異業種企業が手を組むCEATECを「共創」の場に
CEATECに異業種企業の出展が増加している背景にあるのは危機感だ。配車アプリ「Uber」の登場によって、タクシー業界が激震に見舞われた米国の事例は、どんな国や業界においても起こり得る。それを打破するためには、テクノロジーの活用や他社との共創が不可欠であり、こうした危機感を持った企業がCEATECに出展をしている。
そこで主催者は、出展者の意図を捉えて、いくつかの新たな試みに挑んだ。その一つが、Society 5.0 TOWNでの仕掛けだ。
エリア内には、企業同士の共創事例を発信する「共創ゾーン」を初めて設置し、従来の個社ごとの展示だけではない、出展者同士が連携した展示を行った。
それだけではなく、主催者はSociety 5.0 TOWNに出展する企業同士が一堂に集う会合を半年以上前から何度も開き、出展者の担当者同士が互いに名刺を交換し、情報を交換をする間柄を作っていた。各社の共創の場を、展示会場だけにとどまらず展示会開催前から創出し、異業種同士が緊密に連携した上でCEATEC開催当日を迎えるという関係性を作り上げたのだ。
CEATEC実施協議会は「展示会当日だけに出展の成果を求めたり、展示会終了後に成果を追求したりというだけでなく、展示会開催前からも、共創を模索できるのがCEATECの新たな姿だといえる」としている。
その結果として、展示会場では次のような取り組みも行われた。
ANAアバター
Society 5.0 TOWN内にアバター専用レーンを用意し、ANAホールディングスのANAアバターが移動して、他社ブースを訪問。ANAブースにいながら、他社ブースの説明員から展示内容の説明を受けることができたのだ。出展各社との事前の連携があったからこそ、ANAアバターが他社ブースを訪問するといったことが可能になった事例だ。
もう一つ、特徴的な新たな取り組みが、学生へのアプローチだ。
学生専用の「CEATEC Student Lounge(学生交流ラウンジ)」
CEATEC 2019では、学生専用の「CEATEC Student Lounge(学生交流ラウンジ)」を設け、学生が会場を見学する拠点として開放し、学生向けに情報を提供し、見学をサポートしたり、ファナックの稲葉善治会長や村田製作所の村田恒夫社長が学生向けにスピーチしたりといった企画も用意した。
実は、日本の学生は、世界の中でも、AIやIoTといった新たなテクノロジーによって社会を変革することに対する意識が低いという調査データがある。そして、テクノロジーによって社会を変える役割を担うのは、理工系の学生にはとどまらないという認識も広がっている。CEATEC実施協議会では、「理工系の学生だけでなく、文系の学生にも来場してもらい、新たなテクノロジーに触れてもらえる機会にしたい。未来を担う学生がテクノロジーを活用して、新たな社会を作っていくという意識が高まるきっかけにしたい」としている。
今回の取り組みの背景には、18年のCEATEC JAPAN 2018で東京医科歯科大学の医学科1年生103人が教育活動の一環として、会場見学を行ったことが見逃せない。
同医学科では、医療分野に最新テクノロジーが次々と導入され、医療機器だけでなく、医療そのものが変化していることを捉え、医学部の学生が、最新テクノロジーに直接触れる機会が重要であると判断。その授業にCEATECを活用した。単に会場を見学するのでなく、学生自身が身近な課題を解決するために、CEATECに展示された技術や製品、サービスによってどう解決できるのかといったテーマを持ち、後日、それを発表するというカリキュラムを構成。今年も同様の授業を行った。
来場する学生の幅を広げ、それによって学生の来場者数を拡大することは、「Society 5.0の総合展」の展示会としての新たな役割になるといえそうだ。
CEATEC変化の方向性、海外企業や異業種企業の定着化が課題に
「家電見本市」から脱すべく新たな施策を実行し、その成果も見えつつあるCEATECだが、まだ大きな課題がいくつか存在している。
その一つは、海外からの出展や来場者数が少ないことだ。
海外からの出展者を拡大するという点では、世界各国のスタートアップ企業が集結する「Co-Creation PARK」を設置し、今年も、米国、スイス、ロシア、インドの企業が出展するパビリオンを設けた。また、海外からの来場者の集客についても、各国の業界団体や政府関係機関などとの連動によって積極的な活動を始めている。
「Co-Creation PARK」のロシアパビリオン
しかし、Co-Creation PARKが、米国で1月に開催されるCESのユーリカパーク、10月にドイツで開催されるIFAのIFA NEXTといった同様のコンセプトを持った展示に比べ規模の面で大きく劣る。海外からの来場者数がわずか2000人にとどまっており、過去をみても最大で4000人という規模でしかないという実態がある。これは長年に渡るCEATECの課題だ。
今年から、「CEATEC JAPAN」という名称から「JAPAN」を外し、日本の国内だけを対象にしたイベントではなく、グローバルに向けて発信するイベントとしての側面を強調したが、名実ともに「国際イベント」といわれるようになるにはまだ時間がかかるのは明らかだ。
二つめは、新たな企業の出展の定着だ。
18年のCEATEC JAPAN 2018で最も注目を集めたのがローソン。最新テクノロジーを活用した未来のコンビニエンスストアの姿を一目見ようと、長蛇の列ができた様子は記憶に新しい。だが、今年のCEATEC 2019には、ローソンは出展しなかった。同様に、三菱UFJフィナンシャル・グループやコマツも、今年は出展を見送った。
