「想定外」。2020年から現在に至るPC市場をめぐる環境を一言でまとめるとこう表現できるだろう。当初見込まれていたWindows 7の更新需要による反動は、新型コロナウイルス感染拡大がもたらした新たな需要でかき消され、PCの使い方そのものが大きく変わりつつある。一方、世界的な半導体不足が供給体制に与える影響は色濃く影を落とし、市場全体には不透明さも漂う。週刊BCNはこの秋、創刊40周年を迎える。40周年記念特集の第1弾では、本紙が長年見つめてきたITビジネスの「1丁目1番地」とも言えるPC市場について、現在と未来を占う。
(取材・文/藤岡 堯  編集/日高 彰)

 話は19年にさかのぼる。この年は「Windows 7」の延長サポート終了前の買い替えや消費増税前の駆け込み需要が発生し、PC市場は過去最大規模となる出荷数を記録。20年はその反動減が見込まれていた。しかし、ふたを開ければ、結果はそれとは真逆となった。MM総研の調査によると20年の国内PC出荷台数は1591万台(前年比1.3%増)で、1995年の調査開始以来最高だった19年を上回り、過去最高を更新した。

topic1 GIGAスクールとテレワークが牽引した20年度

台数増に寄与も価格競争は厳しく

 予想に反する台数増の要因は、コロナ禍による市場の激変だ。小中学校において児童生徒1人あたり1台ずつのPCを整備する文部科学省の「GIGAスクール構想」はコロナ禍を受け、当初計画より前倒しで展開され、教育用の端末が大きく伸びた。加えて、外出自粛を受けたテレワークの急速な拡大も追い風となった。GIGAスクールとテレワーク、性格の異なる二つの需要に対し、メーカー各社はさまざまな戦略を繰り広げた。

 レノボ・ジャパンは20年、国内PC市場でトップに立った。好調の背景はGIGAスクール市場での飛躍にある。同社の安田稔・執行役員副社長は「GIGAスクールの貢献は大きかった。ゲームチェンジのきっかけになった」と強調する。

 国内生産をはじめとする供給面での改善の積み重ねが奏功したほか、パートナーとの協業によるソリューション提供が後押しとなったとし、「(文教市場向けの)管理ツールやコンテンツを持っているパートナーは教育委員会へのパイプも太い。戦略がうまくはまった」(安田副社長)と胸を張る。
 
レノボ・ジャパン 安田稔 執行役員副社長

 一方で、政府が端末1台当たりの補助上限を4万5000円に定めたことが結果的に価格競争を加速させた面もある。

 あるメーカーは「(GIGAスクールは)価格競争に陥った部分があり、体力を削るビジネスになってしまった」と指摘し、別の関係者からは、利幅が小さいことから地場のパートナーにしわ寄せが及んだとの声も漏れる。
 
日本HP 九嶋俊一 専務執行役員

 各メーカーにとっては明暗が分かれる結果となったが、PC市場全体にとっては子どもたちに広くPCがいきわたったことを評価する向きは多い。日本HPでパーソナルシステムズ事業統括を務める九嶋俊一・専務執行役員は「(GIGAスクール向け製品のスペックは)予算の中で“better than nothing”というものだが、読み書きレベルのようなものであり、登竜門としてはいい。デジタル後進国の日本において、限られた予算の中で正しい選択だったのではないか」と話す。デル・テクノロジーズ クライアント・ソリューションズ統括本部ビジネス・ディベロップメント事業部の飯塚祐一氏も「ITの民主化の基礎に取り組んだことは素晴らしい。現在のPC市場のように成熟していくためには、継続的な製品の供給が重要」とし、文教市場の成長に期待を寄せつつ、学校のIT化を一過性のもので終わらせず、持続可能なビジネスとなるよう中長期的な視野をもって取り組む必要性を強調する。
 
