サブスクリプション の拡大が生む
業務システムの新市場
ズオラ・ジャパン
成長続ける市場のけん引役
日本市場は7000億円近くに拡大する可能性
現代のサブスクリプションビジネスの本質が顧客起点の新しい価値創造を目指すことだとすれば、プロダクト販売からビジネスモデルを移行した場合、業務プロセスも大きく変わらざるを得ないことになる。それを支える業務システムもまた然りである。
ズオラはサブスクリプションの現代的解釈や価値の啓発とともに、それを支える新たな業務システム市場を開拓してきたパイオニアと言える。サブスクリプション化の盛り上がりとともに急成長し、18年4月、ニューヨーク証券取引所に上場した。
日本法人であるズオラ・ジャパンの立ち上げからは4年が経過したが、この半年で同社製品の引き合いが急増しているという。桑野順一郎社長は、「トヨタがソフトバンクと組んでMaaSに取り組んだり、国産大手家電メーカーがIoTによるサブスクリプションビジネスに踏み出したりなど、日本の経済界をリードする大企業のサブスクリプション化が影響している」と分析する。また、クラウドサービス関連のビジネスを手掛ける企業も同社の主要顧客であり、freeeや弥生、スマートHR、チームスピリットなどもユーザーに名を連ねている。
ズオラの基幹製品である「Zuora Central」は、サブスクリプションビジネスのためのプライシング(収益化デザイン)、見積もり、契約管理、請求・回収、売上集計、レポート・分析といった各業務を一つのプラットフォーム上でカバーする(図4参照)。前章で触れた「顧客起点でサービスの価値を調整しできるだけ長い期間契約を続けてもらう」ための機能群と言っていい。
米ズオラのティエン・ツォCEOは、「(ズオラ製品によって)サブスクリプションビジネスの上流から下流までを包括的にサポート可能で、従来のERPやCRM、販売管理などのシステムでは対応できない機能をカバーしている」としており、ERPベンダーをライバル視している感もあった。しかし、国内の実際の導入事例ではERPとCRMを連携させて使うことが多いという。桑野社長は「ERPやCRMは基本的にプロダクト販売のビジネス用にデザインされているが、ズオラ製品を間に置くことでうまくサブスクリプションに対応できるようになる」と説明する。具体的にはどういうことなのか。「例えば新しいクラウドサービスを世に出したとして、定額制なのか、従量課金なのか、階層型の課金なのか、初月フリートライアルなどのキャンペーン施策はどうするのか、有償オプションの設定はどうするのかなど、収益化のモデルはいろいろ考えられるが、Zuora CentralはこれをGUIベースで簡単に定義できる。また、主要なCRMと簡単に連携できるので、営業マンはCRMの画面上で定義したプライシングに従ってサブスクリプションの見積もりを自動作成できる。月の途中での契約なら日割り計算も入ってくるので、従来はこれをCRMの外でマニュアルで計算して見積もりをつくっているケースが多く、すごく時間がかかっていた。プロダクト販売よりも複雑になる請求額の計算や売り上げ計上、仕訳けなどもZuora Central側で自動で行い、ERPには今までどおりに処理できるかたちでデータを流せる」
桑野順一郎
社長
同社製品はSaaSで提供され、ノーカスタマイズでの利用が基本。「100カ月以上連続でバージョンアップを実施しており、1000社以上のユーザーがいて、各業種業態のベストプラクティスが詰め込まれている」(桑野社長)という。富士通や三井情報など、SIパートナーの拡大も進めてきたが、プロダクトの思想とSIer側のビジネスモデルがマッチしないケースもあったようで、日立ソリューションズとはパートナー契約を解消している。現在のパートナー戦略は、上流側の提案を強化するためのコンサル系のパートナー網の拡大が中心だ。「日本はサブスクリプションマネジメントシステムの市場が約7000億円レベルになるポテンシャルがある。現状はまだ市場は小さいが、拡大のスピードが急速に上がっている手応えがある」(桑野社長)といい、直販部隊の増強なども含め日本市場への投資を強化していく方針だ。
