米オラクルが自社のIaaSに英アームの「Armアーキテクチャー」を採用した新たなコンピューティング・サービスをラインアップした。クラウドではAWSやマイクロソフトといったトップベンダーを追う立場ながらミッションクリティカル領域を中心に独自の価値をアピールするオラクルと、インテルやAMDが定着したエンタープライズIT向けのCPU市場で普及拡大を狙うアーム。両社のタッグは市場に新たな選択肢を浸透させることができるか。
(取材・文/谷川耕一  編集/本多和幸)

価格性能比に優れ汎用サーバーでも選択肢に

 オラクルは5月、同社IaaS「Oracle Cloud Infrastructure」の新サービスとして、Armベースのコンピューティング・サービス「OCI Ampere A1 Compute」をリリースした。サーバー向けのArmプロセッサー「Ampere Altra」を搭載し、さまざまなワークロードに対して高いコストパフォーマンスを発揮するとしている。提供当初からArm版のMySQLやJava、GraalVMなどの主要ソフトウェアをサポートし、オラクルはArm環境での開発エコシステムを支援していくことも表明している。

 Ampere A1 Computeは最大で160コアのOCPU(Oracle Compute Unit:1OCPUは2vCPU相当)、1024GBのメモリ、二つの50Gbpsのネットワークという構成で、1コアあたり1時間1.2円、1GBメモリあたり1時間0.18円と安価な価格設定になっている。他社製CPUベースのIaaSに比べてその安さは際立っている。さらに、1コア1スレッドの構成でほかのユーザーとコアを共有せず、セキュリティ面でも優位性があるとオラクルは主張する。そのため、さまざまな用途で利用可能だという。

 Androidベースのスマートフォン用アプリケーション開発などでの利用はもちろんのこと、多くのコア数が使えることからハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)での利用にも向くとしている。ディープラーニングの推論エンジンを提供するOnSpectaが自社技術の性能向上などを目的に利用しているほか、英国ブリストル大学HPC学部やドイツのフリードリヒ・シラー大学といった学術機関がHPC環境構築や高負荷なワークロードを処理するシステムに採用する事例も出てきている。

 さらにオラクルが強調するのが、Ampere A1 Computeの汎用サーバーとしてのポテンシャルだ。インテル製やAMD製CPUベースの既存サービスと比較しても、「価格優位性を考えれば汎用サーバー用途でも十分に選択肢になる。オープンソースのWebサーバー『nginx』の性能などもかなり高い」と、日本オラクルの近藤暁太・事業戦略統括事業開発本部第二事業開発部シニアマネージャーは説明する。

 性能の高さをアプリケーション開発などで生かすには、アプリケーションサーバーやデータベースなど各種ミドルウェアのサポートが欠かせない。オラクルは自社でさまざまなミドルウェアを提供しているため、それらを積極的にAmpere A1 Computeで動かせるようにしていく方針だ。加えてアプリケーションの開発、テスト環境も充実させる。「開発者がすぐに試せるように、“Always Free”で四つのA1コアと24GBのメモリの環境も提供する」(近藤シニアマネージャー)という。
 
日本オラクル 近藤暁太 シニアマネージャー

 さらにAmpere A1 Computeは顧客が自社データセンターでOracle Cloudのサービスを利用する「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer」でも利用できる。これにより、ハイブリッドクラウド構成での利用も可能となる。

 ただし、オラクルはインテルやAMDとの協業関係を継続しており、標準的なサーバー用途で両社のCPUをベースとしたIaaSを提案する機会が減少するかというと、そうとは言えないようだ。現状ではArmの環境では動かないアプリケーションも多いことから、価格性能比が高いからといって、Ampere A1 Computeへの移行が一気に加速するという状況にはないのだ。それでもCPUコアの数が多いことが有利に働くHPC領域では独自の価値を発揮できることから、積極的に提案することになりそうだ。