本でこれだけ急激にビジネスを伸ばしているUiPathの特徴は五つある。

　一つめは、同社が「コンピュータの目」と表現するRPAでの自動化対象の広さ。「Microsoft Office」製品やブラウザーだけでなく、Javaなどで開発されたアプリケーションから汎用機のエミュレーターまで幅広いUIを認識できる。

　二つめは、操作性の高さ。高度なレコーディング機能があり、GUIを使って容易にワークフローを開発できる。さらに400種以上の自動化アクティビティを部品としても用意しており、これらで迅速なロボット開発ができる。

　三つめは、スケーラビリティー。デスクトップ型とサーバー型の二つのモデルで運用でき「小さく始めて大きく育てることができる」と長谷川氏。1000台を超えるロボットの稼働も一元的に管理でき、大規模運用時のユーザーセキュリティー管理などもきめ細かく行える。

　四つめは、他システムと柔軟に連携できる拡張性だ。「IBM Watson」や「Google Cloud Machine Learning」など代表的なAIの仕組み、手書きOCRなどとも連携できる。

　さらに五つめが、充実した日本語への対応。メッセージも含め日本語化を行い、日本語によるカスタマーサポート、日本語オンライン・トレーニングマニュアルも提供する。

　それに加えて、グローバルの製品開発部隊に日本からの要望を積極的にフィードバックしている。その上で日本のパートナーとも積極的に協業。18年11月時点でコンサルティング、SIなど顧客の要望に応えるため47社がユーアイパスのパートナーとなっている。さらにトレーニングパートナー22社、開発リソースパートナーも45社と多い。

AIとの連携がRPAの目指す姿

　ビジネスは伸びているが、日本市場には「RPAに対する誤解もある」と長谷川氏は認識する。一つが「魔法の杖問題」。RPAを入れれば何でも安く自動化できるとの経営層の誤解だ。またIT部門には「過去の悲劇問題」があり、RPAなんてExcelのマクロと変わらない、RPAでエンドユーザー・コンピューティングの悲劇が再び起こる、といった誤解もある。

　これらの誤解を解くためには、現場の小さなジョブを少しだけ自動化するのではなく、RPAをエンタープライズソリューションと捉え全社規模で活用する必要がある。逆に言えばRPAは、小さく始めて大きく育てられる仕組みでなければならない。「最終的には“Robot for All”で、各人がExcelを使うように1人1台のロボットを入れ、全ての人がそのロボットでメリットを得られるようにする。そういう時代が、これからはやってくる」と長谷川氏。
さらにRPAはシステム構築とは違うと捉えることも重要だ。既存システムの上にのるものであり、システム環境の変化などに合わせロボットを継続的に改良できなければならない。その際にはガバナンス機能が必要で、複数ロボットを一元管理できなければならない。「システムは簡単に改良できないが、ユーアイパスのロボットは容易に改良ができる」と言う。

　ロボットが企業の中で安定して動くようになれば、次はAIとの連携だ。手足だったRPAにインテリジェンスを加える。AIを業務の中で動かす基礎技術となるのがRPAだ。データサイエンティストが行うデータを集めクレンジグする手作業部分を、RPAのロボットに任せようなこともできるだろう。「RPAで業務の自動化を行えば、AIが実効的なものになる。それがRPAが今後目指すべき姿だと考えている」と長谷川氏は語る。
 

Bleu Prism（ブループリズム）
デスクトップ型は
本来のRPAではない

全社展開を念頭に製品導入を推進

　英国で2001年に創業したブループリズムは当初、銀行にコンサルティングサービスを提供していた。その中で業務の自動化を行う仕組みを構築、パッケージ化して提供を始めたのが05年。世の中にRPAという概念を最初に打ち出したのは同社といわれている。

　ブループリズムはRPAをデスクトップの自動化ツールではなく、経営にインパクトを与える「デジタル・ワークフォース」とみている。そのため、RPAの全社展開を念頭に置いている。「現場の単純作業をソフトウェアのロボットにやらせるデスクトップ型とは、そこが異なる」と、志村裕司・ソリューションコンサルティング部長は話す。

