Special Feature
ERPベンダー注目のニューカマー 流動性高まる市場に新プレイヤー続々
2019/04/17 09:00
週刊BCN 2019年04月08日vol.1771掲載
国内ERP市場の変遷
クラウド化の流れがいよいよメインストリームに
昨年8月に国内ERPパッケージライセンス市場の調査レポートを発表した矢野経済研究所によれば、2017年の市場規模は1097億9000万円(エンドユーザー渡し価格ベース)で前年比0.8%増だったという。ほぼ横ばいでの推移となったが、景況感が良好であることからユーザー企業の情報システムへの投資意欲は高いとしている。
さらにこのレポートでは、ERPパッケージベンダーの“勝ち組”“負け組”が鮮明になってきた傾向が見られること、そしてクラウド化の進展が顕著であることを指摘しており、「ERPのクラウド化は2016年くらいまでは緩やかに進んでいたが、17年は明らかな進展が見られ、ユーザー企業ではクラウドが優先的に選択されるようになっている。こうしたトレンドの変化に対応し、クラウドを主体に提供しようとするERPベンダーも増えつつある」(矢野経済研究所)としている。
調査会社のITRも例年春に国内ERP市場の調査レポートを発表している。間もなく最新版が世に出ると思われるが、昨年3月に発表した18年版のレポートでも、ERPのクラウド化の流れが顕著であることを指摘。「国内ERP市場は、グローバルの趨勢と同様に、SaaSとパッケージ(IaaS)を合算したクラウドERPが市場全体の成長性を牽引するトレンドに完全に切り替わった」としている。17年度(18年3月期)は売上金額ベースで市場の4割以上をクラウドERPが占め、18年度は半数を超える見込みだという。さらに同社レポートでは、20年にはSaaSの売上金額がERP市場のマジョリティになるとも予測している。
Everジャパン
実績が出始めたERPのニューカマー
SAPの2025年問題を日本市場の追い風に
近年、日本のERP市場に本格参入し、実績を積み上げつつあるベンダーもある。韓国の有力ERPベンダーである永林院ソフトラボの日本法人であるEverジャパンは、市場のトレンドと軌を一にするように、やはりサブスクリプションモデルで提供するクラウドERPを武器に国内の顧客開拓を進めている。正確な案件数は公表していないものの、前田朝雄社長によれば「国内大手企業の海外拠点や国内子会社などで導入が進み、リファレンスとして非常に説得力のある案件が複数出てきた」という。これに伴い、パートナーエコシステムも拡大し、2018年末の時点で9社とパートナー契約を締結済みだ。さらに新規のパートナーとして、「有力クラウドインテグレーターや大手SIerとの交渉も進んでいる」(前田社長)といい、「2025年問題」でERPのダウンサイジングを検討する既存SAPユーザーなどを新規顧客として取り込む体制を整備していきたい考えだ。
前田朝雄
社長
永林院ソフトラボがEverジャパンを設立したのは16年。03年から日本市場に進出してはいたものの、販路は限定的で市場に根付くまでには至らなかった。しかし同社は、14年にクラウドERP「SystemEver」をリリースし、これを契機としてアジア地域での拡販を強化する方針にシフトした。その足掛かりとして日本法人を設立し、日本市場での顧客基盤拡大に本腰を入れ始めた。
權寧凡
代表取締役
永林院ソフトラボの權寧凡代表取締役によれば、SystemEverの韓国国内でのユーザー数は約900社で、単体での売上高は20億ウォン(約2億円)という事業規模だという。權代表取締役は、SystemEverが日本市場でも受け入れられると自信を見せる。「日本のIT市場は韓国の約7倍の規模だし、韓国企業よりも日本企業の方が優れたERPを選択する能力が高いと思っている。世界的に競争力が強い中小企業もたくさんあり、SystemEverの有望な潜在顧客は多く、目下最も有望な注力市場だ。幸い、スキル・ノウハウのある10社近い数のパートナーと契約でき、本格的にビジネスが伸びていく準備が整った。日本企業の採用事例も出てきて、SystemEverの価値を広くアピールしていくことができるようになった。5年後には韓国本国を凌ぐ売上高になる可能性もあるのではと期待している」
