野村総合研究所
下期のIT投資の回復に期待する
野村総合研究所(NRI)の4カ年中期経営計画の初年度に当たる20年3月期の売上高は、前年度比5.5%増の5288億円、営業利益は16.4%増の831億円で、過去最高の業績を更新した。此本臣吾会長兼社長は「たいへんよい業績だった」と振り返る。今年度は国内を中心に新型コロナウイルスの感染拡大が夏ごろまでに収束して、年末に向けて企業活動が正常化に向かうと仮定した場合、売上高は前年度比2.1%増、営業利益は前年度並みで着地できると予想する。
此本会長兼社長は、「コロナ・ショックによって、完全テレワークを前提とした業務の全面デジタル化やネットワーク基盤の強化といった、新しいビジネス機会を生み出す可能性がある」と指摘。テレワークが困難な流通・小売業においても、無人レジなど非対面型サービスの需要が拡大。製造業ではサプライチェーンの分散化、あるいは国内回帰といった、コロナ・ショックに端を発するパラダイムシフトが見込めるとしている。変化を先取りした提案活動を強化することで、コロナ・ショックによるマイナス影響の最小化を狙う。
「社会が大きく変化するときは、IT投資の大きな波が来る」(此本会長兼社長)と見ており、需要の波をしっかり受け止められるよう、同社が強みとするコンサルティングサービスの体制を強化。デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の戦略子会社という位置づけのNRIデジタルでは、人員を前年度比3倍に相当する200人体制に増強させている。システム開発の面でも生産性を高めたり、稼働可能な人員を確保し続けるなど施策を打つ。外部の開発パートナー人員数の約4割を占める、総勢約5000人体制の中国オフショアパートナーについても、中国のコロナ禍からの回復が予想以上に早く「心配には及ばなかった」と胸をなで下ろす。
08年のリーマン・ショックのあとは、売り上げを確保するため「かなり無理をして採算性の悪い案件をとってしまった」と振り返る。その反省を踏まえ、SEの稼働率が多少下がったしても、その浮いたリソースを生産基盤の整備や部品化、フレームワークづくりなど次の成長に向けた仕込みに充てていく考え。今年度の売上高見通しの5400億円を達成できれば、中期経営計画で掲げる23年3月期の売上高6700億円も視野に入る。あとは利益率を落とさないよう慎重に舵取りをしていく。
SCSK
新中計は1兆円SIerへの第一歩
SCSKの5カ年にわたる中期経営計画が2020年3月期をもって終了した。結果は売上高が5年で30%伸びて3870億円。この間の年平均成長率(CAGR)は5.4%だった。営業利益は計画で掲げていた目標の500億円に届かず423億円。営業利益率は10.9%と目標の10~12%の範囲内に着地した。前中期経営計画で戦略事業と位置づけたAUTOSAR準拠の車載OS「QINeS(クインズ)」は製品化にこぎつけたが、収益化には至らず昨年度は17億円の赤字で終わった。谷原徹社長は「数字には現れていないが、商談はずっと継続している」と、QINeSをはじめとする車載ソフト関連の引き合いは多いと話す。
同社では2030年に年商1兆円のSIerに成長する目標を掲げ、今年度から新しい3カ年の中期経営計画をスタート。まずは3年後に年商5000億円超、営業利益率10~12%を目指す。具体的な施策として、ローコード開発基盤や運用管理などを一体化したプラットフォーム「S-Cred+(エスクレドプラス)」を今年度から活用を始め、開発スピードの加速や、標準化による品質の向上をねらう。
また、客先に常駐して開発する“分室ビジネス”を改革し、ユーザー企業のビジネス・IT戦略を支える価値共創型に転換する。具体的には、顧客ビジネスを熟知した高度人材を常駐させつつも、開発はSCSKの拠点や国内ニアショア、海外オフショアなどで行う割合を高める。今の国内ニアショア人員は600人余りの体制から早期に1000人体制へ拡充。沖縄では開発とアウトソーシング、検証サービスなどを合わせて今の1500人から2000人体制へと増やす。
