1年前には誰も想像だにしていなかった、新型コロナウイルスによるパンデミック。緊急事態宣言を受けた期初時点では多くの企業が業績見通しを未定とするなど、先行きの見えない状況に突入した。事態の収束がいつになるかは今もわからない。しかしこの秋以降、主要ITベンダーからは前年並みの着地を見込む予測も相次いで発表されており、国内IT業界全体について言えば、新型コロナ禍を何とか乗り切ることができたと言えそうである。2020年の業界に何が起きていたのか、週刊BCNの紙面を通じて振り返ってみよう。 (構成/日高 彰)
急きょ迫られたリモート対応
新型コロナ禍がビジネスに与えた最も大きな影響の一つが、「出社の非推奨」である。台風や大雨の日でも会社に来ることが“美徳”としてやゆされることもあるほどだった日本社会だが、人と人との接触を減らすため、突如として「対面で人に会わない」ことが新たなビジネスマナーとなり、自宅でも仕事ができる環境や、対面業務を非対面化する仕組みなどが求められるようになった。
(4月13日付Vol.1821掲載)
本紙でもこの春以降、リモートワークを中心とした新しい働き方に取り組むための話題が急増。4月には、緊急事態が宣言される前からリモートワークに切り替えた先進企業の事例を特集した(4月13日・1821号掲載「
IT企業の事業継続 テレワーク先進4社の取り組み」)。早い企業では、国内で最初の感染者が確認された1月半ばから在宅勤務の検討を行っており、元々リモートワークに積極的だった企業を中心に、2月末から3月頭にかけて「原則在宅」化が進んだ。
リモートワークがどれだけスムーズに導入できたかは企業の事業形態によってさまざまだが、上手く進んだ企業を見ると、元々自然災害や東京五輪期間中の交通機関の混乱などを想定し、綿密なBCP(事業継続計画)を策定していたケースが多い。また、単に計画を立てるだけではなく、平常時もリモートワークで働く従業員が一定数いたり、定期的に「在宅勤務デー」を設けるなどして訓練を行っていたりすることが重要だった。
一方、そのような先進企業を含め、「自宅に固定回線がなく、モバイルルータの残り通信量が足りなくなる」「仕事のための机やいすがなく、長時間の業務では疲労が大きい」「Web会議に子どもの声が入って話がしにくい。背景に生活空間を見せたくない」といった課題は多くの企業から共通して聞かれた。緊急避難的にリモートワークを行った段階ではそれほど意識されていなかった問題が、在宅での働き方が「新たな日常」となるにつれて表面化するというケースは少なくなかったようだ。
人と直接会って仕事をするのが難しくなる中、社内での打ち合わせだけでなく、オンライン営業ツールを駆使して顧客との商談をリモート化する動きも活発化した(7月20日・1834号掲載「今こそ知りたいオンライン営業 リモートでも成果をあげる方法」)。
新たなワークスタイルを導入したこの1年で得られた知見は、コロナ禍が収束した後も活用できることは間違いない。働き方の変更を「強いられた」と考えるよりも、やるべきだった改革のスピードが加速したと見るべきだろう。
公共系ITにも大きな動き
コロナ禍では社会システムにおけるIT環境の未整備が露呈したが、公共領域でのデジタル化を加速しようという動きを後押しする動きにもつながった。
文部科学省は昨年12月、2023年度までに全ての小中学校・高校・特別支援学校で、児童・生徒1人1台の学習用端末と校内ネットワーク環境を整備する「GIGAスクール構想」を打ち出していたが、今年度の補正予算では、緊急経済対策の一環としてこの計画の実施が前倒しに。教育市場でのPCやネットワーク整備需要が増大した。中でも、補助金の金額や、クラウド利用を推進するといった文科省方針との整合性から、Chromebookの引き合いが増えているという。
(12月7日付Vol.1853掲載)
また、9月に発足した菅新政権での目玉政策の一つとして掲げられたのが、省庁横断で行政のデジタル化を推進する「デジタル庁」の新設だ(12月7日・1853号掲載「
デジタル庁の創設で日本のデジタル化は進むか」)。来年秋のデジタル庁発足を目指す平井卓也デジタル改革担当相は、日本のIT政策の結果を「デジタル敗戦」と表現。プロセスを見直さず、アナログ業務をそのままITで置き換えたために、生産性を十分に向上させることができなかったと指摘する。デジタル庁では国や自治体のシステムの標準化を行うほか、マイナンバーカードの普及促進を「一気呵成(かせい)に進める」(菅首相)としている。
テーマの中心は「アフターコロナ」へ
飲食・宿泊や医療といった業界は引き続き深刻な打撃を受けているが、それ以外の業界では、コロナ禍が続く中でどう競争力を高めていくか、あるいはコロナ禍の収束後にどのような働き方を実現していくかがテーマになりつつある。
(10月5日付Vol.1844掲載)
大手IT各社からは、企業の従業員の安全な職場復帰を支援するソリューションが提案されている(10月5日・1844号掲載「
オフィス勤務の再開を支援する“職場復帰”ソリューション」)。誰がオフィスに出社しているか、個々人の健康状態に問題はないかなどの情報を集約してダッシュボード形式で表示できるほか、もし感染が疑われるケースが発生した場合、誰と誰が接触したか、対象の従業員がどのエリアで勤務していたかなどの情報を即座に引き出すことができるといったものだ。
また、オフィスそのもののあり方も大きく変わろうとしている(12月14日・1854号掲載「働く気持ちを高めるニューノーマル時代のオフィス」)。従業員の多くがリモートワークを選択したことでオフィスの縮小に動く企業がある一方で、フリーアドレス化に伴うネットワークの整備やレイアウトの変更など、このタイミングでオフィスへの投資を行う企業も見られる。しかしどちらの企業にも共通するのは、Web会議を中心とした新しいコラボレーションの形が広がる中、オフィスとリモートのどちらにいても高い生産性を発揮できる、ハイブリッドワークのスタイルを指向していることだ。顔を合わせて仕事をする機会が貴重となった今、オフィスで過ごす時間の生産性をさらに高めていくことが求められる。
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