中小企業向けSIビジネスが地殻変動を起こしている。使い勝手のいいSaaSや、サイボウズの「kintone」など手軽なローコード開発基盤が充実してきたことから中小企業向けの個別SIビジネスが一気に活性化しているのだ。従業員数100人以下の中小企業はIT予算が限られている上、専任の情報システム部門も未整備なことが多いことから、本格的な個別SIは難しいとされてきた。大手SIerも採算性がよくないとして中小領域のSI市場には十分に進出できておらず、いわばこれまで“放置”されてきた市場が一転して“有望市場”となっている。
(取材・文/安藤章司)

週刊BCNは今年10月、創刊40周年を迎えます。本紙が長年取材してきたITビジネスの現在を分析し、未来を占う記念特集を連載形式でお届けします。

中小向けSIが急成長する船井総研

 中小企業向けSIビジネスの活性化を支えるのは、国内外のベンダーが開発・提供しているSaaSや、kintoneのような手軽なローコード開発基盤である。これらのツールを活用した中小企業向けSIに力を入れるSIerが増えたことから、広くサービスの提供体制も整い始めている。

 独自性の高いビジネスを展開している中小企業は多く、既存のパッケージソフトの機能だけでは業務全体をカバーできないケースが少なからず存在した。規模の大きいユーザー企業であればSIerに個別発注し、自社のビジネスモデルや業務フローに最適化したシステムを組むことが可能だが、中小企業にとってはコストも対応する人員の負荷も許容範囲を超えるケースが多く、市販の表計算ソフトやデータベースソフトでの代替を強いられてきた側面がある。しかし、表計算ソフトでマクロを組むなどしてカスタマイズしてしまうと属人性が高まり、担当者が変わると継承が困難になるといった弊害が長年にわたって指摘されている。

 中小企業向け経営コンサルティングに強い船井総合研究所は、中小企業のIT化にSaaSやローコード開発ツールが有用だとして、2018年頃からkintoneを活用したSIビジネス手法の研究を進めてきた。その後、インドの大手SaaSベンダーが開発するZohoを取り入れ、ローコード開発による個別開発と既存SaaSを組み合わせた独自の中小企業向けSI手法を構築してきた。

 船井総合研究所では、ローコードやSaaSを活用したビジネスを「中小企業向けDXコンサルティング」事業と位置づけ推進したところ、ビジネスが急速に拡大。昨年度(20年12月期)は約10億円の売り上げにまで成長し、22年度には3倍の30億円規模に達する手応えを感じているという。

経営改善のメソッドがカギ握る

 SIが本業ではない経営コンサルティング会社の船井総合研究所が中小企業向けのSIビジネスを伸ばしている最大の理由は、中小企業の実態を踏まえた的確な経営改善のメソッドが市場に評価されたことだ。例えば、下請け仕事が多く、粗利が増えない経営課題を抱えている町工場の経営者に向けては、「元請け比率を増やしましょう」とストレートに提案。自社の強みの分析、強みを生かした商品開発、マーケティング、顧客管理など、一連の収益モデル変革のコンサルティングを行う。デジタルマーケティングにより新規顧客の開拓施策への投資の費用対効果を最大化し、顧客管理や営業支援もSaaSの「Zoho CRM」でデータ活用型ビジネスに転換するための基盤を整える。

 中小企業向けDXコンサルティング事業を担う船井総合研究所の斉藤芳宜・DX支援本部デジタルイノベーションラボ マネージング・ディレクターは、「デジタルマーケティングの手法やSaaSをうまく使い新規で元請け顧客を1~2社獲得できれば、町工場の事業規模であればIT投資分を単年度で回収できてしまう」と話す。多額の初期費用がかからないSaaSならではの効果である。こうした活動を継続すれば、元請け顧客のデータベースが蓄積され、将来的には下請けと元請けの比率を逆転。当初課題だった粗利の低さを解消する道筋が見えてくる。
 
船井総合研究所 斉藤芳宜 マネージング・ディレクター

 企業規模が大きい会社では、すでに稼働しているシステムがあり、情報システム部門が管理・運用する体制が整っているため、ITベンダーは「古くなったCRMを刷新しましょう」と商談のスタート時から“IT”の提案ができる。しかし中小企業の場合は「ITの話を最初にもってくるのは御法度」(斉藤マネージング・ディレクター)だ。売り上げや利益、人材獲得といった短期間で経営に直接的なメリットがある提案でないと商談が進まない。情報システム部門とのやりとりが中心だったSIerとは、根本的に違う形のビジネスだと言えよう。