なぜ今プロセスマイニングが注目されるのか
デジタルツインによる業務変革のカギ
業務プロセス改善のためのITツールとしては、BPMソリューション、近年ではRPAなどもブームとなったが、プロセスマイニングもそれらと密接に関連するソリューションといえる。
ハートコアの松尾シニアマネージャーは、「もともとプロセスマイニングはBPMの一つの分野として考えられてきた」と説明する。「業務プロセスの現状把握は従来、ヒアリングベースで行われてきたが、それでは客観性に乏しい業務分析になりがち。そこで、ERPなどの業務システムが普及し始めたところで、その操作ログを分析することで、もっと客観的な業務分析ができるのではという流れが出てきたのがプロセスマイニングにつながっていく」
ただし、現在に至るまで日本でプロセスマイニングがそれほど注目されてこなかったのは、業務のデジタル化が進まず、システム上の操作ログが存在しない業務が多かったからだ。これは、「競争領域ではない業務でも、標準化を進めてシステム上で効率よく処理するという意識が弱い日本企業にありがちな傾向も影響しているのでは」と松尾シニアマネージャーは指摘する。
しかしここに来て、DXのトレンドが浸透してきたことで、その状況も変わりつつある。個人の担当作業、個人間、部署間、顧客やパートナー企業とのやり取りも含めて、まさにビジネスプロセス全体をエンド・トゥ・エンドでデジタル化する動きが進んできている。この動きは、企業の業務や組織のデジタルツイン(サイバー空間上に現実空間のデータやプロセスを再現したもの)を構築することを可能にし、継続的・恒常的に問題点を把握し改善していく、動的な業務プロセス変革のための仕組みにもつながっていく。松尾シニアマネージャーは、「組織のデジタルツインを構築するためには、プロセスマイニングツールが不可欠。つまりDXにはプロセスマイニングツールが欠かせないということでもある」と主張する。
一方、近年ブームとなったRPAの導入における課題がプロセスマイニングツールへの期待感を醸成している側面もある。RPAは個人のタスクレベルで現状業務を単純に自動化しようとした導入プロジェクトも多く、当然、それでは導入効果が限定的になる。「プロセスマイニングでプロセス全体の分析をして、必要な標準化を進めるなどの改善策を見出し、継続的な改善のための現場のコントロールはBPMに任せる。そして、タスクレベルの自動化はRPAに任せるというような組合わせが、エンド・トゥ・エンドの業務プロセスデジタル化を実現するシステムの一つの在り方と言えるだろう」と松尾シニアマネージャーは指摘している。
セロニスと協業するSAPが考える
業務プロセスの全体最適
ビジネスアプリケーションのグローバル市場におけるトップベンダーであるSAPも、業務プロセスの最適化にフォーカスしたソリューション群を日本市場に本格投入する。同社のプロセス最適化ソリューションは、前述したセロニスのプロセスマイニングツール「SAP Process Mining by Celonis」に加え、自社製品であるBPMの「SAP Intelligent Business Process Management(iBPM)」、RPAの「SAP Intelligent Robotic Process Automation(iRPA)」、プロセス上の課題の可視化・分析・対策ツールである「SAP Cloud Platform Process Visibility」という4製品から成る。
同社の構想では、SAP Process Mining by Celonisがプロセス最適化の起点となる。プロセスマイニングで業務プロセスを解析し、その結果を受けてBPMがプロセスの再設計、RPAがその実行を担い、SAP Cloud Platform Process Visibilityが監視と補正の役割を担う(補正機能は今後リリース予定)。そこから再度プロセスマイニングを施し、業務プロセス最適化を継続的に行う。こうした仕組みを提供することで、「データドリブンのプロセス可視化とインテリジェントなプロセスの自動化を実現」(SAPジャパンの首藤聡一郎・バイスプレジデント兼チーフイノベーションオフィサー)し、ユーザー企業がビジネス環境の変化にスピーディーかつ柔軟に対応できるようにするというコンセプトだ。(図参照)
ちなみに同社はiBPMとiRPAを「インテリジェントなプロセス自動化」に貢献する製品と位置付けている。両製品の「i」はintelligentの頭文字をとったものであり、AIを組み込んでいるのも特徴だという。
また、iRPAはSAPが18年11月に買収した仏コンテクスターのRPAツールをベースにした製品だ。セロニスとの協業に代表される他ベンダーとのパートナーシップのほかに、M&Aでもプロセス最適化に必要なソリューション群を整備してきた。SAPジャパンの岩渕聖・プラットフォーム&テクノロジー事業本部部長は、「RPA立ち上げのプロジェクトは5割近くが失敗し、RPAの利用拡大に成功する確率は3%に過ぎないと言われる。プロセスの課題がどこにあり、それをどのように解決してどう自動化すべきなのかを定めないままにツールだけを入れた結果だ」と指摘する。SAPはRPAの可能性に着目しつつも、RPAを生かすためにはプロセスの全体最適を実現する統合ソリューションに組み込んで使う必要があるという思想の下に、製品ラインアップを整備してきたかたちだ。
同社は近年、顧客満足度や従業員満足度などのデータを「Xデータ」、既存の業務アプリケーションが保持するデータを「Oデータ」として、XデータとOデータを連携させて分析・活用することで業務改善のためのアクションを加速させるためのソリューションに注力する姿勢を鮮明にしている。一連の業務プロセス最適化ソリューション群は、XデータにOデータを加えた従来以上に幅広い属性の大量データを業務改善に効率的に生かしていくという観点でも、同社の新しい戦略を支える製品と言えそうだ。