いずれの企業にも共通しているのは、出展の反響は大きく、その後、新たなビジネスの創出に向けた共創がいくつか始まっているものの、CEATECの場を通じて、継続的に未来の姿を見せたり、新たなソリューションを展示することが難しく、前年以上の成果を得ることは困難と判断したことがある。
電機メーカーが毎年のように新製品を展示するように、新たなテクノロジーを軸とした新たなサービスやソリューションを見せることが難しいのは確かだろう。
また、共創という動きを加速することが狙いであれば、数年に一度出展すればいいという判断も成り立つ。
新たな企業の参加が増えても、それを継続させにくいという環境があるのは事実だ。ここに、「CPS/IoT Exhibition」「Society 5.0の総合展」としての運営の難しさがあるといっていいだろう。
出展者の期待が高まる
今年のCEATEC 2019では、16年に「脱・家電見本市」を標榜し、「CPS/IoT Exhibition」「Society 5.0の総合展」へと転換してから、初めて来場者数が減少した。 会期4日間の登録来場者総数は14万4491人。前年の15万6063人から1万1572人も減少している。
だが、これはCEATECの停滞と捉えるよりも、今年ならではの特殊要因と見たほうがいいだろう。今年の場合、会期初日の火曜日が、連休明けの週初めの日となりCEATECに来場しにくかったこと、さらに台風19号による記録的な大雨でその対応に迫れた企業も多かった点も影響している。実際、開催初日の来場者数は2万9294人となり、前年から6300人も減少。会期全体の減少数の半分以上を占めている。
一方で、出展者数は、787社・団体(18年実績は725社・団体)、出展小間数は2122小間(同1786小間)。海外出展者数は、24カ国/地域から250社/団体(同19カ国/地域から206社/団体)となり、スタートアップ・大学研究機関出展者数は、170社/団体 (同162社・団体)となり、いずれも前年超え。出展者の期待度は高まっているといえる。
ここ数年、CEATECでは、「つながる社会、共創する未来」というテーマを変えていない。だからこそ、「Society 5.0(超スマート社会)」の実現を後押しする展示会としての役割も定着してきたといえるだろう。
今後は、18年に初めて開催した「Global Symposium」のようなイベントを会期中にとどまらず、別の時期にも開催することで、年1回の展示会の開催だけでなく、年間を通じてCEATECというイベントに注目が集まるような活動に発展させることも検討しているという。
過去4年間にわたって、来場者の3分の1が初めての来場者であり、出展者の半分が初出展という状況を繰り返してきたように、CEATECの変化が成長の原動力となってきたのは明らかだ。だが、その変化の仕方も、これまでとは違う変化に変えなくてはならないフェーズに入ってきたともいえる。例えばソニーが6年ぶりに復帰を決めたように、一度出展をやめた企業が、変化したCEATECに展示内容を変えながら再び展示するといった動きを、CEATECの次の成長にどうつなげるかが課題ともいえる。
「CEATEC 2020」は、20年10月20日~23日の4日間、幕張メッセで開催する予定だ。21年目以降のCEATECの変化はどうなるのか。その変化は、IT・エレクトロニクス業界の変化に直結することになるのは間違いない。
大盛況で閉幕、東京モーターショーの進化
変化が起きているのは、IT・エレクトロニクス業界だけではない。19年10月24日から11月4日にかけて、東京・有明の東京ビッグサイトで開催された自動車の見本市「東京モーターショー」。主催する日本自動車工業会によると、192の企業・団体が参加し、12日間で130万900人が来場。前回17年の開催時の出展社数153社・団体、来場者数77万1200人を大きく上回り、盛況のうちに幕を閉じた。
今回の特徴は、最新の自動車や次世代自動車の展示だけでなく、自動車以外の展示にも大きな注目が集まっていたことだ。日本自動車工業会の会長であるトヨタ自動車の豊田章男社長が、「クルマに限らず、みんながワクワクするような未来の生活を見せられるようにしたい」と語った狙いがうまくはまった形だ。特に、展示エリアの一つ「FUTURE EXPO」では、NTTやパナソニック、NEC、富士通、シャープなど、約60社の企業・団体による最新技術を活用した90を超えるコンテンツを用意。未来の移動の在り方やスポーツ、観光など、単にクルマにはとどまらない未来を体験することができた。
トヨタ自動車が展示した「トヨタコンビニ」とライドシェア「TOYOTA e-Trans」
日本の自動車産業は、少子化や若者のクルマ離れの影響を受け、今後販売台数が減少していくと予測されている。一方で、「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」と呼ばれる新たな技術革新の波が到来。メーカーの競争環境も変化するなど、自動車業界は今、100年に一度の大変革を迎えている。
東京モーターショーもそうした変化を捉える上で、デジタルが欠かせないキーワードとなっている。今回の東京モーターショーでは、その変化を目の当たりにすることができたといえよう。
自動車関連メディアからは、クルマという観点では目玉がなかったという声が聞かれるが、新たなテクノロジーによる未来を見せ、クルマに関心を呼び戻すという点では大きな成果を上げたといえそうだ。