Special Feature
外部の“とがった”スキルに目を向ける リッジラインズのDX人材戦略
2021/11/25 09:00
週刊BCN 2021年11月22日vol.1900掲載

デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の機運がこれまでになく高まっている。しかし、多くの企業は「DX人材不足」のためにDXが遅々として進まないと嘆きの声を上げる。富士通グループでDX事業をけん引するリッジラインズ(Ridgelinez)は、フリーランスを含むさまざまなバックグラウンドを持った人々に門戸を開き、顧客企業が求めるスキルを持つDX人材を発掘しようとしている。外部人材の登用を苦手とする企業と、“とがった”人材をどのようにして結びつけるのだろうか。
(取材・文/谷川耕一 編集/日高 彰)
社外に頼らざるを得ない日本企業のDX
多くの企業がDXに取り組み始めている。経営層の理解も進み、中期経営計画にDX推進を盛り込んだり、DX推進組織を立ち上げたりするケースが増えている。一方、DXを進める上で課題となるのがDX人材の確保だ。総務省が今年7月に出した「令和3年版 情報通信白書」でも、DXの現状と課題として、日本のIT人材はIT企業に偏在し人材不足が大きな問題だと指摘している。また、同じ白書の調査結果では、5割を超える企業で人材不足がDXを進める上での課題として挙げられている。DX人材確保は、企業にとって喫緊の課題なのだ。DX人材を確保するためには、外部から採用するか、社内人材を教育し育成することが必要となる。労働人口が減少する日本で5割以上の企業が不足を訴える現状では、優秀な人材の採用は容易ではない。また育成するにしても、どこから手を付けていいかが分からないという企業は多い。教育に時間がかかれば育成前に「2025年の崖」に落ちてしまうかもしれない。
また日本の多くの企業は長らく、IT人材をSI企業など外部のベンダーに頼ってきた。DXを進めるのに必要な俊敏性を得るにはシステムの内製化が必要と指摘されるが、従来の方針を転換して内部にIT人材を確保し、あらゆる情報システムの内製化を目指す変革はあまり現実的ではない。DX人材もDXに必要なIT人材も、ある程度は採用や育成で内部に確保する必要があるだろう。しかし足りない分は、適材適所で外部に頼るしかない。DXコンサルティングサービスを提供するリッジラインズでInnovation and Business Creation Practice Leaderを務める佐藤浩之・プリンシパルは「多くの企業は、社外にいる個人の能力の活用に向かわざるを得ないだろう」と話す。
リッジラインズは、富士通グループのDXビジネス専門コンサルティング会社として2020年4月に設立された。顧客に寄り添い顧客と一緒にDXのための仕組みの実装までサポートするとしている。佐藤プリンシパルが率いるInnovation and Business Creationチームは、コンサルティングによる提言で終わるのではなく、実際にテクノロジーを持ち、プラットフォーム化して新しい変革のプロジェクトを実践するところまで携わる。また、DXコンサルティングサービスでは、顧客企業におけるDXチームの構築や人材育成の提案もする。
スタートアップ企業では、高度な技術や知識を持つデータサイエンティストや、DXプロジェクトをリードできる優秀なプロジェクトマネージャーなどの確保が容易なケースもある。これは、面白そうな取り組みをしている企業には、“とがった”人材が口コミなどで自然と集まるからだ。一方、日本の大企業はDX人材の確保に苦労している。DX推進専門組織は立ち上げたものの、優秀な人材が確保できないとの声はリッジラインズにも数多く届いている。
ベンチャーとの協業で隠れた才能を発掘
日本でDX人材が不足しているのは確かだが、実は研究機関や大学院などには、特定分野で優秀なスキルを持った人材が大勢いる。フリーランスのデータサイエンティスト人材も、探せばそれなりにいると佐藤プリンシパルは指摘する。たとえば、高度なITスキルを持った人たちが集まるSNSに「Qiita」がある。グローバルでAIの高度なスキルを持った人を探すなら「Kaggle」があり、日本人の参加者は増えている。外資系やフットワークの軽いスタートアップ企業は、こうしたサービスを利用して人材を見つけ、社員として採用したり、共同でプロジェクトを進めたりすることにも積極的に取り組んでいる。リッジラインズでも、顧客企業と優秀なフリーランス人材を結び付けるサービスを用意している。同社では、必要な人材を効率的に見つけるため、人材発見を目的とした試験を受けられるサイトの設置を検討したこともあるという。しかし、それをイチからつくるよりも、既にある仕組みを活用しようと考え、まずはプロブスペース(ProbSpace)と組むことにした。
