Special Feature
働く気持ちを高めるニューノーマル時代のオフィス
2020/12/17 09:00
週刊BCN 2020年12月14日vol.1854掲載
内田洋行
オフィス環境と働き方の両輪で提案
オフィス家具メーカー各社が、ウィズコロナ時代におけるオフィスの新しいコンセプトと、それを具現化する新たな商材を発表している。感染症対策として従業員の安心、安全を担保する仕組みから、テレワークを中心とした新たな働き方への移行に伴って生じた不都合や不便を埋め、生産性を高めるための製品まで幅広く提案している。各社の動きを見れば、ウィズコロナ、アフターコロナのオフィス整備に必要な取り組みは見えてくる。内田洋行は、社員がその日の業務内容に応じて最適な働く場所を選択する「アクティブ・コモンズ」を提唱し、他社に先駆けてABW(Activity Based Working)を実践しているが、そのような自社の取り組みで得た知見と、最新のオフィスファニチャーおよびICT機器を組み合わせ、現状のコロナ禍で加速する働き方変革を支える新たなオフィス像を提示している。
同社の営業統括グループ知的生産性研究所の矢野直哉部長は、「働き方を変えていく際には“働き方”と“働く場所”の両輪で回していかないと生産性も上がらず、働きがいや組織作りという従業員と経営者双方にとってのハピネスも得られない。そういった働き方に関する本質はコロナの前も後も変わらない」と話す。
今回のコロナ禍で、テレワークが新しい働き方として定着した。その結果、オフィス不要論やオフィス縮小という動きが目に付く状況であるが、矢野部長は「テレワークは情報共有の部分では効率が良いが、アイデア出しの場合などは対面の方が良い。あくまでオフィスワークとのハイブリッドワークが働き方の基本になる」とオフィスの重要性を説く。そのため働く場所としてオフィスの整備は必須であり、「共働作業をする際の使いやすさを意識したオフィスにしていく必要がある」とする。
このような観点から内田洋行は、「ハイブリッドワーク、フィジカルディスタンシング、感染症対策の観点でサービスを増やしている」(ICTリサーチ&デベロップメントディビジョンICTプロダクト企画部ICTプロダクト2課の橋本雅司課長)という。
ハイブリッドワーク対応製品では、会議室からのオンライン会議を効率化する製品の「ClickShare Conference CX」を用意した。受信機を会議室に設置されたWebカメラやマイク、ディスプレイに接続し、会議の主催者は自分のノートPCに小型デバイスを取り付ける。小型デバイスのボタンを押すと、カメラやディスプレイにワイヤレスで接続され、すぐに会議を始められるので、ケーブル接続やPCの設定変更で会議開始まで手間取ることがない。
また、タブレットで会議室の機器を制御する会議支援サービス「MeeTap」をWeb会議に対応させ、PCのWeb会議用のカメラを参加者映像からホワイトボード映像へ切り替えられるようにした。板書した内容も遠隔地と共有できるので、オフィスの会議室で行っている会議の議論にテレワーカーが加わりやすくなる。これらは、「自社運用で成果があった機能を実装している」(橋本課長)形である。
オフィスファニチャーでは、三密対策や静音ブースでWeb会議を行うことを目的としたフリーのオープンスペースのニーズが増えていて、そのための製品群もラインアップしているが、同時にスペースの利用状況を遠隔およびブースの外から可視化するシステム「RoomSense」も提供、働き方の効率化も支援する。
実際の顧客からは、距離を取るためにオフィス内のレイアウトを変更したいというニーズが最も多く、キャスター付きで自由に動かせる正方形型テーブルの「PLENAtable」が売れているという。感染症対策で少しずつ向きを変えることで、2メートル近くの距離を空けることができ、通常時には課ごとに集まって座ることもできる。その際、席数も面積も変わらない。
そういったオフィス内の配慮を行うことで、帰属意識を保てると矢野部長は話す。「オフィスをどう捉えるか。人材を重要視する会社は、発想の場所、働きやすい環境を整えていこうという意識になっている」という。
同社は新製品展示会「UCHIDA FAIR 2021」を今年はオンラインで開催し、新時代に対応したオフィス製品群を紹介している。
カオナビ
従業員が足を運びたくなる新オフィス
これからの時代を見据え、新たなオフィスに移転する企業も出てきている。人材マネジメントシステム「カオナビ」を提供するカオナビは、11月24日に東京・港区の東京虎ノ門グローバルスクウェアに本社オフィスを移転した。これに伴い同社では、新たなオフィス空間を活用してニューノーマル時代の働き方へと本格的に移行している。
完全フリーアドレスオフィス