SystemEverが強みとするのは、導入のコストとスピードだ。Everジャパンの前田社長は、「コンサルとカスタマイズのコスト負担を極小化することで、一般的なERPの10分の1以下のコストで導入できる。ある日本企業の事例では、ユーザー側への訪問回数がわずか12回、導入期間3カ月で本稼働にこぎつけた」と話す。SystemEverの導入では、ノンカスタマイズを前提に、約100個のサブプロセス機能を組み合わせることでユーザーの業務要件にフィットさせていく。「日本の一般的なERP導入プロジェクトでは要件定義に少なくとも半年以上かけるが、SystemEverの導入では要件定義フェーズを設けていない。要件定義、基本設計、アドオン・カスタマイズの見積もり、開発、テストといったプロセスがないことが本稼働まで短期間にこぎつけられる理由。20年以上にわたるERPビジネスで培った高度な標準機能には絶対の自信を持っており、SystemEverの標準プロセスにフィットしないユーザーには、業務プロセスそのものを修正してもらうこともある」(前田社長)。こうした特徴を生かして、基幹業務が統合的にシステム化されていない売上高50億円未満の企業やグローバル企業の中小規模拠点をメインターゲットに拡販を進めていく。
權代表取締役は、市場環境として、SAPの2025年問題も日本市場のビジネス拡大の追い風になると見ている。「国内のパートナーやパートナー候補のSIerはSAPビジネスの経験を持っているので、うまくビジネスチャンスにつなげていけるように議論を重ねている」という。さらに、韓国国内でSAP ERPユーザーの大企業が同社製品に乗り換えた事例もあるといい、そうした提案ノウハウをEverジャパンとも共有していく方針だ。日本市場への投資も強化する意向で、韓国本社のR&D部門で日本市場向けの機能開発に携わる人員を大幅に増員したほか、今年中に五つの業種・業務向けソリューションを新たに開発して日本市場に投入する計画だという。
SMB向け基幹業務ソフトベンダーにも
広がるERPへのアプローチ
国内の中小企業向け基幹業務ソフト大手のピー・シー・エー(PCA)は今年2月、中堅企業向けの新たなERP製品「PCA hyper」の第一弾として、会計/固定資産モジュールをリリースした。今年7月には給与/人事管理、2020年2月には会計モジュールの債権・債務管理オプションもリリースする計画だ。PCA hyperは年商10億円から100億円、従業員数1000人、グループ子会社10社程度までの規模の中堅企業がターゲット。約9万社の潜在的な顧客が存在すると見込む。
PCAは01年に中堅企業向けのERP製品として「PCA Dream21」をリリースしたが、18年3月に生産を完了。PCA hyperはDream21に代わる中堅企業向け製品という位置付けだが、“仕切り直し”で中堅企業向けERPに再チャレンジする背景には、基幹業務ソフトのSaaS化にいち早く取り組んで積み重ねてきた実績とノウハウが生きるタイミングが到来したという判断がある。
クラウドが開いた
新たなERP製品への道
Dream21は、PCAの主力製品である中小企業向けパッケージ「PCA DX シリーズ」の系譜とは異なるアーキテクチャーを採用していたため、同社にとってDream21向けの開発リソースの確保が大きな負担となっていた。また、DXシリーズのクラウド版「PCAクラウド」は同社の新たな柱として1万1000社を超えるユーザーを獲得しているが、Dream21はクラウド対応も進んでいなかった。一方で、PCAクラウドのユーザーは、主力のDXシリーズユーザーよりも大規模な法人が多く、複数拠点で事業展開する企業の採用も多い。佐藤文昭社長は「中堅企業のお客様から、さらなるパフォーマンス向上やガバナンス強化のための機能を充実させてほしいと要望されることも少なくなかった」と話す。こうしたユーザーの反応が、DXシリーズ、PCAクラウドをベースにした中堅企業向けの新たなERP製品の投入を後押しした。そして世に出たのが、PCA hyperだ。