プロブスペースは、ニュートリノ観測でノーベル物理学賞を受賞した東京大学宇宙線研究所長・梶田隆章教授の研究室出身である、内藤嘉章代表が創業したユニークなベンチャー企業で、AI開発コンペティションサイト運営事業、ジョブマッチング事業、コンサルティング事業などを展開している。リッジラインズは自社のフリーランサーコミュニティとプロブスペースの開催するAI開発コンペに集まる人材を融合させたいと考え、DX人材マッチングサービスでパートナーシップを結んだ。
具体的には、リッジラインズの分析ツールを活用したDX・人材診断サービスの「DXクリニック」に、プロブスペースの人材発掘のためのコンペティションサービス「PROBSPACE」を組み合わせて、DX推進のために必要なアナリティクス人材のスキル分析や適切な人材マッチングを実現。顧客に対して最適なDXプロジェクト支援サービスを提供する。
第一弾として11月15日から、米国のNPOであるKivaの融資マッチング支援事業で融資額予測のコンペティションを開催し、高度な分析スキルを持った人材を発掘する。コンペにはPROBSPACEを活用。優勝者には賞金も提供し、集まったアイデアは公開する。参加してくれた人たちとは、懇親会なども開催して継続的な交流を図ることになる。

DX・人材診断サービスのDXクリニックは、リッジラインズのアナリティクス技術とコンサルタントのヒアリングのノウハウを組み合わせて、DXの課題と対策を診断するサービスだ。企業ごとのDXの定義、求める人材のスキル分析、フィット/ギャップの明確化とDX実現のための対策案を提示する。
今回のコンペでは、社会問題を解決するためのアイデアを出し、さらにデータサイエンティストの技術で解決策を実践できる人材が見出せると考えている。そういった人材であれば、企業の課題解決でも能力を発揮できるはずだ。もちろんリッジラインズにもDX人材はいるが、リソースは限られる。リッジラインズの中の人材を超え、フリーランスのデータサイエンティスト集団と組むことで、DXクリニックのサービスをより効果のあるものにしていくという。
大企業と外部人材の間にリッジラインズが入るメリット
リッジラインズの内部の人材強化ももちろん行う。加えて幅広い顧客ニーズに対応するため、プロブスペースとの協業のような取り組みで新たな人材を発掘し、自社のコミュニティに迎え入れる施策にも力を入れる。また、DXのためにデータレイクを構築しデータ活用ができるようにするチームなどは、リッジラインズ自身の強みとしてもともと備わっている。それらのチームと新たな人材をいかにうまくコラボレーションできるようにするかが、DXを成功に導く鍵となる。もちろん富士通本体ともコラボレーションはするが、佐藤プリンシパルは「あまり大きな構想を描きすぎると、ゴールが見えにくくなる」と指摘。そのため当面は、DXにフォーカスした人材をどう確保し活用できるようにするかを最優先に考えるという。
研究機関や大学院などにいる優秀な人材が、すぐに大企業に就職したいと考えるとは限らない。しかし、自分の能力を生かした副業の形であれば、企業活動に貢献したいと考える人は少なくない。ただ、大企業がフリーランスのデータサイエンティストを副業で雇って活用する前例はほとんどない。「フリーランスとは、契約すら難しい企業がたくさんある。大企業では内部と外部の人材が一つのプロジェクトで活動するのは容易ではない」(佐藤プリンシパル)。そこでリッジラインズが間に入り、フリーランスを取り込んだプロジェクトをスムーズに進められるようにするわけだ。その際にリッジラインズの「ニュートラリティー(中立性)」が重要になる。
DXプロジェクトでは、大規模な人材データベースを作り、スキルの“スペック”を比較してマッチングするようなアプローチはあまりうまくいかない。そのためリッジラインズでは、前述のコンペに集まるような人材の職務経歴書やSNS上での議論、会話などを集め、それらを自然言語処理しマッチングするアプローチをとるという。自然言語処理のアルゴリズムは大学などと一緒に開発しており、リッジラインズ自身もそれを活用して適切な人材活用に役立てる。
