2020年、新型コロナウイルス感染症の大流行によって我々の働く環境が一変した。ややもすれば“出社することが仕事”と揶揄されることもあったこの国で、「オフィスに出社しない」働き方が推奨されたのである。テレワークが常態化する中で、これからオフィスはどう変わっていくのか。ニューノーマル時代のオフィスの在り方を探った。
(取材・文/石田仁志 編集/日高 彰)
感染症対策を理由として
リモートワークが定着
新型コロナウイルスが出現する前から、国内では働き方改革の取り組みが進行していた。数字上の残業削減にとどまるものも目立ったが、ワークスタイル変革の面でも在宅でのリモートワークが徐々に活用されるようになり、新しいオフィスの形としては、共有オフィスや地方のサテライトオフィスが増えた。そこにデジタル環境の進化とデジタルトランスフォーメーションの動きが加わり、モバイル端末を活用した、場所に縛られない柔軟な働き方も普及しつつあった。
そのように物事が少しずつ動いていく中で、突如として世界的なパンデミックが発生。国内でも4月に緊急事態宣言が発令され、感染症対策という理由の下、短期間で働き方の前提が変わり、在宅勤務をはじめとするリモートワークが急速に広まって多くのオフィスから人が消えた。気が付けば、これまでの働き方改革を上塗りする形で、Web会議やコラボレーションツールを活用したニューノーマルな働き方が定着している。
結果だけを見ると、以前から目指していたデジタルを活用した次世代型の働き方を実現した形である。しかし、その過程が強制的であり、準備や制度設計、ICTインフラが十分でなかったため、リモートワークという働き方自体は受け入れられたものの、モチベーションや労働生産性の低下がみられた。
コロナ禍での実践を経て、一部には「やはりテレワークは使えない」「仕事は出社してするもの」など、働き方改革と逆行する意見がある一方、リモートで働ければオフィスはいらないのではないかと考える経営者も存在している。いずれにせよ企業は、一旦立ち止まってこれからの働き方と、それを支えるオフィスの在り方について考える必要がある。
緊急事態宣言下のテレワーク
勤務成果の自己評価は77点
緊急事態宣言下にテレワークを採用した企業の中で、宣言解除後も多くの企業は今後の感染増加を見越してテレワークを継続し、オフィスワークと併用するハイブリッド型の働き方を採用している。そしてこれまでの経験から、テレワークやリモートワークの有効性だけでなく、課題や問題点も明らかになっている。
日本オフィス家具協会(JOIFA)が全国のオフィスワーカーを対象として今年7月に実施した「新型コロナウィルスの影響による在宅勤務の実態とこれからのオフィスについての調査」によると、在宅勤務時の仕事の成果について、コロナ禍以前のオフィスでの勤務成果を100点として感覚値を質問したところ、約7割が「成果が下がった」と回答し、平均点は77.0点となった。突発的にテレワークを開始したということもあり、従来通りの働きぶりにはならなかったという実態がうかがえる。
アフターコロナでもテレワークを続けたいという回答は60.8%であり、テレワーク経験者に限ると、実に83.4%が継続を希望している。その一方で、経営層の54%はテレワークをしたくないと回答し、否定的な考えの方が上回った。
また、アフターコロナのオフィスの在り方に関する質問では、「これまで通り必要」が62.6%、「これまでと違った形で必要」が30.0%で、「必要ではない」という回答は7.3%にとどまった。実際にオフィスをどう見直すかという経営者に対する問いでは、68.6%が「オフィス面積もレイアウトも見直すことはない」と回答している。
この調査は、緊急事態宣言下の混乱を経験し、自粛期を経てウィズコロナ期に突入した段階での企業や労働者の意識を反映している。結果を見る限り、従業員はテレワークをはじめとする新しい働き方を受け入れているが、経営層は従来の形を大事にし、コロナ禍での労働環境の変革に消極的である印象を受ける。
ウィズコロナ期に求められる
オフィスでの感染症対策
現実的には契約の問題もあり、短期間でオフィスの移転・増減床を行うのは難しいが、それでも現在のオフィス環境やテレワーク環境において実施できる・実施すべき改善策は多々ある。まず実施すべきは、換気、出社制限、ソーシャルディスタンスの確保、共有物・共有スペースの削減、ホテリング(予約式のフリーアドレス制度)、消毒といった感染症対策である。
特に、ソーシャルディスタンスの確保や換気のためにはレイアウト変更は欠かせない。テレワークによる出社制限との併用や、飛沫防止用のアクリルパーティションの設置という対策もあるが、それだけでは“手当て”の域を出ない。中期的なことも考えて、無線LAN環境の整備やノートPCの配布、紙の削減という基本的なデジタルインフラの整備とともに、感染しづらい動線作りや、デスクの配置を従来の対向型から対角型、並列型に変えるという措置が求められる。
また、ウィズコロナ期の現状で仕事の標準ツールとなっている、Web会議に対応するための仕組みも整えなければならない。会議室や個人作業用スペースのニーズが高まり、オンライン会議時の音漏れやハウリング、情報漏えいも問題となっている。対策としては、クローズ型のブース、三方を囲んだ簡易型の静音ブース、吸音パーテーション、吸音パネルなどの導入・設置が必要になる。コストがかかるため、まずはレンタルで整備するという手もある。
テレワークの有効活用が導く
ニューノーマル時代のオフィス
テレワークを実施する際にも、全ての社員に日数を決めて一律に実施を求めるのでは、同じ場所へ同じ時間に出社するのとあまり変わらない。社員それぞれの家族構成や自宅環境には違いがあり、常にWeb会議を行ったり作業に集中したりできる場所を確保できる訳ではない。ほかにも、職場でなければ閲覧できない資料や利用できない設備も存在する。
実施に当たっては、従業員の希望を反映させる余地を設けるべきである。そのためには、従業員の出社予約や設備予約、出社人数管理の仕組みも必要になってくる。記録を取っておくと、従業員にコロナ罹患者が発生した際に行動も把握しやすくなり、従業員にも「何のための何の業務をどれくらいの時間働く」という意識付けができ、働き方の可視化や効率化につながるなどの効果も期待できる。
テレワークを機能させるためには、そこまでの配慮が必要になってくる。それは勿論、オフィスの在り方にも反映される話である。そこをしっかり考えることで、テレワークは感染拡大期における緊急措置的な実践から、恒常的な業務基盤へと進化していくことになり、ニューノーマル時代のオフィス環境構築にもつながっていく。
また、これまでのテレワークや在宅勤務で発覚した問題点も改善しなければならない。特にテレワークで問題視されているのが、会社へのエンゲージメント(肯定的な帰属意識)や、モチベーション、社内でのコミュニケーションの欠如である。そこで大きな役割を担うのがオフィスであり、これからのオフィスには単に労働の場という役割でなく、メンタルケア的な要素も求められる。
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