主要SIerの好業績が続いている。この背景には、ユーザー企業のデジタル化への投資意欲が依然として高い水準にあることが挙げられる。業種を問わず景況感が良好であるうちに既存システムを刷新して、デジタルトランスフォーメーション(DX)にメドをつけたいと考えるユーザーが多いと見られる。海外の主要市場でもDX需要が高いことから、大手SIerは欧米・豪州・ASEANでのM&A(企業の合併と買収)を通じた海外ビジネスの拡大に一段と積極的になっている。(取材・文/安藤章司)
投資余力を生かし海外M&Aを一段と加速
4%前後の成長で売り上げが推移
企業の価値創出に占めるデジタルの割合が増えるにつれて、ユーザー企業が自社の商品やサービスの付加価値を高めるためのIT投資を拡大させている。価値創出部分の変化に適応するため基幹システムの手直しや刷新需要も強まっており、こうした一連のDX需要が主要SIerの業績を押し上げている。
経済産業省の特定サービス産業動態統計調査をもとに情報サービス産業協会(JISA)が独自に作成した売上高推移によれば、昨年度下期(2018年10月~19年3月)の伸び率は前年同期比4%前後のプラスで推移した。これに伴って、JISAの雇用判断DI値調査では、従業員の不足感は昨年度(19年3月期)まで5四半期連続で過去最高を更新。SIerの業容拡大によって人員の不足感も一段と強まっている(図参照)。
SIerトップ集団に目を向けると、海外市場への投資も拡大している。折しもNTTデータと野村総合研究所(NRI)が、この4月から新しい中計をスタートさせており、その新中計の目玉の一つに海外ビジネスの拡大を掲げている。海外でも国内と同等かそれ以上にDX需要が高まっており、DX関連のSI実績やノウハウの習得を進める上でも海外進出は欠かせない。好業績で投資余力がある今のタイミングで、M&Aなどの投資が欠かせないと見ている。
NTTデータ
大口顧客の獲得で収益力拡大へ
NTTデータは、2019年3月期までの前の3カ年中期経営計画で掲げてきた年商2兆円超、営業利益では16年3月期比で50%増の目標をクリア。今年度からスタートした新しい3カ年の中期経営計画では、新規M&Aは含まず連結売上高2兆5000億円、営業利益率8%の達成の目標を掲げる。そのカギを握るのが「大口顧客の一層の獲得」と「海外ビジネスの利益率の改善」である。
大口顧客の指標としてNTTデータは、顧客あたりの年間売上高を「国内顧客は50億円以上、海外顧客は5000万ドル以上」を目安としている。前の3カ年中計期間では大口顧客を20社増やして計70社にしたことが売上増に大きく貢献。新中計ではさらに10社増やして計80社にする方針だ。
顧客からより多くのIT投資を引き出すには、例えば、DX関連で他社にはない斬新な提案を行うといったアプローチも重要だが、それ以前にそれぞれの国や地域で大型案件を受注できるだけの体力や規模があるかどうかが強く求められる。
本間 洋
社長
実際問題として、ユーザー企業からすれば、その国・地域で上位10位にも入らないような中堅・中小SIerにはなかなか大型案件は任せづらい。自社のプレゼンスが乏しい国や地域で新たなM&Aを行ったり、NTTグループ各社と連携するなどして、「全体としてプレゼンスを高める手法が有効だ」と、本間洋社長は話す。NTTグループの海外事業の一連の再編を踏まえて、海外での大型案件の獲得に向けてアクセルを踏んでいく。
一方、今年度(20年3月期)営業利益率は北米が2.0%と予想、EMEA(欧州・中東・アフリカ地域)・中南米では0%の見込みと、主に海外での利益率の向上が課題となっている。
北米は最もDX関連の投資が盛んな地域で、それだけに競争も激しい。NTTデータは昨年度末までにカナダ西部のブリティッシュコロンビア州の高度医療を管轄する団体から5年間で総額4億カナダドル(約320億円)のITサポートサービスの大型受注を獲得するなど着実に実績を積み上げているが、今後も継続してビジネスを伸ばしていくためには一段と競争力を高めていく必要がある。
