Special Feature
PC市場に“テレワーク特需”第1四半期は好発進! 成長は続くのか
2020/07/16 09:00
週刊BCN 2020年07月13日vol.1833掲載
ニューノーマルは「テレワーク」機能が必須に
PCメーカーの新たな提案
オンライン会議利用に最適化――FCCL
テレワーク普及に伴うPC需要の拡大を受け、PCメーカー各社も提案活動を強化している。
富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は、6月から「オンライン生活最適PC」というメッセージを打ち出している。齋藤邦彰社長は、「現時点でオンライン生活最適PCといえるのは、FCCLのPCだけだと自負している」と力を込める。
齋藤社長がそう語る背景にあるのは、もともと同社のPCにはテレワークに最適な機能が搭載されていたことだ。例えば、一般的なノートPCに搭載されているマイクは2個であるの対して、FCCLのノートPCにはディスプレイ上部左右に計4個のマイクを搭載している。これにより、音声認識率が高く、オンライン会議時に声を拾いやすくなっている。「中心から45度の範囲では、2個のマイクでは89.0%の音声認識率に対して、4個のマイクでは92.4%。また、90度の広範囲になると、2個のマイクでは79.9%の音声認識率だが、4個のマイクでは87.5%の音声認識率となる。オンライン会議の際に、資料を見るために少し姿勢を崩しても声が途切れず、円滑なコミュニケーションができる」(FCCLの竹田弘康副社長兼COO)という。
さらに、スピーカーはオンキヨーとの協業によって同社PC向けの専用スピーカーボックスを開発。音響補正アプリケーション「Dirac Audio」との組み合わせにより、会議や“オンライン飲み会”でも相手の声を聞きとりやすくしているという。また、内蔵カメラはフルHDカメラを搭載している。
「こうしたハードウェア要件は半年以上前に決定していたものであり、テレワークの利用が増加したからといってすぐに搭載できるものではない。FCCLは新型コロナウイルス感染拡大の前からこうしたスペックにこだわってきた。それが他社との差につながっている」と齋藤社長は胸を張る。
FCCLが、こうしたテレワークに最適なスペックを実現していたのには理由がある。同社のコンシューマーPCに標準搭載されている音声対応AIアシスタント「ふくまろ」をストレスなく利用できるようにするために採用したスペックが、結果としてテレワークに最適化したものになっていたのだ。「ふくまろは、PCが人に寄り添うための機能として搭載したものであり、それを追求した結果、テレワーク環境においても、人に寄り添うPCを実現することができた」と斎藤社長は語る。
テレワークの自社実践を
機能に反映――NECPC
NECパーソナルコンピュータ(NECPC)は6月中旬、13.3型ノートPC「LAVIE Pro Mobile」の新製品を発表した。これまで「モバイルPC」というコンセプトで投入してきた同製品を、新製品では「テレワーク/在宅ワーク特化PC」と位置付けて訴求している。
河島良輔執行役員
同社の河島良輔執行役員は、「NECPCは15年12月から4年以上にわたって、自らテレワークを実践してきた経緯がある。その経験を生かして開発したのが、新たなLAVIE Pro Mobileだ」と語る。
「テレワーク/在宅ワーク特化PC」として強化した機能の一つがキーボードだ。キーピッチは従来の18.5mmから19mmに、キーストロークは1.2mmから1.5mmに拡大し、15型ノートPC並みの打ち心地を実現。キーボードの品質に高い定評があるレノボ「ThinkPad」のノウハウを活用して、キートップの中心部がくぼんでいるシリンドリカル形状を採用したり、リフトアップヒンジ構造によりタイピングをしやすくしたりといった工夫を施している。テレワークによって一日中キーボードを叩いているという人にも考慮したものだという。
