企業や自治体でRPAの導入が増えている。急速に普及していることから、手軽に導入できすぐに業務自動化の恩恵を得られる画期的なツールとも見られがちだが、単に目先の業務を自動化するのではなく根本から業務プロセスを見直すべき、でなければRPAが将来のデジタル変革の足かせになりかねない、という意見も聞かれる。RPA導入を成功させるポイントとは。IT企業のRPA提案現場の実情からひも解く。
(取材・分/谷川耕一)
国内では数年前から、大手企業を中心にRPAを導入して生産性向上を目指す取り組みが始まった。最近は地方自治体でも事務作業の効率化にRPAを活用する事例が増えている。ガートナーが2020年2月に発表した「企業におけるRPAの推進状況に関する調査」の結果を見ると、技術の成熟度、採用度、社会への適用度を示すハイプ・サイクルで、RPAはすでに「過度な期待」のピーク期を抜け「幻滅期」の底に向かっている。
同調査によると、19年8月時点でRPAを導入している日本企業の割合は47.5%に達し、年々増加傾向にある。今や多くの企業が何らかの形でRPAを導入しているが、一方でRPAを導入している企業ではさまざまな課題にも直面しているとガートナーでは指摘する。
実際に、RPAに関するネガティブな意見を耳にする機会は多い。確かにRPAを使うと、Excelなどを使った人手の作業を自動化できるが、それで個人の仕事の効率化はできても組織全体の業務効率化になかなか結び付けられない現状もある。また、PoCでは効果が出ても、継続して効果を出し続けることができず、RPAの利用コストだけが積み上がってしまうという声も聞こえる。さらには、システム連携をRPAで実現してしまったことで、本来は今後のデジタル変革のために刷新すべきだったレガシーシステムが塩漬けにつながってしまう懸念もある。
RPAは目の前にある人手不足などの課題をすぐに解決できるため、順調に導入が進んでいるように見える。しかし、RPAで便宜的に自動化するのではなく、本来は根本から業務プロセスを見直し最適化に取り組むべきだとの意見は多い。素早く効果が出やすいことから導入したRPAを、継続的に効果を出し続けるツールにできるのか。そのためには、どのようにRPAの活用に取り組めば良いのか。
今回の特集では、実際に顧客と対峙しRPAを提案する立場のIT企業3社への取材をもとに、RPAを導入しても活用できない原因や、RPAを使って継続的にメリットを出すための提案方法を探る。
大塚商会 RPAの提案現場(1)
Problem RPA導入でよくある課題
全社展開時に企業のIT運用ルールに合わせるのが大変
「課題が明確化しないままスタートすると、結果がついてこないことが多い」。大塚商会のマーケティング本部クラウドプロモーション部課長代理の佐川誠氏は、RPA導入の課題についてこのように説明する。
大塚商会 佐川 誠氏
同社では2年ほど前から本格的にRPAのビジネスを開始。これまでの取り組みの中で、RPAを導入しても上手くいかない顧客の傾向として、改善したいことが具体化できていない場合が多いことが分かったという。そのため、とにかくRPAを入れてみるのではなく、個々の企業の状況にきちんと落とし込み、どの課題に適用すべきかを明確にしてから、RPAの導入に取り組む必要があると指摘する。
RPAの導入自体は、それほど手間のかかることではなく、非ITの業務現場でも、自動化シナリオを作ってロボットを構築し動かすことは可能だ。これまで企業が導入してきたさまざまなソフトウェアの中でも比較的簡単に導入できてすぐに動かせるため、試験的な利用などでは大きな問題は出にくい。
しかし、日常業務の中で継続的に活用しようとすると、なかなか上手くいかないことがある。例えばIT部門が介在せず業務現場が中心となって導入して利用する場合、担当者は本業の業務がある中で新たな自動化シナリオの作成やロボットの構築を並行して行わなければならない。本業の稼働率が高ければ、RPAに手が回らず成果を出すに至らないのだ。
また、業務現場主導でRPAの導入を進め、いざ全社展開となった際に、全社のIT運用ルールに合わせるのが大変で、それがハードルとなることもある。IT運用ルールに合わせるとなれば、IT部門が入り込みサポートする必要があるが、その体制にすぐ移行できずルールに合わせられないと、全社展開は進まない。逆にルール対応が迅速に進むと、RPAの管理機能など、必要な機能も明確になりやすい。
加えてRPAは、ミドルウェア的にシステマティックにアプリケーション間を連携するのが得意ではない。RPAでもミドルウェア的なシステム間連携を実現できるが、そうした連携は最終的にはプログラミングなどで連携の仕組みを構築したほうが効率化しやすい。そのため、仮にRPAで連携させても、結局は開発案件に発展することも多い。RPAで自動化するか開発して連携させるかの見極めも、提案する立場としては重要なスキルだ。
Solution RPA導入を成功させる提案は
RPAのライセンスとサポートをセット提供し、顧客を継続的にフォロー
RPAは、シナリオを一度作れば終わりというわけではない。シナリオ作成後に業務プロセスやPC環境、アプリケーションが変化することもあり、結果としてロボットが途中で止まるといったトラブルも発生する。RPA利用で発生する日々のトラブルのサポートがほしいとの要望が、最近は増えていると佐川氏は言う。しかし導入支援は行っても、導入後のフォローを手厚く行う企業はまだまだ少ない。そこに不満があり、解消できないとRPAに対するネガティブなイメージが定着してしまう。
こうした要望に応えるべく、大塚商会ではRPAツールの「WinActor」のライセンスと電話サポート、年間3回までのオンサイトサポート・チケットをパッケージ化し、月額費用で利用できる「たよれーる WinActor」を提供している。日常利用で発生するエラーには電話サポートで迅速に対応し、シナリオ追加や将来的な利用拡大などはオンサイトサポートのチケットを使ってもらうイメージだ。
また、新規に導入する顧客に対しては、RPAツール導入ありきで始めると方向性を見誤る。目的を業務改善に切り替え、改善方法の一つとしてRPAを位置付ける。「大塚商会には(基幹業務ソフトの)『SMILE』シリーズやグループウェアなど、業務改善に活用できるさまざまなソリューションがある。それらとRPAを組み合わせた提案がわれわれの強みだ」と佐川氏は話す。
例えば、特定のフォルダーを監視して、そこにファイルが置かれたらデータを取り出し、アプリケーションやSaaSにRPAで自動入力する。またExcelでの作業をRPA化せずにサイボウズの業務アプリ開発基盤「kintone」で作り直し、その上でkintoneとRPAを組み合わせて自動化するような提案も行う。RPAの特性を見極め、適材適所でさまざまなものと組み合わせた提案ができるのが、幅広いソリューションを扱う大塚商会の強みとなっているという。
顧客の業務改革から入り、課題を明確化してあるべき姿を示し、RPAを導入するとどう効果が出るかを事前にアセスメントするアプローチを、大塚商会はRPA導入支援事業を展開するキューアンドエーワークスと協業して提供している。この協業では、PCの操作ログを蓄積してそのデータから自動化すべきプロセスを見つけ出し、事前に効果検証も行っている。
大塚商会 高柳英和氏
「RPAそのものが、高い生産性を生み出すわけではない。リアルな業務があり、その効率を上げられる方法の一つがRPAだ」とマーケティング本部クラウドプロモーション部課長の高柳英和氏。業務を効率化する方法は多数あり、その中でもRPAを活用できるシーンは多い。ただし、RPAを前面に押し出すよりも、むしろ裏方として活用する方法を考えたほうが上手くいきやすいとも、高柳氏は話す。
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