GIGAスクール構想がいよいよスタートする。「子供たち1人1人に個別最適化され、 創造性を育む教育ICT環境の整備」を目的に、2023年度までに小学校・中学校の全学年の児童生徒1人1人が端末を持つ環境を実現するとともに、校内における高速大容量のネットワーク環境を構築すべく国が進める施策だ。3月上旬には、補助金交付申請書の提出がはじまり、3月中旬には交付が決定する。950万台規模の需要が見込まれ、新たなPC市場の創出に、IT業界は沸いている。
(取材・文/大河原克行)
4000億円規模の予算とともに始動
PC市場に950万台の新需要を呼び込む
20年1月30日に成立した今年度補正予算案に関連予算が盛り込まれ、実行に向けた道筋が整ったGIGAスクール構想。19年11月13日、安倍晋三首相が児童生徒に対してPC1人1台の環境を整備することを「国家の意思として明確に示すことが重要」と発言したことで、その動向が注目されてきた。ちなみに、GIGAスクール構想のGIGAは、Global and Innovation Gateway for Allの頭文字から取っている。
19年12月5日に政府が閣議決定した「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」では23年度までに、小学校および中学校の全学年の児童生徒1人1人が、それぞれ端末を持ち、十分に活用できる環境の実現を目指すことを盛り込んだほか、学校における高速大容量のネットワーク環境(校内LAN)の整備を推進することも含めた。続いて同年12月13日に閣議決定した今年度補正予算案では、この整備に向けた予算を計上。これにより、18年度から5カ年計画で取り組んでいる「教育のICT化に向けた環境整備5カ年計画」(3クラスあたり1クラス分程度の学習用コンピューターを整備することなどを盛り込んだ)での単年度1805億円の地方財政措置に、今年度補正予算による2318億円(公立2173億円、私立119億円、国立26億円/端末関連1022億円、ネットワーク関連1296億円)の整備予算が加わり、いよいよ1人1台と高速ネットワーク環境の整備が進められることになる。
文部科学省が発表した「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」によると、19年3月1日時点での児童生徒数は1167万3644人。教育用コンピューターの設置台数は216万9850台となり、5.4人に1台という水準にとどまる。ここから逆算すると、1人1台の環境にするためには、単純計算で950万台規模の新規需要が見込まれる。国内PC市場の18年度の年間出荷実績は、1183万台(MM総研調べ)。その7割強にあたる新たな市場が創出されることになり、IT業界関係者は大きな期待を寄せている。
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GIGAスクール構想 いよいよ「1人1台」の情報端末整備
まずは、GIGAスクール構想のポイントを捉えておこう。目玉となるのは、児童生徒1人1台環境の整備である。1台あたり4万5000円を補助(私立に関しては、2分の1補助で上限が4万5000円)し、20年度が小学校5年生、6年生、中学校1年生の3学年で実施。21年度が中学校2年生と3年生、22年度が小学校3年生と4年生、23年度が小学校1年生、2年生を対象に、段階的に整備を進めることになる。
4万5000円の対象の範囲は、複数年までの無償の保証契約を含めた端末のほか、機器の運搬搬入費、設置、据え付け費用。また、すでに1人1台環境が整備されている場合は、23年度までの端末の更新も対象にできる。一方で、有償の保守や保証契約、有償のソフトウェアは補助の対象外となる。また、端末費が補助額を超える場合、その差額は自治体負担となる。
導入するPCおよびタブレットのスペックは、GIGAスクール構想向けの標準仕様が設定されている。詳細は別表を参照してほしい。
文部科学省では、「米国の300ドルパソコンを念頭に、大量調達実現を含めて、5万円程度の価格帯を想定。十分な通信ネットワークとクラウド活用の下でのブラウザーベースでの活用を大前提としている。デジタル教科書や教材などの操作性向上に資するタッチパネル、ハードウェアキーボード、QRコード読み込みを想定したインカメラ/アウトカメラを共通仕様にする」ことを示していた。この考え方が標準仕様を策定する際のベースとなっている。
なお、調達については、都道府県単位を基本とした共同調達により、効率的に調達すること、そして、「誰一人取り残すことがない、個別最適化された学びの実現」「子供一人ひとりに個別最適化され、創造性を育める教育ICT環境」の実現を目指し、1人に1IDの環境整備やデータを安心して利用できる環境の整備も盛り込まれている。
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GIGAスクール構想 ネットワークを中心にIT活用環境の網羅的整備も
もう一つの柱は、高速大容量の通信ネットワークの整備だ。20年度中に全ての小学校、中学校、高校、特別支援学校で1Gbpsの通信ネットワークを完備する計画で、政府予算による補助割合は2分の1となっている。
校内LAN整備については、標準仕様として、工事が必要となるケーブルはカテゴリー6A以上(通信速度10Gbps)とすることや、ハブやルーター、スイッチ類は将来の市場展開に応じた容易な更新を可能とすることを念頭に1Gbpsの普及モデルとすることなどを示した。無線アクセスポイントは全教室で全児童生徒が一斉に使うことを想定して設置し、クラウド活用はもとより、大容量の動画視聴やオンラインテストをストレスなく行えるように端末からクラウドまで一体で円滑な通信を確保することを目指す。
さらに、通信ネットワークの整備においては、GIGAスクール構想で盛り込まれた校内LANの整備とともに、クラウド利用環境の同時整備が進められ、児童生徒1人ずつの学習記録などビッグデータの収集分析、デジタル教科書や教材などの学習コンテンツを児童生徒ごとに最適な形で提供する仕組みの構築を目指すことになる。将来的には、新しい学習指導要領に基づく主体的で対話的な深い学びの実現や、遠隔教育および教師の遠隔研修の推進も図る方針だ。
なお、この今年度補正予算では、校内通信ネットワークの整備事業の中にPCやタブレットを充電するための電源キャビネットの整備も含まれている。アダプター配線を個別に管理しやすくするように、コンセントは1カ所集中のタップ方式ではなく、庫内に内蔵された個別コンセントとすることや、同時にできるだけ多くのPCを出し入れしやすくするために、PC収納時の向きは縦置きタイプ(PCの平面を立てた状態での収納)とすることなどを盛り込んでいる。
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