さらに、従来モデルから搭載している「ミーティング機能」も進化させている。ヤマハとの協業で開発したスピーカーを採用するとともに、スピーカーの指向性を自動的に調整する機能を搭載。複数人で同じ場所で会議に参加するときは広い範囲で聞こえるようにし、1人だけで会議に参加するときには、PC正面だけに音が聞こえやすくするようにしている。さらに、周囲の雑音を抑えて相手に音声を聞こえやすくする「ノイズサプレッサー」や、部屋の大きさに合わせて残響を抑え、話し声を聞き取りやすくする「ルームエコー抑制」などにより、これまで以上にクリアな音声でオンライン会議を行えるようにした。また、マイクを液晶部の真上に配置し、PCの反対側にいる人の声もしっかり拾ったり、キーボードの音を拾いにくくしたりといった配慮も行っている。
「テレワークといっても、いまは在宅勤務に寄りすぎている。今後さまざまな場面で利用することを想定して、テレワークに最適なPCとしての提案をしていきたい」としている。
今後発売されるPCは
テレワーク対応が前提に
テレワーク向けの周辺機器やサービスをPCとセットで提供する提案も活発化している。
デルでは、PCとモニター、ヘッドセット、マウス、管理ソフト、セキュリティ対策ソフト、サポートをセットにした「テレワーク応援モデル」を用意。日本HPでは、同社サイトを通じて、在宅勤務に最適化したモニターやドック、マウスなどの組み合わせ提案を行っているほか、独自のセキュリティ対策ソリューションである「HP Sure Click Pro」を在宅勤務向けに期間限定で無償提供している。
パナソニックでは、「レッツノート」向けに働き方改革支援サービス「しごとコンパス」を提供。PCの使用時間と使用しているアプリケーション、予定表を確認して、時間の使い方を改善することが可能なサービスで、より効率的なテレワークの実現につなげる提案を行っている。VAIOでも、モバイルPCの生産台数を従来の最大2倍に拡張するとともに、テレワークに最適なLTE通信モジュール搭載モデルを最短3営業日で提供する仕組みを用意し、テレワークの導入ニーズに対応する考えだ。
このようにPCメーカー各社も、テレワークを視野に入れた訴求や取り組みを強化している。NECPCの河島執行役員は、「今後発売されるPCは、しっかりとしたテレワーク対応機能を搭載することが前提となる。そうでなければ今後のニーズには応えられない」と、新たな時代のモノづくりのポイントを示している。
20年度市場の今後は不透明
テレワーク需要は続く可能性も
テレワークは長期的なトレンドに
好調なスタートを切った20年度のPC市場だが、今後はどうなるのか――。業界関係者に共通しているのが、先が読めないという点だ。ただ、そうしたなかでも明るい材料もある。その一つが、テレワークの需要はしばらく続くと見込まれることだ。
日本マイクロソフトでコンシューマー&デバイス事業本部長を務める檜山太郎執行役員常務は、「業界内でも見方が分かれており、慎重に市場を見る必要がある」と前置きした上で、「首都圏でのテレワークの実施率は50%以上になっているが、全国平均でみると25%にとどまる。言い換えれば、まだ伸びしろがあり、テレワーク需要はしばらく継続すると考えている」と話す。
NECPCの河島執行役員も、「最新の調査では、テレワークに対する満足度は85%に達している。片道1時間かかる満員電車での通勤や通学がなくなり、その時間が有効に使え、身体の負担が少ないといった、テレワークのメリットを多くの人が感じている。また、これからは働く会社を選ぶ際に、テレワークを導入していることが基準になる可能性がある。テレワークの需要は、かなり長期的に続くトレンドだと感じている」と話す。
同社では、中小企業でのテレワーク導入が促進されること、共働き世帯では在宅勤務用にそれぞれがPCを所有すること、子供が学習用に自分のPCを持つといったことも想定しており、これらによって、今後数年に渡って、新たに1000万台規模のPC需要が創出されると見込んでいる。
「GIGAスクール」が追い風に
サプライチェーンには懸念も
20年度のPC市場動向におけるもう一つのポイントが、文部科学省が打ち出した「GIGAスクール構想」による新たなPC需要だ。1台あたり4万5000円の補助により、23年度までに小中学校の児童生徒1人1台環境の整備を目指すGIGAスクール構想は、PC業界にとっては大きな特需となる。