新オフィスはビルの2フロアを活用。エントランスのある下層フロアは、主にカオナビユーザーをはじめとするステークホルダーとの交流やコラボレーションを意識した空間で、上層フロアは従業員が通常の仕事に活用するオフィススペースとなっている。完全フリーアドレス制であり、さまざまなレイアウトの個人ブースや会議スペース、セミナールーム、ウェビナー専用ルームから、ラウンジやカフェ、プレイルームまで多種多様なスペースが設置されている。
当然、感染対策を意識して密集を避けたレイアウトになっている。移転前と後のオフィスを数字で比較してみると、席数が約250席から約370席に増えたのに対し、フロア面積は392坪から820坪へと大幅に増加している。また、昨今のWeb会議やコラボレーションツールを活用したコロナ時代の働き方に合わせた労働環境を前提とし、静音ブースや個室型ブースも多数用意されている。
同社のオフィス移転は、新型コロナのパンデミックが動機という訳ではなく、移転を正式に決定したのは2019年8月とのこと。元々は従業員数の増加と働き方の変化に合わせてオフィスの移転計画を策定していたが、パンデミックとそれに伴うワークスタイルの変化によってオフィスレイアウトを大幅に見直し、現在のスタイルに落ち着いた形である。
移転の動機について、移転プロジェクトを統括した玉木穣太CDO(最高デザイン責任者)は、「会社が従業員を管理するのではなく、相互選択関係を目指していたことが大きな理由になっている」と語る。従業員にとって出社は「義務」ではなく「権利」であるべきだという思想のもとで、新しいオフィスを設計したのである。
テレワークに移行して働き方の選択肢を増やしたといっても、会社や上司から出社日や在宅勤務の日を指定される形態の企業も多い。これに対しカオナビでは、出社したいときに出社して、働きたいスペースを選んで働ける。「人と会って話がしたい」「自宅でのテレワーク設備が十分でない」「集中して仕事がしたい」「くつろいで仕事がしたい」などさまざまな動機のもとで、自分の意思で出社日を選んで働くことができる。
オフィスにはさまざまな仕掛けが施されていて、ソファーや人工芝、カウンターなど、周囲の人から声をかけやすいデザインの座席も多い。そのような環境において、コロナ収束の過程でカオナビの従業員だけでなく、ユーザーや同社のコンセプトに共感してくれる人たちに、新たなビジネスネットワーキングの場所として使ってもらいたいと玉木氏は話す。
「従業員と会社はフラットであり、どちらかがどちらかを管理するという関係性は間違っている。これからはニューノーマル時代というが、そのためには従来の標準自体を壊していかなければならない。このオフィスは新しい働き方の実験場でもあり、今後それをカオナビのサービスにもインストールしていきたい」(玉木CDO)
ロゼッタ
オフィス移転先はVR空間 ビジネス展開も間近に
リモートワークをはじめとするニューノーマル時代の働き方を支えているのは、デジタルテクノロジーである。これからさらにデジタルテクノロジーが進化していく中で、次世代型オフィスにおける一つの選択肢となると考えられるのが、VR(仮想現実)空間にオフィスを構えるバーチャルオフィスである。
そのVR空間のオフィスへと早々に「移転」を表明したのが、AI翻訳ソフトを開発するロゼッタだ。同社は自社技術を活用したVRオフィスの事業化も視野に、10月1日から段階的にVRオフィスの運用を開始している。現在は経営戦略や新規事業の会議の際に20~30人が利用している段階で、来年の早い時期には新宿本社オフィスに所属する100人程度が利用を開始し、本格的に本社機能をVR空間に移す予定となっている。
ロゼッタのVRオフィスへの移転は、コロナ禍で自社が直面したオフィス問題と、以前からの事業戦略の両面から行われた形となっている。元々同社はオフィスの増床を計画していたが、コロナによって計画が白紙になり、逆にリモートワークが中心となる中でオフィスの地方への移転も検討。他方、事業面では自社のAI翻訳を活用して言語フリー、国境フリーのオフィスを作るという構想を持っていた。そこで注目したのがVRである。
「現実の世界ではデバイスの制約があるため音声のリアルタイム翻訳は難しいが、VR空間であればオフィス空間にAI翻訳を埋め込むことができる。実現はまだ先だと考えていたが、コロナ禍でWeb会議やコラボレーションツールの代わりになれば、と構想を早める形となった」と同社の五石順一代表は語る。
VRオフィス内では、コミュニケーションの大切さを実感できると五石代表は話す。ビジネスチャットやWeb会議と比較すると、「チャットでは指示を出しても見ていなかったり、物事が滞ったり違う方向に進んでしまった際に、発覚が遅れるというデメリットがある。Web会議では、一つのミーティングの中では話す人が決まっていて、他の人は見ているだけ。VRオフィスでは同時にいろいろな人と話すことができる。VRはリモートの効率性とリアルの生産性を両方持っている」と絶賛する。