DX推進にあたっては、必ずと言っていいほど「人材不足」がキーワードに挙げられるが、エッジの効いたDX人材は国内にも大勢いるはずだ。しかし彼らは、必ずしも自分たちの能力をアピールするのが上手なわけではない。研究者などが、副業であればDXに貢献しやすいという日本の現状をうまく活用し、大企業がフリーランス人材を活用して課題を解決する。そのスキームを構築する方法の一つとして、リッジラインズのような企業が、人材の仲介役として間に入るやり方は有力な選択肢と言えるだろう。

デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の機運がこれまでになく高まっている。しかし、多くの企業は「DX人材不足」のためにDXが遅々として進まないと嘆きの声を上げる。富士通グループでDX事業をけん引するリッジラインズ(Ridgelinez)は、フリーランスを含むさまざまなバックグラウンドを持った人々に門戸を開き、顧客企業が求めるスキルを持つDX人材を発掘しようとしている。外部人材の登用を苦手とする企業と、“とがった”人材をどのようにして結びつけるのだろうか。
(取材・文/谷川耕一 編集/日高 彰)
社外に頼らざるを得ない日本企業のDX
多くの企業がDXに取り組み始めている。経営層の理解も進み、中期経営計画にDX推進を盛り込んだり、DX推進組織を立ち上げたりするケースが増えている。一方、DXを進める上で課題となるのがDX人材の確保だ。総務省が今年7月に出した「令和3年版 情報通信白書」でも、DXの現状と課題として、日本のIT人材はIT企業に偏在し人材不足が大きな問題だと指摘している。また、同じ白書の調査結果では、5割を超える企業で人材不足がDXを進める上での課題として挙げられている。DX人材確保は、企業にとって喫緊の課題なのだ。DX人材を確保するためには、外部から採用するか、社内人材を教育し育成することが必要となる。労働人口が減少する日本で5割以上の企業が不足を訴える現状では、優秀な人材の採用は容易ではない。また育成するにしても、どこから手を付けていいかが分からないという企業は多い。教育に時間がかかれば育成前に「2025年の崖」に落ちてしまうかもしれない。
また日本の多くの企業は長らく、IT人材をSI企業など外部のベンダーに頼ってきた。DXを進めるのに必要な俊敏性を得るにはシステムの内製化が必要と指摘されるが、従来の方針を転換して内部にIT人材を確保し、あらゆる情報システムの内製化を目指す変革はあまり現実的ではない。DX人材もDXに必要なIT人材も、ある程度は採用や育成で内部に確保する必要があるだろう。しかし足りない分は、適材適所で外部に頼るしかない。DXコンサルティングサービスを提供するリッジラインズでInnovation and Business Creation Practice Leaderを務める佐藤浩之・プリンシパルは「多くの企業は、社外にいる個人の能力の活用に向かわざるを得ないだろう」と話す。
リッジラインズは、富士通グループのDXビジネス専門コンサルティング会社として2020年4月に設立された。顧客に寄り添い顧客と一緒にDXのための仕組みの実装までサポートするとしている。佐藤プリンシパルが率いるInnovation and Business Creationチームは、コンサルティングによる提言で終わるのではなく、実際にテクノロジーを持ち、プラットフォーム化して新しい変革のプロジェクトを実践するところまで携わる。また、DXコンサルティングサービスでは、顧客企業におけるDXチームの構築や人材育成の提案もする。
スタートアップ企業では、高度な技術や知識を持つデータサイエンティストや、DXプロジェクトをリードできる優秀なプロジェクトマネージャーなどの確保が容易なケースもある。これは、面白そうな取り組みをしている企業には、“とがった”人材が口コミなどで自然と集まるからだ。一方、日本の大企業はDX人材の確保に苦労している。DX推進専門組織は立ち上げたものの、優秀な人材が確保できないとの声はリッジラインズにも数多く届いている。
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- ベンチャーとの協業で隠れた才能を発掘
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