インテルの井田晶也・執行役員パートナー事業本部本部長兼クライアントコンピューティング事業統括は、「政府は20年度補正予算によって、今年度における教育現場への導入を加速する姿勢をみせている。これが追い風になる」と説明。「GIGAスクール構想による小中学校の整備に加えて、高校生、大学生、教員を含めると、今後、1700万台の市場規模が想定される。今年度は、そのうち数百万台の規模が想定される」としている。FCCLの齋藤社長も、「GIGAスクール構想による導入は、逆算すれば第2四半期(7~9月)から顕在化してくるだろう」と予測している。
文部科学省が4月に行った調査では、臨時休校時における公立学校での双方向オンライン授業の実施率は5%にとどまっている。日本は世界に比べて遅れているという指摘もあり、1人1台環境の整備が喫緊の課題と認識されたことは、PC業界にとっては追い風になったといえるだろう。
一方で、懸念材料となるのがサプライチェーンだ。インテル製CPUの供給不足は依然として続いている。最新の第10世代のCPUの供給状態は比較的安定しつつあるのに対して、現時点で売れ筋となっている旧世代のCPU不足が懸念されている。また、旺盛な需要があるノートPC向け部品が足りなくなる一方、デスクトップPCの部品はだぶつき始めているという。インテルでは、GIGAスクール向けのCPUの確保には力を注いでいるようだが、CPUの供給不足は、新たな需要が生まれるなかでは懸念材料の一つとなっているのは確かだ。
また、CPU以外の部品の品薄傾向も解消しきれていない。新型コロナウイルスの広がりを受けて、中国やアジア地域の生産拠点の操業が停止された影響が残っている。多くはすでに操業を再開しているが、まだフル稼働とはなっていないのが実態という。新型コロナウイルスの終息に向けた動きとともに、生産体制がどう回復するのかも注視しておく必要がある。
需要がどこまで持続するかが
20年度市場のカギに
MM総研では、20年度の国内PC出荷見通しを、前年比11.7%減の1351万台と発表している。当初は前年比27.5%減の1110万台程度と予想していたが、これを5月21日に発表した最新予測で上方修正している。
同社では、「新型コロナウイルスによって、リモートワークが促進され、PC需要を刺激するという面を考慮した結果、予測を約240万台上方修正した」とコメント。その理由として、在宅勤務や遠隔授業の拡大、あわせて店頭量販店などでの購入が多い個人事業主、小企業の電子申請需要に伴うPC需要により、個人向けPCが約50万台増加すること、法人市場における経済活動停滞の影響で約50万台の需要が減少すること、全国の公立小中学校向けに端末を配布するGIGAスクール構想の推進で、20年度分の特需として約240万台増加するという3点を挙げている。
予想を上回る形で好調なスタートを切った20年度の国内PC市場だが、その勢いがいつまで続くかは未知数。新型コロナウイルスの終息に向けた動きがどうなるのか、それにあわせて、旺盛なテレワーク需要はいつまで継続するのか、GIGAスクール構想を軸とした教育分野へのPC導入の進展はどうなるのか。そして、部品調達やPCの生産、物流によるサプライチェーンの影響も気になる要素だ。刻一刻と状況が変化するなかで、20年度のPC市場の行方は予断を許さない。

国内PC市場がいま、思わぬ需要で沸き立っている。2020年1月の「Windows 7」サポート終了に伴う特需の反動を受けて、今年度のPC市場は縮小に向かうと見られていたが、新型コロナウイルスの感染防止策としてテレワークの導入が広がり、PC需要が急増。しかし、これまでに経験がない新たな需要の創出に、業界関係者の間でもこの勢いがいつまで続くのかは見通せない状況だ。そうしたなかで、ニューノーマル時代に向けた新たなPCづくりの模索も始まっている。
(取材・文/大河原克行 編集/前田幸慧)
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