米国や中国では独自の製品や技術を開発して市場に影響を与える新興企業の動きが顕著です。日本でも、そうした海外勢に負けじと、国を挙げて企業育成・支援に乗り出しています。実際に、世界を見据えて事業を展開するスタートアップ企業が続々と登場。今後の活躍に注目のスタートアップに話を聞きました。
「イッポまえだのよろしくスタートアップ」とは――
本紙2016年7月11日号(vol.1636)から2018年1月29日号(vol.1712)まで掲載した連載企画です。1回につき1社、法人IT市場で注目のスタートアップを紹介する形で、計65社が登場、3回の総集編を含む全68回でお届けしました。バックナンバーはウェブサイト「週刊BCN+」からご覧いただけます。
シナモン
多数のAIエンジニアを擁する
技術力に自信
COMPANY DATA
会社名 シナモン
所在地 東京都港区
設立 2016年10月
http://cinnamon.is/
大目晃弘
Strategy Manager
「ホワイトカラーの生産性向上」を目標に掲げ、それを支援するソフトウェアを開発・提供しているのがシナモンです。シリアルアントレプレナー(連続起業家)として有名な平野未来さんが創業、代表取締役として率いるスタートアップで、日本以外にも、ベトナム、台湾、米国に拠点を展開しています。
主力とする「Flax Scanner(フラックス・スキャナー)」は、AIを活用して文書の読み取りができる製品。「非定型のフォーマットでも、AIを使って必要な情報を抽出できる」(大目晃弘Strategy Manager)ことが特徴で、紙文書のデータ入力や情報抽出などの作業を自動化して効率化することに活用されています。「人間でもなかなか読めないものは難しい」(同)ですが、約85~100%の精度で読み取ることができるそうです。
さらに、シナモンの強みとなっているのが、ベトナムの開発拠点に約80人ものAIエンジニアが在籍していることと、それによって提供できる「技術力」です。Flax Scannerの提供に当たり、「お客様の業務に合わせてカスタマイズして提供できる技術力を持った優秀なエンジニアを多数抱えており、そうした技術力をご評価いただいている」と、大目Strategy Manager。「ベトナムは国策としてITに力を入れており、トップエンジニアを獲得しやすい環境が整っている」とのことで、2022年には500人程度まで採用を進めていく方針です。
Flax Scannerは、大手の銀行・保険など金融業界を中心に40社以上で導入されています。顧客の業務に合ったものをチューニングして提供するというビジネススタイルから直接販売での展開が多く、最近はSIパートナーとの共同提案も増えているそうです。また、より小規模な企業を対象に価格を抑えた製品の提供を検討しており、その場合は「ダイレクトセールスだけでなく、パートナーやウェブ経由での販路も検討していく」(大目Strategy Manager)考えです。
今後に向けては「音声」に取り組んでいて、音声認識ソリューション「Rossa Voice(ロッサ・ボイス)」を次の主力製品とすべく開発に力を入れています。また、日本が中心となっているビジネスの場を海外にも広げていく方針。特に、拠点を構える米国市場を視野に入れており、大目Strategy Managerは「実際の業務で使われているAIに関しては、圧倒的なシェアと取っている企業はまだいない。そこで当社がトップシェアを取り、市場を育てていくことに貢献したい」と意欲をみせています。
SENSY
一人一人の「感性」を
AIが分析する
COMPANY DATA
会社名 SENSY
所在地 東京都渋谷区
設立 2011年11月
https://sensy.ai/
渡辺祐樹
代表取締役
SENSY(センシー)は、「パーソナル人工知能」と呼ぶ、一人一人の感情や行動の理由となる「感性」をディープラーニング技術を使って分析する独自のAI技術「SENSY」を開発している企業です。大手アパレル、百貨店、スーパーなど30社から消費者のデータを収集しており、その規模は2018年末時点で1億2000万人、年間購買額約2兆円分に上ります。その消費者のデータをクラウド上の情報分析基盤「SENSY Cloud」で解析しています。