海外ビジネスについては、昨年度に開設したミャンマーとインドネシアの拠点をフルに活用し、親会社の住友商事グループとも連携しつつ、ASEANの地場有力企業と新規事業の創出に挑戦する。新中計では生産性向上などの「事業革新」に400億円、国内外での新規事業の創出に向けた「DX事業化」領域に500億円、「人材育成」に100億円を先行投資することで、中期経営計画の目標に迫っていく。
TIS
中計目標を1年前倒しで達成
TISは2021年3月期までの3カ年中期経営計画で掲げた年商4300億円、営業利益率10%の目標を1年前倒しで達成した。昨年度(2020年3月期)の売上高は前年度比5.5%増の4437億円、営業利益率10.1%だった。今年度(21年3月期)は夏ごろまでに新型コロナウイルスの感染拡大が収束し、下期から事業環境が正常化することを想定し、売上高は前年度比0.8%減の4400億円、営業利益は同1.9%減の440億円を見込む。若干の減収減益の見通しとなるが、営業利益率は10%を堅持し、今年度も中期経営計画で掲げた主な指標をクリアしていく方針だ。
近年のキャッシュレス決済の盛り上がりに後押しされるかたちで、同社が独自に開発してきたキャッシュレス決済の基盤サービス「PAYCIERGE(ペイシェルジュ)」関連事業の昨年度の売上高は前年度比50%増の225億円に増加。今年度は285億円に伸びる見通しを立てる。他にもERPやクラウド関連を含めた重点事業の今年度売上高は計画値を100億円余り上回る1315億円を見込むが、先行投資がかさんでいることから営業利益率は6.5%と同社全体の営業利益率の目標を下回る見込み。
PAYCIERGEのような独自のサービス提供型の商材を拡充することが中長期的に見て安定収益につながるとし、新サービス創出のためのソフトウェア投資を今中計の計画値170億円を上回る250億円を今年度までの3年間で投じる予定。こうした取り組みによって「景気の変動に強い収益構造を構築していく」(桑野徹会長兼社長)考え。
IT投資の方向性に変化あり
通期見通しを示せないSIerも
主要50社のSIer決算を俯瞰すると、昨年度は良好な受注環境に支えられるかたちで増収増益の決算が目立つ。しかし、今年度はコロナ・ショックの影響で業績見通しを出せないSIerも少なくない。最大手のNTTデータは、コロナ禍の被害が甚大な欧米市場を中心に海外売上高が全体の4割ほどを占めることもあり、今期業績見通しは合理的な算定が困難だとして開示していない。野村総合研究所(NRI)も通期業績の予想は出しているものの、上期についてはコロナ・ショックの影響が大きく見通しが難しいとして非開示。TISも通期予想のみの開示となった。
観光・旅客輸送、アパレル、飲食、製造などの業種や、中堅・中小企業ではIT投資を凍結する動きが目立つ。こうした業種や企業規模のユーザーを多く抱えるSIerは今期業績を厳しく見ている。
都築電気の今期売上高は前年度比10.7%減、営業利益は同39.4%減と予想。厳しい事業環境に直面するユーザー企業のなかには、「今期計画していたプロジェクトを先送りするケースもある」(江森勲社長)と話す。中堅・中小企業や医療機関などコロナ・ショックの影響が大きいユーザーを多く抱えるJBCCホールディングスの今期売上高は前年度比16.2%減、営業利益は半減する見通しを示す。
とはいえ、本記事で紹介したように、コロナ禍の影響が夏ごろまでに収束し、早期に正常化に向かうとみるSIerも決して少なくない。中堅・中小企業でも経営判断の早いユーザーを中心に、IT投資が下期中に回復してくる可能性はある。また、新型コロナの対応でITプロジェクトどころではなかった医療機関でも、今回のコロナ禍の教訓を踏まえて、オンライン診療などの新しいシステム需要が生まれることが期待されている。