今年春から本格的に商用サービスが始まるキャリアの第5世代移動通信システム(5G)に先んじて、昨年末から免許申請の受付を開始した「ローカル5G」。ユーザー企業は、5Gの持つ恩恵を一足早く受けることができ、ベンダーにとってはIoTにおける新たな選択肢を提供できるようになる。しかし、実際のところ一企業が自営で5G環境を整えなければならないケースはまだ見えていない。ローカル5Gのメリットとは何か、そして、ビジネスとしてのポテンシャルはどこにあるのか。ローカル5G事業への参入を目指す各社に聞いた。
(取材・文/銭 君毅)
なぜローカル5Gは注目を集めるのか?
2019年、総務省によってローカル5Gの技術的な条件が取りまとめられ、12月24日にローカル5G用にあらかじめ用意されていた帯域の一部で免許申請の受付が始まった。今回、総務省が用意しているローカル5G用の周波数帯は、4.6GHz~4.8GHzと28.2GHz~29.1GHzまでで、そのうち今回受付を開始したのが28.2GHz~28.3GHzまでの100MHz幅だ。初日にはNECと富士通、NTT東日本といった企業のほか、東京都などが書類を提出し、プレイヤーが出揃いつつある。
そもそもローカル5Gとは何かというと、一般の企業や自治体などが主体となり自営で利用できる5Gシステムのことを指す。NTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどが春から初夏にかけて商用化を目指すキャリア5Gに対し、ローカル5Gではキャリア5Gがカバーできていないエリアでも無線による高速大容量通信を活用でき、企業や地域ごとのニーズや個別のユースケースに合わせて柔軟なアーキテクチャーを構築できることが大きな特徴となる。
一方で、5Gのシステムを各企業や自治体で自営することにどれだけの価値があるのか、現状では見えづらい部分も多い。ローカル5GとともにプライベートLTEが制度化され、すでにWi-FiやLPWAといった無線通信技術が存在し、数年後にはキャリア5Gも整備される。しかも、人口カバー率を優先して展開されたキャリア4Gとは違って、キャリア5Gでは基盤展開率を優先して展開される。すでに各ユースケースに合った通信技術がある中で、ローカル5Gしか提供できない価値はどこにあるのか。
Wi-Fiに劣るのはコストのみ?
ローカル5Gでよく引き合いに出されるのがWi-Fiだ。自営で利用する無線システムという点は共通するが、まず大きく異なるのがコストだろう。現時点ではローカル5Gを展開するにあたって主に活用するのはキャリアが利用するものと同じ基地局だとみられる。この基地局は一基当たり数百万円近くになると見込まれており、コアネットワーク設備までそろえる場合の全体コストは数千万円まで跳ね上がる可能性がある。コストを考えたときには、高くても数万円ほどのWi-Fiのほうに軍配が上がる。
一方で、カバーエリアの広さについては5Gにアドバンテージがあり、ユースケースによっては、これがコストの課題を解決する場合もある。一般的に電波法で定められたWi-Fiの出力では、屋外利用で電波が届く距離は半径100~500メートルほどで障害物や屋内での利用になるとこの数値はさらに下がる。5Gの場合、一つの基地局でカバーできる範囲は半径数百メートルから1キロメートル前後となる。こちらも同じく障害物の影響を受けるが、カバレッジに最大で倍近くの差があり、展開したいエリア面積が広くなればなるほど、ローカル5Gのほうがコストパフォーマンスは上がっていく。
また、Wi-Fiはセキュリティの課題についてもよく指摘される。基本的にWi-FiではSSIDとパスワードがメインの認証となるが、ローカル5Gに接続するにはAPNとパスワードに加えSIMによる認証も必要となるためより強固となる。
キャリア5Gとの差
5Gにおいて各キャリアはビジネスモデルの変革が伴うことを重ねて強調してきた。これまでの4Gでは消費者を相手にしたサービスが中心だった一方で、あまりに高すぎる性能を持つ5GではBtoBtoXを意識した展開が必要になる。だからこそ各キャリアとも新たなパートナー戦略を打ち出し、B向けにも展開できるサービスモデルを模索してきた経緯がある。ということは、ローカル5G事業者のターゲット層と重なる可能性がある、といえるだろう。
キャリア5Gとローカル5G、性能面では共通だが両者を比較した際に最も顕著な違いは柔軟性だ。例えばこれまでの4Gではデータ量に応じて課金されていたが、ユーザーは定められたデータ量内でしか通信ができなかった。高速大容量を謳う5Gサービスにおいてデータ量による課金体系が設定されるかは未知数で、現時点で各キャリアは消費者向け法人向けに限らず5Gサービスでの課金方法や料金の目安を明らかにしていない。ただ、キャリアが提供する通信網を利用する以上、ユーザーはキャリアが提示するサービスメニューにしばられ、、ランニングコスト頭を悩ませることになる可能性は高い。
ローカル5Gのメリットをまとめると、5Gならではの高速大容量通信に、ある程度のエリアカバレッジと柔軟性、高セキュリティ、無制限の通信量が主な点となる。想定されるユースケースとしては、工業地帯などでの映像を使った保守点検や、大規模商業施設などでのフィジカルセキュリティと消費者向け通信エリアの展開、地方の防災対策などが挙げられるだろう。初期コストで大きな負担がかかることから現時点で導入先は限られるが、基本的には広大な敷地で大きなデータを扱いたい場合に絞られてくるだろう。
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