デル・テクノロジーズ 飯塚祐一氏
 
 21年度は高校向けGIGAスクールも控えるが、高校向けの補助は低所得者層の購入に限られることから、各メーカーとも小中学校向けほどのインパクトはないとの見方だ。ただ、生徒が個人所有の端末を持ち込むBYOD(Bring Your Own Device)や、教育委員会や学校側が機種を推奨し、個人で購入するBYAD(Bring Your Assigned Device)の動向に注目するメーカーは多い。DynabookはBYODをターゲットにしたWeb販売の仕組みを強化していく考えを示す。同社の荻野孝広・国内マーケティング&ソリューション本部副本部長は「学校からも要望を受けている。高校向けのGIGAスクールをしっかり取り込んでいく」と力を込める。
 
Dynabook 荻野孝広 副本部長

企業が性能不足に気付き始めた

 GIGAスクールと並んで市場をけん引したのがテレワーク需要だ。テレワークの広がりを受け、ノートPCを中心にニーズが高まった。とりわけモバイルノートへの関心は高く、電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によると、20年度(20年4月~21年3月)の国内出荷台数は前年のおよそ3.4倍、出荷金額で6割増となった。これはGIGAスクールの影響も当然大きいが、廉価なエントリー機種が中心であるにもかかわらず、金額が6割増となったところをみると、ある程度は高価格帯も伸びたと推測できる。持ち運ぶための軽さはもちろん、オンラインでビデオ会議をしながら業務ソフトを動かすなど、テレワークを円滑に行うにはある程度スペックの高さが求められるため、高機能モバイルを選ぶ動きがみられた。
 
パナソニック 三宅貴彰氏

 ここで存在感を示すのが、高機能モバイルを主戦場とするパナソニックとVAIOだ。パナソニックコネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部で東アジア営業を統括する三宅貴彰氏は「PCの使い方が(コロナ前の)3年前からがらっと変わった。高機能モバイルを一つのポジションとしているわれわれには追い風となっている」と手応えを示す。VAIOで法人営業本部の本部長を務める宮本琢也・執行役員も「会社のデスクにあるエントリークラスのA4ノートを持ち帰らせて、カメラを買わせて、オンライン会議をしてとなると、(使用までのプロセスが煩雑で)使い物にならないのがわかった1年だったと思う。この機にしっかりとしたデバイスを購入したい顧客が増えているようだ」と分析する。
 
VAIO 宮本琢也 執行役員
 
 また、内蔵カメラはもちろん、マイクやスピーカーなど、これまではあまり着目されていなかった機能もチェックされているという。加えて、画面サイズではこれまでモバイルノートの主流だった12~13インチに加えて、14インチの機種が新たな商機を生むとにらむメーカーが多い。コロナ収束後にはオフィス勤務とリモートワークの使い分けが進むとみられ、持ち帰りしやすく、ある程度大きい画面で作業ができる点にニーズがあるとする。

 2社以外のメーカーでもテレワークを機にPCの使い方が大きく変わったとみるメーカーは多い。日本HPの九嶋専務は「数年前には『PCがいらなくなる』と言われていたが、コロナを経験したことで、PCが必要不可欠となった。PCがより深く使われるようになっている」と話す。

 市場全体で見ると、徐々に高機能・高付加価値製品の販売が増えるとの予想も広がっている。パナソニックの三宅氏は「これまで遠くにいたものが交わってきたと感じられる」と述べ、高価格帯市場に他メーカーも興味を示していることを示唆した。

 調達側の反応も変わってきている。実際、企業の調達部門が示す要件定義において、求められるスペックが上がってきたとするメーカーもあった。さらに、これまではカタログスペックやコスト面のみで選定するケースも少なくなかったが、実際にメーカー担当者からの説明や、実機の試用を要望する顧客が増えているそうだ。「説明して、費用対効果を考えてもらえれば、課題を抱えている顧客には評価してもらえる」(VAIOの宮本執行役員)。丁寧に説明を重ねることで、高価格帯の製品でも導入につなげられる。そんな実感がメーカー側にも広がっているようだ。

 コロナ禍は運用や保守、廃棄に至るまでのライフサイクルマネジメント(LCM)、キッティング支援など関連するソリューションへのニーズも広げた。リモートワークの増加で、顧客企業のIT部門や情報システム部門の負荷が高まる中、故障対応やトラブルへのサポート体制も付加価値となってくるだろう。