ビープラッツ
ズオラと“同期”の国産ベンダー
「日本はBplats」のグローバル企業が増えている
グローバルでサブスクリプションビジネスのための業務システム市場を開拓してきたのがズオラだとしても、サブスクリプション統合プラットフォーム「Bplats」を提供するビープラッツの藤田健治社長には、国内市場でのサブスクリプション拡大をリードしてきたという自負がある。「創業もズオラと同年の06年、当社は昨年4月に東証マザーズに上場したが、上場のタイミングも全く同じ。なかなかサブスクリプションの本質的な価値を市場に広く理解してもらうのが難しい状況が続いていた中で、一緒に大きくなってきた感はある」という。
もともとは、SaaSやクラウドのビジネスにおける課金管理などの煩わしさを解決する業務プラットフォームを提供するというコンセプトで製品開発し、富士通など大手ベンダーにも採用されている。近年では、MVNOや光コラボレーション事業者など、通信サービスに新規参入した企業などの採用も増えた。それまで同社製品は基本的にカスタマイズ型でユーザーの業務にフィットするよう細かく調整するタイプのものだったが、このあたりで業種業界ごとのベストプラクティスを反映したパッケージ製品としての色合いが濃くなった。Bplatsは前章で藤田社長が言及したサブスクリプションの「分類3」を最も得意としているといい、現在ではB2B企業のIoTビジネスのための導入が急増している。
藤田健治
社長
Bplatsのビジネスモデルが特徴的なのは、一つのサブスクリプションビジネスを構成するエコシステム全体をカバーするために、同製品を採用したユーザーだけでなく、仕入先や販売代理店などその取引先もBplatsを使ってビジネスに参画できるように無償版を提供している点だ。無償版を使っている販売代理店などが、新たに独自のサブスクリプションビジネスも手掛けたいと考えた場合は、有償版にスイッチするかたちになる。このエコシステム戦略によって、サブスクリプションビジネスの可能性やBplatsのメリットを浸透させようとしている。
また製品としては、「バックオフィス側のサブスクリプション管理は当然不足なくできるが、ユーザー企業がウェブ上で提供する顧客接点となる機能も合わせて統合プラットフォーム上で一体的に提供しているのが独自の大きな強み。会員向けサービスのマイページのようなものや、契約の申し込み、内容変更、解約ができる仕組みを含めて、ユーザー企業が自社ブランドで使ってもらえるようになっている」(藤田社長)という。顧客起点で考えるべき現代のサブスクリプションビジネスには、顧客接点とバックオフィスの業務管理機能がシームレスにつながっている必要があるという思想だ。こうした特徴が評価され、グローバルではズオラ製品を使っていても、日本市場ではBplatsを使うというユーザーも増えているという。
拡販戦略としては、パートナーエコシステムの拡大に意欲的だ。藤田社長は「サブスクリプションのコンセプトを啓発するだけでなく、実現することを考えると、パッケージ屋が全てをできるわけではない。SIerやコンサルなど、ユーザーのビジネスに寄り添うためのパートナー企業は必要」だと語る。CRMやERPの間に配置して業務システム全般をサブスクリプションにスムーズに対応させるというのは、BplatsもZuora Centralと考え方は類似しており、既存システムとBplatsのつなぎこみや、パッケージの標準機能だけでは対応できないカスタマイズ要望にも、ユーザーを良く知っているSIerなどと手を組みながら応えていく必要があるということのようだ。
サブスクリプションビジネスのための業務システムは、ズオラやビープラッツのようなベンダーだけでなく、ERPやCRMの大手ベンダーである米オラクルも、ビジネスアプリケーション群にサブスクリプションマネジメントの機能を追加し、日本でもビジネスを立ち上げている(次号ニュースで詳報予定)。サブスクリプションビジネスの浸透・拡大に伴って、ITベンダーにとっても大きなチャンスが期待できる市場になる可能性がある。