VRオフィスの基盤は、VRヘッドセット「Oculus Quest2」をはじめとするFacebookのVRプラットフォームを活用している。オフィスは米スペイシャルのコラボレーションツール「Spatial」と、ビジネスAIベンチャーであるシナモン(Synamon)の技術を採用し、AI翻訳技術などの自社技術を実装して構築していく。最終的にマルチ言語でのコミュニケーションを可能にするほか、会話や入力した文字、作成した資料などを空間保存することで、正確な議事録作成やデータ検索も可能にしていくという。
今後FacebookがVRプラットフォームをアップデートし、VR空間内でのキーボードを活用した文字入力や、空間へのマルチスクリーン表示を可能とする「Infinite Office」機能を実装する計画で、その段階でVRオフィスとしての機能が大きく前進していく予定である。また、VRヘッドセット以外にも、KDDIが発売したスマートグラス「NrealLight」も活用できるようになり、MR(拡張現実)としてのバーチャルオフィス活用も可能になることで展開が加速していくという。
事業化の時期は、それらのプラットフォームの完成度に左右されることになるが、「VRオフィスを体験してもらう意味も含めて、外国人を交えた商談などに利用できる、時間貸しの(仮想的な)会議室を提供する」(五石代表)形態でスタートする見込みだ。
オフィス改革の積み重ねで
生産性の高い働き方へ
ニューノーマルのオフィス環境を構築するためには、当面のウィズコロナ時代を乗り切るための対策を講じつつ、新しいオフィスの在り方を描いて中・長期的なスパンで取り組みを進めていくのが現実的な形であると思われる。そしてその時、かねてからの働き方改革の取り組みと、昨今のリモート併用の働き方が交わり、生産性の高い働き方が確立されていることが理想である。そこで一つ忘れてはならない要素が、「柔軟性」だ。レイアウトを変更する予定がない経営者が多いというのは、現在のオフィス環境に柔軟性がないことの裏返しである。ニューノーマルへの対応はゴールではない。長期的なビジョンを考えるのは容易ではないが、今後起こり得る変化にも対応できる柔軟なオフィス環境を目指すべきである。

2020年、新型コロナウイルス感染症の大流行によって我々の働く環境が一変した。ややもすれば“出社することが仕事”と揶揄されることもあったこの国で、「オフィスに出社しない」働き方が推奨されたのである。テレワークが常態化する中で、これからオフィスはどう変わっていくのか。ニューノーマル時代のオフィスの在り方を探った。
(取材・文/石田仁志 編集/日高 彰)
感染症対策を理由として
リモートワークが定着
新型コロナウイルスが出現する前から、国内では働き方改革の取り組みが進行していた。数字上の残業削減にとどまるものも目立ったが、ワークスタイル変革の面でも在宅でのリモートワークが徐々に活用されるようになり、新しいオフィスの形としては、共有オフィスや地方のサテライトオフィスが増えた。そこにデジタル環境の進化とデジタルトランスフォーメーションの動きが加わり、モバイル端末を活用した、場所に縛られない柔軟な働き方も普及しつつあった。
そのように物事が少しずつ動いていく中で、突如として世界的なパンデミックが発生。国内でも4月に緊急事態宣言が発令され、感染症対策という理由の下、短期間で働き方の前提が変わり、在宅勤務をはじめとするリモートワークが急速に広まって多くのオフィスから人が消えた。気が付けば、これまでの働き方改革を上塗りする形で、Web会議やコラボレーションツールを活用したニューノーマルな働き方が定着している。
結果だけを見ると、以前から目指していたデジタルを活用した次世代型の働き方を実現した形である。しかし、その過程が強制的であり、準備や制度設計、ICTインフラが十分でなかったため、リモートワークという働き方自体は受け入れられたものの、モチベーションや労働生産性の低下がみられた。
コロナ禍での実践を経て、一部には「やはりテレワークは使えない」「仕事は出社してするもの」など、働き方改革と逆行する意見がある一方、リモートで働ければオフィスはいらないのではないかと考える経営者も存在している。いずれにせよ企業は、一旦立ち止まってこれからの働き方と、それを支えるオフィスの在り方について考える必要がある。
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料) ログイン会員特典
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。 - 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…