EMEA・中南米は今年度、およそ100億円を投じて集中的に事業構造改革を実施する。NTTデータが早くからM&Aを行ってきた地域だけに、各国・地域の法人のITシステムや制度に違いが大きく、構造改革によって整合性を高めることで事業を効率化。来年度以降の利益率の拡大につなげていく考えだ。
7月のNTTグループ再編
「B2B2X」を10倍の6000億円規模に
NTTグループは、7月からNTTコミュニケーションズの海外事業とディメンション・データを統合した新生NTT(通称:NTTリミテッド)の営業をスタートさせる。ディメンション・データが多くの顧客を持つ英国ロンドンに本社を置き、初代CEOにはディメンション・データのジェイソン・グッドールCEOが就任する予定だ。長年親しまれてきたNTTコミュニケーションズのブランドは、海外では新生「NTT」に集約され、NTTコミュニケーションズは国内顧客と海外に進出した日系企業向けにサービスを提供する事業会社となる。
NTTグループでは、DXを推進するコンセプトとして「B2B2Xモデル」を推進している。これまでの企業間(B2B)のビジネスに加えて、顧客のその先に位置する顧客までを視野に入れてビジネスを構築する考え方だ。NTTグループ各社が参加している米ラスベガス市のAI/IoT、5Gといった先端技術を活用してスマートシティを推進するプロジェクトをモデルケースに位置付け、NTTグループ全体のB2B2Xモデルによる売り上げを23年までに「今の約10倍に相当する6000億円規模に拡大させていく」(NTT持ち株の澤田純社長)と意気込む。
NTTリミテッドの社員数の規模は約4万人、売上規模は約110億ドル(1兆1880億円)、世界57カ国・地域に展開する企業グループとなる予定で、向こう2年ほどをかけて、ITシステムや人事制度などの統合プロセスを推進。NTTグループ全体では、NTTデータの海外社員約8万人と合わせておよそ12万人の布陣で、23年度までに250億ドル(約2兆7000億円)、営業利益率7%を目指していく方針だ。
野村総合研究所(NRI)
DX関連の売上比率75%を目指す
野村総合研究所(NRI)は、昨年度(2019年3月期)連結売上高は前年度比6.3%増の5012億円、営業利益は同9.7%増の714億円で、昨年度までの3カ年中期経営計画で示してきた年商5000億円、営業利益700億円の目標を達成した。その上で、22年度(23年3月期)までの4カ年中期経営計画を発表し、目標値を連結売上高6700億円以上、営業利益1000億円、営業利益率14%以上、海外売上高1000億円を掲げている。
中計のポイントとなるのは「DXビジネス」と「海外ビジネス」の拡大の二つ。
此本臣吾
社長
DXビジネスでは、業種ごとの共同利用型サービスの「ビジネスプラットフォーム」を駆使してコスト削減や敏捷性を実現したり、既存システムのクラウド対応といったモダナイゼーションを行う基本的なDXを実行。さらにユーザー企業のビジネスモデルそのものをデジタルで変革。顧客のビジネスに深くコミットしリスクと成果をシェアする発展型のDXの二本柱で臨む。ユーザー企業とDX推進を目的とした合弁会社の立ち上げにも取り組んでいる。中計では基本型、発展型のDX関連売上高比率を「足下の約60%から75%へ伸ばす」(此本臣吾社長)。
海外ビジネスの売上高は、オーストラリアのグループ会社のASGグループを中核に530億円規模に拡大している。向こう4年間でM&A関連の投資額500億円を準備して海外売上高1000億円を目指していく。オーストラリアでは20年度をめどに同国ITサービス市場で上位10位以内に入ることを視野に入れるとともに、北米では付加価値の高い知財を持ち、NRIのDX戦略と補完関係が築けるIT企業のM&Aを推し進めていく構えだ。
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