「ドリルではなく、穴がほしいだけ」――。これはマーケティングに限らずビジネス全般に言えることだ。テクノロジーを使えば現場が自動的に改善されるわけではなく、目的がはっきりしている現場がテクノロジーを生かした時にこそ圧倒的な成果が出てくる。だから非ITベンダーの現場から出てきたITソリューションには独特の説得力がある。製造業や飲食業といった「本業」の経営・業務課題を解決するためにITソリューションを開発し、その経験・ノウハウを生かして事業領域を法人向けIT市場に拡張している非IT企業の動きを追った。彼らの変革のストーリーにはITをビジネスの手段として使い倒すためのヒントがあふれており、既存のITベンダーとは異なる独自の存在感を放っている。顧客のDXを何らかの形で支援することが必須となった現代のITビジネスの羅針盤となるか。
(取材・文/指田昌夫  編集/本多和幸)

File1 旭鉄工 → i Smart Technologies
シンプル指標でIoT経営を実践 製造現場の課題を次々と改善する

 旭鉄工はトヨタ自動車向けの自動車部品を製造する部品メーカーで、年間売上高は150億円。トヨタのティア1工場である。同社を率いる木村哲也社長はトヨタ自動車に21年勤務した経験を持つ。18年間は実験部門に所属し、残りの3年間は「トヨタ生産方式」の実践とカイゼンの現場を学んだ。その後2013年に旭鉄工へ入社、16年にはi Smart Technologiesを立ち上げ同社の社長も務めている。

 旭鉄工の工場の改善活動から得たIoTのノウハウを他社にも提供する目的でi Smart Technologiesは設立された。木村社長が最も大事にしているのは「人には付加価値の高い仕事をしてもらいたい」という思いだ。テクノロジーを活用して現場を改善することで働く人を楽にしたいという。

 同社が工場現場のIoTで取得しているデータの種類は、実はそれほど多くない。まず時間あたりの生産個数、ラインの停止時間(時刻、長さ)、そしてサイクルタイム(1個あたりの生産時間)、以上である。木村社長は「たったこれだけのデータだが、十分に経営状態が把握できる」と考えている。

 従来、これらのデータは工場の作業員がストップウォッチなどで計り、紙に記入していた。まさに理科の実験のように、何度か計ってExcelなどで平均を計算する作業が必要だった。「例えばサイクルタイムを出すには20回手で記録して平均を出すなど、非常に手間がかかる作業が必要だった。それをセンサーで自動的に収集するようにしたのが、当社が作ったシステムである『iXacs(アイザックス)』だ」(木村社長)
 
旭鉄工/i Smart Technologies
木村哲也 社長