　同社のRPAには三つの柱がある。一つめが「Connected」でさまざまなシステムに対応できること。既存のほとんどのエンタープライズ・アプリケーションに対応でき、汎用機のアプリケーションも連携できる。

　二つめの柱が「Easy to Control」。これは全社規模で利用する上で必須のガバナンスを管理できることだ。「セキュリティーとコンプライアンスの確保への投資にはかなり自信を持っている」と志村氏。

　三つめが「Intelligent」でAI機能との連携だ。現状、Blue PrismはAI機能を持たない。マイクロソフトやグーグル、IBMなどのAI、ほかにもOCRソフトの「ABBYY」やビジネス分析プラットフォームの「Splunk」などとドラッグ&ドロップ操作で連携できる。すでにテキスト認識やOCRとの連携、チャットボットとの連携などは事例があり、さらに、例えば経理担当の人が利用するPCの利用状況を自動把握するプロセスマイニングとの連携もある。
 
　これら外部パートナーの仕組みと連携するために、「Digital Exchange」というマーケットプレイスも用意。ここからコネクターをダウンロードし、Blue Prismの中ですぐに利用できる。「AIとの連携はいかに簡単に実現できるかが重要。Blue Prismならまったくコーディングなしで連携できる」と志村氏は自信を見せる。

　Blue Prismの導入事例は金融業界で多いが、小売りや製造業もあり、業種、業態は問わない。デスクトップ型ではないので、ロボットの数ではなくどれくらい大手企業で採用されているかを実績として重視している。「多いのはグローバル展開していて、ガバナンスやコンプライアンスを重視する企業。他のデスクトップ型も利用していて、コンプライアンスを重視する業務はBlue Prismで自動化する企業もある」と、同社の千原寛幸マネージングディレクターは説明する。

デスクトップ型が本来のRPAではない

　ブループリズムでは主にレコーディングの機能を使いデスクトップの処理を自動化するものを「RDA（ロボティック・デスクトップ・オートメーション）」とし、全社規模のデジタル・ワークフォースとなるRPAと区別している。ブループリズムのRPAの特徴は、スケールしやすいアーキテクチャーによる高い拡張性、可用性の高さに加え例外処理などにも強い耐障害性の高さ、そしてコンプライアンスとセキュリティーの機能だ。ガバナンス、コンプライアンスを確保する機能により「野良ロボットを防止し、監査に完全対応できるログも取得できる」と志村氏は説明する。

　Blue Prismのアーキテクチャーは、業務フローとなるプロセスとシステム単位の処理となるオブジェクトに分かれている。オブジェクト指向で部品化されており、メンテナンス性は高い。他のRPAベンダーも機能の部品化は行っているが、多くは部品をそれぞれのロボットにコピーする。そのため何らかの変更が発生した際は、それぞれのロボットの中にある部品を変更しなければならない。Blue Prismでは、サーバーで一元管理している部品を変更すれば、部品を利用する全てのロボットに反映される。このアーキテクチャーは、セキュリティーやコンプライアンスを確保する上でもかなり優位に働く。

　また、Blue Prismは動かすロボットの数、つまりランタイムの数で課金される。仮に3台は経理ロボット、1台は人事ロボットで日常運用し、人事の繁忙期はそれぞれ2台ずつに変更してロボットを動かすことも可能だ。利用の仕方を変えても追加費用は発生しない。サーバー型で別途サーバー環境が必要であっても、この運用の柔軟性がTCOの削減につながる。またサーバー型とはいえ「サーバーからランタイムまでノートPC1台で動かすことができる。PoCやスモールスタートでもすぐに安価で始められる」と志村氏は言う。

　日本の戦略としては、Blue Prismの特徴を顧客やパートナーに正確に認知してもらうことを重視する。「安くて簡単だからとRPAを入れている企業がたくさんあるが、デスクトップ型が本来のRPAではない。今後はマーケティングにも投資し、Blue PrismのRPAとしての良さをさらに発信していく」と志村氏は力を込める。また、同社はパートナー経由でビジネスを展開しているため、パートナーを増やすことにも注力する。そしてパートナーの中に、Blue Prismを理解し開発できる人材を増やすことに力を入れる。