佐藤文昭
社長
製品の特徴としては、グループ企業間でのデータ管理の効率化を進めたほか、DXシリーズ、PCAクラウド譲りのWeb-APIによる他システムとのスムーズな連携も実現したという。SaaS形態での提供のほか、主にパフォーマンスを重視するユーザー向けに、AWSやFUJITSU Cloud Service、IBM Cloudなどパートナーシップを組む有力クラウドベンダーのIaaSにも対応した。
中小企業向け基幹業務ソフト市場のメインプレイヤーとしては、応研が13年に中堅・大企業向けERP「大臣エンタープライズ」をリリースし、販売管理を中心に実績を伸ばしている。プラグイン方式で工数をかけずにカスタマイズができるという利点が人手不足に苦しむSIerから高く評価されたことでSIパートナーが増え、安定的な受注増につながっているという。またオービックビジネスコンサルタントも、SAPの2025年問題による既存SAP ERPユーザーのダウンサイジング需要などを視野に、中堅企業向けERPパッケージ製品である「奉行V ERP」の大幅な刷新とSaaS化も検討している。これらの業務ソフトベンダーの、中堅企業向けERP市場への新たなアプローチ(もしくは再チャレンジ)は、従来のパートナーエコシステムには属していなかったSIerやクラウドインテグレーターなどとの協業にもつながっている。
ワークデイ
日本市場のみ“特例”で間接販売に着手
20年には中堅企業向け製品や財務会計を国内投入
グローバル市場では、クラウド時代のERP市場をけん引するベンダーとして名前を挙げられることが多い米ワークデイ。米オラクルによる敵対的買収を受けた旧ピープルソフトの経営陣が同社を設立したのは2005年だが、日本法人の設立は13年8月。本格的な営業活動を開始したのは15年に入ってからだ。日本のERP市場への参入という意味では新参と言える。米ワークデイの19年1月期の売上高は前年比31.7%増の28億2000万ドル。ソフトウェア専業ベンダーとしては世界有数のビジネス規模であり、かつ高い成長率を維持している。しかし、日本市場ではその勢いに見合ったプレゼンスを示しているとは言い難い。そこで昨年10月に就任した日本法人の鍛治屋清二社長は、パートナーエコシステムの強化を軸に、日本市場での成長を図る方針を打ち出した。
ワークデイは日本を含むグローバルにおいて直販を基本としており、インプリのみパートナーに任せるケースが大半だった。しかし鍛治屋社長は、「日本市場のビジネスでは特例的に間接販売が必要だということを本社に認めさせた」として、サービスパートナー・エコシステムの強化と販売チャネルの拡充を20年1月期の重点施策に据えた。
まずは日本市場でワークデイの導入支援を手掛けるアクセンチュア、アビームコンサルティング、デロイト トーマツ コンサルティング、日本IBM、PwCコンサルティングとの連携を本格化させる。20年中には財務会計モジュールや中堅市場向け製品も日本市場に投入する予定で、製品ごとに最適な間接販売体制の整備・強化を検討し、同社の日本市場における成長はもとより、日本のクラウドHCM/クラウドERP市場そのものの拡大を加速させたい考えだ。
かつてはコモディティー市場とも言われたERPビジネスが活性化している。「SAP ERP」の標準サポート提供期限が2025年に迫る「SAP ERPの2025年問題」や、関連して経済産業省のレポートで指摘された「2025年の崖」問題を背景に、多くのERPベンダーが今こそビジネス拡大の好機だと考えている。その一つの証とも言うべきか、近年、日本市場に新たに本格参入するERPベンダーが相次いで登場している。激しくうねる基幹業務システム市場の台風の目となるか。(取材・文/本多和幸)
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