これを活用した法人向け、コンシューマー向けのサービスを提供。近年は法人向けサービスに力を入れていて、現在、「SENSY MD」と「SENSY Marketing Brain」の二つの法人向けサービスが主力となっています。SENSY MDは、SENSYを活用した需要予測サービス。顧客一人一人の好みや購買タイミングなどを感性として捉えてAIが学習・解析し、商品の需要を予測して、在庫状況の改善につなげます。また、SENSY Marketing Brainは、顧客の感性に基づいてその人に合った内容のDMを配信するサービスです。
また、同社では、AIを活用した新規事業開発支援も手掛けています。実例では、食品卸の三菱食品とともに、食における感性解析の活用を検討、人の味覚を解析しておすすめのお酒を提案する「SENSYソムリエ」を開発しました。そのほかにも、AIを使った業務改善やPoC(概念実証)など、幅広く支援しています。
SENSYはもともと、創業者の渡辺祐樹代表取締役がコンサルティング会社で働いていたときに、アパレル企業が抱える在庫に問題意識を持ったことがきっかけで生まれました。「一人一人がどこに注目して洋服を選んでいるのかをひも解けたら、在庫問題を解決できるのでは」と考え、当時注目を集めていたディープラーニング技術と組み合わせて、現在の形を実現しました。
今後は、SENSY Cloudのデータ量を拡大することに力を入れる考え。これまで中心だったアパレルや百貨店、スーパーだけでなく、ドラッグストアなど幅広い小売企業への拡大を目指し、そのための新機能や新ソリューション開発も検討。「より多くの企業に利用していただき、データの規模を10兆円、20兆円にもっていきたい」と力を込めます。
カケハシ
「薬局」の価値を
ITで最大化する
COMPANY DATA
会社名 カケハシ
所在地 東京都中央区
設立 2016年3月30日
https://www.kakehashi.life/
中尾 豊
代表取締役
「薬をもらう場所」というイメージの強い薬局。それは間違いではありませんが、薬局の全てを表しているわけでもありません。「薬の飲み方や、生活改善のアドバイスなど、知ると得をする情報をもらえる場として変革したい」。こう語るカケハシ創業者の中尾豊代表取締役は、「薬局」という場所の価値をITで高めようとしています。
同社が提供するのは、薬局の薬剤師向けの電子薬歴システム「Musubi」。タブレット端末と合わせて利用するクラウドサービスで、処方する薬の効能や注意点、健康面でのアドバイスなどを表示したタブレットの画面を見せながら、患者に対して服薬指導を行うことができます。服薬指導中に画面をタップすることで、その場で薬歴を記録することが可能で、患者への情報提供と同時に、薬剤師の薬歴作成作業の効率化につなげることもできるという、いわば“一石二鳥”のサービスです。また、同社は約80人いる社員のうちのおよそ2割が薬剤師資格を保持しており、顧客からの要望をシステムに反映したりサポートしたりする体制を整えています。
「基本的には薬剤師も、患者のためになる話をしたいと思っている一方で、患者をあまり待たせたくないという思いもあり、どのようにしたら価値を提供できるかが薬局の課題だった」と中尾代表取締役。ヒアリングを重ねた結果、患者と薬剤師が会話するためのきっかけづくりが重要と考え、「薬剤師と会話をしたら得をする文化をつくる」という視点からサービスを構想したといいます。このように、単に業務の効率化を目指すのとは異なるコンセプトが評価されていて、2017年8月のリリース以降、現在までに「全国約6万店舗ある薬局のうち、約1万店舗から問い合わせが届いており、徐々に全国に導入が広がっている」そうです。
今後も患者が得をする体験の実現を目指し、Musubiの利便性向上に力を入れる方針。「スタートアップなので、成長率を高めていきたい」(中尾代表取締役)と、自社の力だけでなく、知見を持っている企業との連携も検討していく考えです。
[次のページ]スマートドライブ 車のデータ解析で先を走る